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「中東でキャプテン翼は人気」は、どこまで本当か

    文・取材:阪本尊徳/HAYABUSA編集部

    弊社では、日本人3人で、日本のポップカルチャーをアラビア語で発信するInstagramアカウントを運営しています。調査を始めた頃のフォロワーは約500人。その約8割がUAE、サウジアラビア、クウェートの人たちでした。

    この人たちに、好きな作品や買い物のことを直接聞いたら、どんな話が出てくるのか。普段の投稿への反応だけでは分からないことを、もう少し聞いてみたい。それが今回の取材のきっかけでした。

    キャプテン翼を選んだのは、「中東で日本のコンテンツは人気がある」という話で、代表例として挙がる作品だからです。その代表例で確かめれば、ほかの作品を考えるときの物差しにもなると思いました。

    聞きたかったのは一点です。

    「人気がある」と言うとき、それは誰のことなのか。

    40代に人気なのか、15歳に人気なのか。名前を知っているのか、見たことがあるのか、今もお金を払っているのか。ここが分からないと、商品も価格も売り場も決められません。

    今回は、以下のような形で話を聞きました。

    • 時期:2026年9月

    • 人数・方法:33人。Zoomでの聞き取り12人、InstagramのDMなどのテキストでのやりとり21人。短い回答も含みます。

    • 募集経路:弊社のInstagramなど。主にアラビア語でやりとりしました。

    • 地域:UAE・クウェートなどの湾岸諸国、ヨルダン・パレスチナ、北アフリカなど。日本在住者も含みます。

    ※日本のコンテンツに関心のある人が中心で、聞き取りの深さにも差があります。地域全体の傾向や割合を示す調査ではありません。発言は取材記録をもとに、日本語で要旨を掲載しています。

    1:「みんな知っている」の中身

    調査の参考にしたジェトロのレポート「中東のアニメイベントを歩く(1)アブダビ、ドバイ(UAE)」には、若年層の日本アニメへの関心と、『キャプテン翼』など長く親しまれてきた作品への根強い支持が紹介されています。

    若い人の関心が高いことと、昔からのファンがいることは、両立します。ただ、その若い人たちもキャプテン翼を見ているのか。レポートを読んで気になったのは、そこでした。

    最初に印象的だったのは、ある女性とのDMでした。「キャプテン・マジド」というアラビア語名だけでは伝わらず、画像を見せると分かってもらえました。その直後に、こう返ってきます。

    知らない人なんていない。

    強い言い方でした。ところが、その後にはこう続きます。

    知っているのは古い世代の方が多い。私は少し新しい世代だから、放送していた時期には間に合わなかった。

    最初の返事だけなら、「やはり広く知られている作品なのだ」と、そこで話が終わっていたかもしれません。でも、彼女自身の視聴体験に話が移ると、作品との距離は少し違って見えてきます。

    UAEの20歳の回答者は、子ども向けチャンネルのSpacetoonで、5〜10歳頃に見ていたと話しました。最後に見たのもその頃。キャプテン翼のグッズは買ったことがなく、いま好きなのは『ONE PIECE』や『HUNTER×HUNTER』でした。

    一方、クウェートの38歳男性は、幼い頃からアニメを見て、今もマンガを追っています。シリーズの中では『キャプテン翼J』が一番だと言い、アニメーション、演出、音楽まで理由を挙げてくれました。

    同じ「知っている」でも、名前や姿を知っている人、子どもの頃に見ていた人、今も作品を追っている人がいます。「人気がある」という一言では、この違いが見えません。

    2:話すときはマジド、探すときはツバサ

    呼び名の話は、商品にも直結します。

    アラビア語版では「キャプテン・マジド」という名前で親しまれてきました。ところが今回、若い世代は「ツバサ」と呼ぶ、という話が複数の人から出てきました。

    ヨルダン出身の27歳の回答者は、世代による違いについて、30歳以上は「マジド」、17〜20歳前後は「ツバサ」と、かなり具体的な見方を話してくれました。

    さらに踏み込んだ話をしてくれたのが、UAE在住の女性コレクターでした。

    彼女は小学生の頃、ラマダン中に学校から帰って、キャプテン翼の放送が始まるのを待っていたそうです。今も古いシリーズを見返し、「マジド」と呼んでいます。

    ところが、グッズを探すときには名前が変わります。

    話すときはマジド。でもカードやフィギュアを探すときはツバサで検索する。アラブ圏の中ならマジドでいいが、ほかの国から取り寄せるならツバサでないと出てこない。

    会話ではマジド、検索ではツバサ。同じ人が、場面によって使い分けていました。

    逆に、アルジェリアの回答者には「マジド」という名前では伝わらず、画像を見せてようやく、

    キャプテン・マジドってキャプテン翼のことか。

    と分かってもらえた例もあります。

    現地名で覚えている人もいれば、元の名前の方が通じる人もいる。さらに、覚えている名前と、買い物で使う名前が違う人もいる。商品名や検索語を考えるときに、「アラビア語圏だからマジドで」と一つに決めると、この使い分けを取りこぼしてしまいます。

    3:詳しいファンが、見続けているとは限らない

    DMで長く話してくれたある回答者(クウェート🇰🇼・50代男性)は、昔のアニメやゲームにとても詳しい人でした。翼がバルセロナでプレーする場面や、日向のユヴェントスの話まで出てきます。

    それほど覚えているのに、アニメは『ROAD TO 2002』を最後に見るのをやめた、と言います。理由を聞くと、こんな話になりました。

    子どもの頃の話ばかり何度も作り直されて、原作のように最後まで描いてくれなかった。

    そして、グレンダイザーと比べてこう続けます。

    グレンダイザーの方が上だ。あれは完結したし、何度見ても飽きない。マジドは終わらなかった。作品に対して失望を感じさせられた。

    この人にとっては、見たかった続きを見られなかった、という思いが残っていました。

    この人は好きなアニメを26本も挙げてくれましたが、そのリストにキャプテン翼は入っていませんでした。ところが後から、『新キャプテン翼』は別枠で加えたい、と付け加えてくれます。作画や、ジュニアユースの大会で戦う展開が好きだったそうです。

    「キャプテン翼が好きか」と尋ねるだけでは、こんな答えは出てきません。好きだったシリーズがあり、不満が残ったシリーズもある。詳しさの中に、その人なりの評価がありました。

    また、昔の効果音や声優、主題歌には思い出が結びついていて、旧作の方が好きだとも話していました。

    日本では2018年に新たなテレビアニメが放送され、2023年10月には『シーズン2 ジュニアユース編』も始まっています。ただ、「新しいシリーズがある」という情報だけでは、この人が見たいものを説明できません。新しく作られた映像を見たいのか、昔の声や音楽をもう一度楽しみたいのか、それとも、途中まで見た物語の先を知りたいのか。

    キャプテン翼の話をしているはずが、いつの間にか「どのキャプテン翼が好きなのか」という話になっていました。

    欲しい商品が、近くで見つからない

    買い物の話に移ると、複数の国で似た声が出てきました。ここからは、キャプテン翼に限らず、アニメグッズ全般について聞いた話も含みます。

    リビアの首都トリポリに住む回答者は、アニメグッズの専門店について、こう話しました。

    指で数えられる程度。

    本人が挙げたのは4〜5軒ほどでした。商品を買ったことはあるものの、期待していた品質ではなかったそうです。海外からの輸入も、送料が加わると若者には高い、と話していました。

    ほかにも、こんな話がありました。

    • アルジェリアの20代女性は、近くに専門店がなく、遠出が必要だと話しました。身近な購入手段として挙がったのは、InstagramやFacebookで販売する個人です。

    • パレスチナの23歳女性は、専門店を見つけにくく、海外ECや、ヨルダンから仕入れる個人を通じて買う人がいる、と説明しました。

    • モロッコの21歳男性は、国内の店舗やECでTシャツなどを購入しています。ただ、店は大都市に限られていて距離があり、フィギュアは高くて手が出ないと話しました。

    いずれも回答者の生活圏や経験についての話ですが、買いたいと思ったとき、すぐ近くに欲しい商品があるわけではないようです。

    その一方で、自分で日本まで買いに来ている人がいました。

    先ほどのクウェートの38歳男性は、2017年と2019年の訪日時に、グッズの大半を買ったそうです。Tシャツ、ボール、フィギュア、メダル、サイン入りグッズ。地元のクウェートではキャプテン翼の商品を扱う店をほとんど見つけられず、手元のコレクションの多くが日本からの直接購入でした。

    UAEの女性コレクターは、日本の購入代行サービスBuyeeを月2回ほど利用していると話しました。取材の2日前に届いたというのは、『鉄腕アトム』のフィギュアです。日本のアニメグッズを海外から買うことが、すでに日常になっていました。

    ここで見えてきたのは、すでに日本から買っているお客さまの姿です。

    現地の売り場に商品が少なくても、買っている人がいないとは限らない。訪日中の買い物や、海外からの取り寄せまで聞いていくと、「中東のファン」の中に、すでに日本の商品を繰り返し購入している人がいました。

    コナンが一番好きな人は、キャプテン翼にもお金を使っていた

    カタール在住の42歳男性は、いま一番好きな作品として『名探偵コナン』を挙げました。もともとはキャプテン翼が一番で、コナンを見始めてから順位が変わったそうです。

    では、キャプテン翼から離れたのか。聞いてみると、スマートフォンのキャプテン翼のゲームを約8年前から続けていると話しました。現在はPS5でもキャプテン翼のゲームをプレイしているようです。

    フィギュアや雑誌も持っています。しかも、取材の約1週間前にも関連商品を買ったそうです。

    一番好きな作品は変わっていても、キャプテン翼との付き合いは、ゲームでもグッズでも続いていました。「いま一番好きなアニメは何ですか」という質問だけなら、この支出は聞き逃していたかもしれません。

    日本の会社にとって、何が判断材料になるか

    今回の話を、商品化や海外展開を考える側から見ると、気になったのは次の3点です。

    1. 「知っている」の先に、いま何をしている人なのか

    子どもの頃に見ていた20歳の回答者と、日本までグッズを買いに来る38歳のコレクターは、どちらもキャプテン翼を知っています。でも、同じ商品を同じ理由で買う人たちとは考えにくい。最後にいつ見たか、最近何を買ったかまで聞くと、その違いがはっきりしました。

    2. 親しんでいる名前と、商品を探す名前を分けて考えること

    「マジド」と呼びながら「ツバサ」で検索している人がいました。呼び名を一つ聞くだけでは、その人が買い物で使う言葉までは分かりません。

    3. 好きな作品が分かっても、欲しい商品の形はまだ別の話であること

    オマーンの21歳の大学生は、家にドラゴンボールのグッズがあると話した一方、これから買うなら絵やポスターの方がいい、と言いました。

    フィギュアは、作品をちゃんと表していない気がする。それに高い。

    学生で使えるお金が限られるという話に加え、本人には商品の表現への好みがありました。

    立体物について、宗教的な理由で買わない人もいる、という指摘も別の回答者から出ました。一方で、今回やりとりした人の中にはフィギュアを集めている人も複数います。作品名や国名が同じでも、何を部屋に置きたいか、何にならお金を出したいかまでは同じになりません。

    弊社として見ているもの

    弊社はUAE・首都アブダビを拠点に、日本のコンテンツや商品を現地の人に届ける取り組みを進めています。この調査も、その一部です。「中東で人気がある」という言葉を、何を、誰に届けるのかという話まで具体的にしたいと考えています。

    今回、キャプテン翼について聞くだけでも、答えはずいぶん違いました。昔見ていたけれど今は別の作品が好きな人。続きを見たかったという不満を覚えている人。コナンが一番好きでも、キャプテン翼のゲームやグッズにお金を使っている人。

    日本の作品が過去に中東で放送されていたなら、そのときの視聴者は、いまどこで何を楽しんでいるのか。どんな名前で商品を探し、最後に何を買ったのか。ほかの作品についても、こうした話を聞いていきたいと思っています。

    中東での商品展開について、情報交換できればと思っています

    日本のアニメ・マンガのキャラクター商品について、中東での商品化や販売を担当・検討されている方と、現地のファン像をどう捉えるか、情報交換できればと思っています。

    この記事を読んで、自社の作品でも確かめてみたいことがあれば、ぜひお聞かせください。

    メール:yahyokholmonov@halal-gateway.com

    取材・参考資料

    公開資料の確認日:2026年9月30日

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