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Photo byannafoucault

ブラック・フライデー

    ──美味しいコーヒーが飲みたい。
    その一心で、夏でも冬でも、片道15分かけて歩く。静かな住宅街を抜けて、人通りの多い駅前に出る。頭の中にあるやりかけの仕事から、ぺこぺこになったお腹に意識が移っていく。コンビニの2階、そこにカフェがある。

    月曜日から木曜日、僕はお弁当を持って出勤している。昼休みは1時間しかない。何を食べるか悩む手間を省いて、食費を浮かせて、食べる時間を短くしたいのだ。読書や昼寝、散歩にnoteの執筆と、隙間時間にやることはたくさんある。

    僕のお弁当生活は、断続的ではあるけれど結構長い。公務員に転職してから15年、それは結婚する前から自分で用意する”習慣”になっている。結婚披露宴では、上司が「毎日お弁当作ってきてえらい」と祝辞で紹介してくれたほどだ。

    お弁当というと、作り手によってさまざまにこだわりがあったり、信じているものがある。作り手と、その蓋を開けて食べる人にしか分からない、まさに閉じた世界があると思う(蓋だけに)。僕のように、作り手と食べる人が同じならば、それはなおさら神秘的な存在になるというものだ。

    お弁当を持参しない金曜日は、外食を選択することが多い。毎日作ることもできるけれど、たまにはラクしていいでしょと誰にともなく言い訳をして。自分で作っているから、おかずの味も知っているし、手軽な冷凍食品ばかりだと変化に乏しくて、食べる楽しさが薄れてきてしまうのだ。

    今の職場は、近所に飲食店がほとんどない。だから、お店の多い駅前まで歩かなければならない。その時間は15分。昼休みは1時間なので、往復で30分を要して、お店に滞在できる時間は最大で30分。あと少しでも遠くなってしまうと、お昼休みでは間に合わないだろう。

    数年前、「これは美味しい」としみじみ思えるコーヒーに出会えたことがあった。クリーンな飲み口なのに、しっかりとした苦味と微かな酸味があって、冷めてもすっきりと飲めた。今でも思い出せるくらい印象的な一杯だ。

    その日も金曜日で、毎週通うことができたら金曜日がとても楽しみになることに気がついた。今の職場でも、美味しいコーヒーが自慢のお店を見つけることができて、毎週のように通うことにしていた。

    以前の職場でも、歩いて15分かけてカフェに行っていた。そのカフェは自家焙煎もする専門店で、ご家族で営業されていたのもあるのか、シングルオリジンのドリップコーヒーを信じられないほどリーズナブルな価格で飲むことができた。

    同僚とランチに出かける楽しさも経験はあるけれど、ひとりでのんびりとできる時間は、ちょっとだけ旅に出たような気分になる。職場から離れ、お気に入りの場所に座るだけで、リセットされるような感覚なのだ。

    コーヒーに合うのは、やっぱりミックスサンドのようなパンだけれど、ガッツリとカレーライスもいい。安定感抜群のナポリタンの包容力だって捨てがたい。毎週、お店に入る直前に「今日はどうする?」と自分に問いかける。

    忙しかった週にはカレーが嬉しいし、その日の夜に残業が決まっている場合は、ナポリタンにたっぷり粉チーズをかける。もう来週に気持ちが向いている時には、ささっと食べられるミックスサンドを選びがちだ。

    選ぶのが苦手な僕にとって、コーヒーを飲むことがまず決まっているのは、とても気持ちがラクなのだ。どのメニューも美味しいと分かっているので、冒険もしない代わりに失敗もない。たまに、臨時休業を把握できていなくて、お店に入れないという失敗はあるけれど。

    その店のBGMは、以前は全てディズニー系だった。パレードを見ているような心境となり、それはそれは明るくてテンションが引き揚げられるような雰囲気だった。今年に入ってから、よくあるカフェのBGMになってしまったので、店にいる時の高揚感は少し薄れてしまったけれど、コーヒーの美味しさは変わっていないから、通い続けるだろう。


    その店にはケーキもある。時折、僕の大好きな「モンブラン」がメニューに載っている時があるのだけれど、それに気がつくのは会計の時で、いつも「次こそは」と思うのに翌週には姿を消している。ただ、食事をしたあとにモンブランを食べるとしたら時間が足りなくなるかもしれない…と言い訳をしておこう。


    今週も、金曜日がやってくる。




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    いつでも”平熱”のエッセイスト。穏やかな日常を素直に書いていきたい。妻と子(11歳・7歳・3歳)と、モンブランが好き。地方公務員・転職組。

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