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運動を休むと体力はどこまで落ちるのか|長年鍛えた医者が、けがで1か月走れなくなって調べたこと

    出張が続いたり、けがをしたり、家族の予定が重なったりして、トレーニングがしばらくできない時ってありますよね。

    せっかく積み上げたものが失われてしまうのではないかと、不安でいてもたってもいられないことがあると思います。

    実際、久しぶりに走ると、いつものペースなのに息は上がるし、心拍数も高くなります。自分にも、膝をけがして1か月ほど走ることもバイクをこぐこともできず、有酸素が全くできない時期がありました。それまで長年休まずに積み上げてきたものがこれでパァかと思うと、めちゃめちゃ憂鬱でした。

    でも、1か月後、走ってみたら、意外と走れました。けがの前に10kmを1キロ5分くらいで走っていたのが、1キロ5分半くらい。Garminで測定したVO₂maxは、けがの前の58から52に落ちていました。もちろん落ちたけど、そこまで落ちなかった、と思いました。

    実際どうなのか詳しく調べてみると、体のいろいろな能力の落ち方には、かなりばらつきがあることも分かりました。休む期間によって失われる能力が違うし、長年トレーニングを積んできている人と、まだ始めて数か月の人では全然違うのです。

    この記事では、運動をしないと体の中で何がどう変わるのかと、どれくらい休んでも大丈夫なのかをまとめました。忙しい時期にトレーニングをどう減らして、何を残した方がいいのかも書いています。

    血糖への効果は、動かないとすぐ失われる

    休んで最初に変わるのは、血糖の処理です。

    普段からよく動いている人たちが、1日の歩数を約13,000歩から約4,300歩に減らした研究があります。たった3日で、食後1時間の血糖の上がり幅が、ほぼ2倍になっていました¹⁾。血糖の変動は血管を傷つけ、色々な病気の元になると言われていますので、上がり幅2倍はめちゃくちゃでかいです²⁾。

    よく鍛えられた人たちが、10日間運動を休んだ研究もあります。心肺機能や体重はほとんど変わりませんでしたが、血糖を下げる力は落ちていました³⁾。

    血糖を下げるホルモン(インスリン)が、休む前の2倍出ているのに、血糖は休む前より高いままだったのです。インスリンが効きにくくなっていた、ということです。

    ところが、11日目に1回運動しただけで、ほぼ元に戻りました³⁾。

    運動の量でも差が出ました。50代前後の人たちが8か月運動を続けてから、15日休んだ研究があります⁴⁾。

    週3時間あまり運動していた人は、15日休んでも、血糖を下げる力が運動前より良いまま残っていました。週2時間ほどの人は、運動を始める前に戻っていました。

    血糖のコントロールは、動かないとすぐに悪くなります。ただ、運動量が多い人は、少しだけ貯金が多めです。

    悪くなるのも早いですが、戻るのも早いです。だから、できる範囲で体を動かすのが大事ですね。食後に10分歩くだけでも、食後の血糖の上がりは抑えられます⁵⁾。インターバル速歩でも、出張中ならホテルで自重のスクワットでも、何でもいいです。

    心肺機能については、もう少し複雑です。休んでいる間に何が変わっていくのでしょうか。

    2週間休むと、血液が減る

    心肺機能は、VO₂maxという数字で測ります。Apple WatchやGarminが推定値を出している数字で、筋トレで付けた筋力とは別のものです。

    VO₂maxは、全力に近い運動をした時に、体が取り込んで使える酸素の最大量です。酸素が体の中で使われるまでには、4つの段階があります。

    • 肺で酸素を取り込む

    • 心臓のポンプで血液を送り出す

    • 血管を通って全身に運ぶ

    • 筋肉のミトコンドリアが酸素を使ってエネルギーを作る

    肺だけ強くてもだめで、心臓や筋肉だけ強くてもだめです。「肺×心臓×血管×筋肉のミトコンドリア」の掛け算で、全身がどれだけ酸素を処理できるかを測った数字が、VO₂maxです。

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    休むと、この4つが同じ速さで落ちるわけではありません。最初に減るのは、心臓が送り出す血液の量です。血液そのものが減るからです。

    ランニングや自転車を続けていた男性たちが、2〜4週間トレーニングを休んだ研究があります。休んだ後、運動中に体を回っている血液の量は約9%減っていました。量にすると約5.2Lから4.7Lへ、500mLのペットボトル1本分です。そんなに減る!?と驚きました。

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    ほかにも、こう変わっていました。

    • 心臓が1回に送り出す血液の量:12%減

    • VO₂max:6%低下

    • 同じ強さで運動した時の心拍数:11%上昇

    ここで研究者は、点滴で血液の量を鍛えていた時と同じまで戻してみました。すると、心臓が1回に送り出す血液の量も、VO₂maxも、心拍数も、ほぼ鍛えていた時の値に戻りました⁶⁾。

    そういえば、マラソンの選手が自分の血を抜いて貯めておき、レースの直前に戻す「血液ドーピング」という手があると聞きます。禁止されているのも納得で、これだけのインパクトがあるなら、確かに直前に自分の血液を増やすのは効果があるんだろうなと思いました。

    つまり、数週間休んで落ちた分の大半は、心臓の力が落ちたからではなく、血液が減って、心臓に戻ってくる血液が足りなくなったからでした。血液を戻せば、心臓は鍛えていた時と同じだけ送り出せたのです。これが著者らの結論です⁶⁾。心臓そのものが変わるのは、もう少し後です。久しぶりの運動で心拍数が高くなるのは、変化が早い血液の量が減っているからです⁶⁾。

    逆に、鍛え始めて数週間で体力が上がるのも、主に血液が増えるからです。運動習慣のなかった人たちが6週間鍛えた研究では、こうでした⁷⁾。

    • 血液の量:7%増

    • VO₂max:10%上昇

    • 増えた分の血液を抜いて元に戻すと、VO₂maxも8%下がった

    鍛えて上がる時も、休んで落ちる時も、早く変わるのは血液の量です。運動を1か月くらいでやめてしまうと、すぐに元に戻ってしまうのも、これで説明がつきそうです。では、1か月、3か月と休みが延びると、次に減るのは何でしょうか。

     
     
    東大医学部卒の総合内科・呼吸器専門医。医学博士。経営者のパーソナルドクター。NewsPicks公式の健康番組にレギュラー出演。HALEO最高科学・医療顧問。外来では話しきれない健康の話を、論文だけでなく自分でも試して、失敗まで書いています。深掘りはDr.もさりラボで。

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