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飲めない人ほど、砂糖で肝臓が壊れるかもしれない

    自分、ビール一杯で顔が真っ赤になるタイプだ。

    学生の頃からそうで、飲み会では最初の乾杯で終了。体質的に酒が合わないとわかっているから、もう無理して飲まなくなった。おかげで肝臓については心配したことがなかった。健診のγ-GTPも毎年一桁。
    「飲めない体質だから、肝臓だけは大丈夫」

    ずっとそう思っていた。

    普段は甘いものもそこまで食べない。でも、たまに糸が切れたみたいにドカ食いする。疲れが溜まった週末にコンビニでシュークリームとカフェオレを買い込み、一人で全部平らげるような日がたまにある。酒を飲まない代わりだと思って、あまり気にしていなかった。

    2026年3月、Cell Metabolismに出た論文でその前提を疑うことになった。

    砂糖の摂りすぎが肝臓に悪いこと自体は、知られている。想定外だったのは、その経路だ。

    酒を飲んでいないのに、腸内細菌がアセトアルデヒドを作っていた

    アセトアルデヒドは、酒が分解される途中でできる物質だ。顔の赤みや動悸、吐き気などに関わり、発がん性もある。

    日本人の半数弱は、この物質を処理する力が生まれつき弱い。自分のように、少量の酒ですぐ顔が赤くなりやすいのもそのためだ²⁾。

    ところが今回の研究では、腸内細菌が糖、特に果糖からアセトアルデヒドを作っていた。

    酒を飲んでいなくても、酒の代謝で生まれるのと同じアセトアルデヒドが腸で作られ、肝臓へ届く。

    自分の外来でも「飲めないんで肝臓は大丈夫です」と笑う患者さんは多い。この研究を読んだあと、そのうちの何人かの顔が浮かんだ。全員、お酒は飲まないけど重度の脂肪肝があった。

    こういう患者さんは、実は珍しくない。脂肪肝は長いあいだ酒飲みの病気というイメージだったが、いま増えているのは、酒をほとんど飲まない人の脂肪肝だ。「非アルコール性脂肪肝」と呼ばれてきたタイプで、世界では、この30年ほどで成人の4人に1人から3人に1人超へ増えた⁸⁾。日本でも、飲酒量の多い人などを除いた健診受診者のおよそ3割、男性に限れば4割にみられた⁹⁾。

    原因は食べすぎ、運動不足、体質などいくつも重なる。その中でも特に大切なのが、砂糖や果糖ぶどう糖液糖のような精製された糖質だ。WHOも砂糖などの遊離糖類を、1日のエネルギーの10%未満に抑えるよう勧めている¹⁰⁾。

    そのアセトアルデヒドが肝臓に傷跡を増やしていた

    砂糖入り飲料を余分にとると、肝臓にたまる脂肪が増える。これは人を対象にした研究でも知られている³⁾。

    今回の研究が新しく示したのは、その先だった。研究チームは、脂肪と果糖を多く含む食事をマウスに与えた。

    アセトアルデヒドを分解しにくいマウスでは、通常のマウスより肝臓にアセトアルデヒドが多くたまった。

    別の実験では、同じ食事を与えながら、肝臓だけでアセトアルデヒドを分解する力を弱めた。すると炎症が強まり、肝臓に傷跡がたまりやすくなった¹⁾。

    肝臓に傷跡が積み重なり、少しずつ硬くなる変化を線維化という。進むほど、肝硬変や肝細胞がんにつながるリスクが高くなる⁴⁾。

    砂糖は肝臓に脂肪をためるだけではない。腸内細菌が糖から作ったアセトアルデヒドが、その脂肪肝の線維化を進めていた。

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    本当に腸内細菌が関わっているのか

    一つ目の実験では、抗菌薬を使ってマウスの腸内細菌を大きく減らした。脂肪と果糖を多く含む食事を続けても、肝臓の線維化は著しく弱まった¹⁾。

    次に、腸内細菌を残したまま、作られたアセトアルデヒドだけを減らした。アセトアルデヒドを分解できる乳酸菌を遺伝子改変で強化した。かなり乱暴に言えば、「アセトアルデヒドを食べる菌」だ。

    この菌をマウスへ投与しても、線維化の進行が抑えられた¹⁾。

    腸内細菌を減らしても、腸内で作られたアセトアルデヒドを分解しても、線維化は弱まった。

    二つの方法で同じ方向の結果が出たことで、腸内細菌が作るアセトアルデヒドが原因候補としてかなり絞られた。

    どちらもマウス実験だから、人の脂肪肝に抗菌薬を使ったり、今売られている乳酸菌に同じ効果を期待したりできる段階ではない。

    人の腸内細菌も、糖からアセトアルデヒドを作るのだろうか

    研究チームは、人の便も調べた。便には、その人の腸内細菌が含まれている。

    進んだ脂肪肝の人の便に糖を加えると、アセトアルデヒドが多く作られた¹⁾。人の腸内細菌でも、同じ反応が起きるみたいだ。

    英国の約21万人の研究では、糖を多くとる人ほど、肝臓の病気による死亡が多かった¹⁾。ただ、糖を多くとる人は体重や食事全体、運動習慣も違う。この結果だけで砂糖が原因だったとは決められない。今回の研究では、人で「酒に弱い体質ほど、砂糖による肝障害が起きやすい」とまでは確かめられていない。

    糖を減らせば線維化を防げるのか。「アセトアルデヒドを食べる菌」が人でも効くのか。そこもまだ試されていない。

    ここを混ぜると、面白い研究が一気に健康商材の宣伝になる。

    この結果を読んで、外来でよく会う患者さんのことが浮かんだ。酒は飲まない。目立って太っているわけでもない。γ-GTPも正常。それでも数年前から脂肪肝を指摘され、詳しく調べると線維化を疑う所見が出ていた。

    「なんで悪化しているんですかね」と聞かれ、生活を聞き直すと、毎日エナジードリンクを1本。午後にはペットボトルのカフェオレを1本飲んでいた。

    本人は「酒も飲まないし、タバコもやめたし、健康には気をつけているつもりだった」と話していた。

    この事例の原因を一つに決めることはできない。ただ、酒を飲まなくても脂肪肝は起きる。糖が腸内細菌を介して線維化に関わる可能性もある。

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    東大医学部卒の総合内科・呼吸器専門医。医学博士。経営者のパーソナルドクター。NewsPicks公式の健康番組にレギュラー出演。HALEO最高科学・医療顧問。外来では話しきれない健康の話を、論文だけでなく自分でも試して、失敗まで書いています。深掘りはDr.もさりラボで。

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