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🌈虹の橋を架ける者たち 10


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    10話 時を越える風ー始まりの空へ


     黒い裂け目は、夜明け前の暗闇の中に、音もなくそこに在った。

     それは、空間を切り裂いたような鋭い傷ではない。
    黒でもなく、闇でもない。
    それは、色の概念や、光の粒子すらも拒否するかのように見える、“時間がほどけた痕”だった。
    世界の織物が、縦糸と横糸を失い、ぼんやりとした虚無の空間を覗かせている。
     空間が裂けているというより、そこだけ、世界の営み、呼吸そのものが止まっているように見えた。

    「……ここだよ」

     アルジェリーナの声は、いつもの挑戦的な調子を潜め、珍しく低く、緊張に満ちていた。

    彼女の翼の羽毛が、かすかに逆立っている。

     裂け目の周囲の空気は、不自然なほど静かだった。

    「風が、歪んでる」

     レオンが、その異様さを指摘する。
    彼の肌が、空間のねじれを直感的に感じ取っている。
    周囲の風は、上へも下へも流れず、ただ、裂け目の縁に沿って、ゆっくりと渦を巻くように留まっていた。

    「……星図が、逆に回っています」

     ホズミは、胸元の星図の石を見つめた。
    通常、未来へと進むべき光の軌跡が、その石の中では過去へと遡行するように反転して映っている。
    彼の声は、恐れよりも、絶対的な法則を前にした科学者のような、静かな興奮を帯びていた。

    レオンが、一歩、裂け目に近づいた瞬間――

     ガツン、という音はない。
    ただ、周囲の世界の色が、視覚的にわずかに薄れた。
    音と光が、裂け目に吸い込まれ始めている、その前兆だった。

    「来るなら、今だ。」

           風が告げる


     アルジェリーナは、振り返らなかった。
    彼女は、目を閉じ、全身で裂け目から放たれる「助けを求める風」を捉えている。

     最初に、彼女が、決然と虚空の裂け目へと足を踏み出した。
     彼女の姿が、光を失い、輪郭を曖昧にしていく。
     次いで、レオン。
     彼はホズミと視線を交わすことなく、ただ一言、「行くぞ」とだけ告げ、強固な決意を込めて跳躍した。
     最後に、ホズミが、静かに目を閉じた。
    彼のハリネズミの体は、この旅の仲間の中で最も小さく、最も繊細だ。
    だが、その胸の内に宿る意志は、何よりも強かった。

    「……どうか」

     彼は、星図の石を両手で包み込むように握りしめる。
    石が、淡い光を放ち、ホズミの全身を包んだ。

    「この旅が、
    誰かの希望になりますように」

     その願いを込めた瞬間、裂け目が、三人を完全に包み込んだ。

     音が…消えた。


     世界から、あらゆる振動と周波数が引き抜かれたかのような、絶対的な無音。
    それは、耳が聞こえないというより、耳そのものの存在意義がなくなったような感覚だった。

     次に来たのは、重力の感覚の喪失。

     レオンは、自分の足が地についているのか、宙に浮いているのかも分からなかった。
    体の向きも、前後左右もすべてが曖昧になり、ただ意識だけが、薄い膜の上に浮かんでいるようだった。
     時間が、前にも後ろにも流れなくなった空間。

    「……っ!」

     アルジェリーナの羽が、全身の感覚を失う中で、唯一の支点として力強く震えた。

     目の前に、無数の光の筋が走る。

     それは、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫――彼らが世界に架けたはずの七色の光だ。

    その光が、空間の中で絡まり、ほどけ、また重なっていく。
    時間の糸のように、過去と未来の可能性を編み上げていた。

    「……虹だ」

    レオンが、乾いた喉で呟いた。

    「……いいえ」

     ホズミは、声を絞り出した。

    「これは、
    “まだ名前を持たない光”です。
    虹の橋になる前の、純粋な可能性の光……時の流れそのものです」

     そのとき、空間の深奥から、風が突然、逆巻いた。
     それは、彼らの侵入を拒む、時間の抵抗だった。
     風は、ただ物理的に吹き荒れるだけではない。
    それは、三人の意識の最も弱い部分を探り、容赦なく抉り出す。

     後悔。
     恐れ。
     あの時、選ばなかった未来。

     それぞれの胸に、かつて置き去りにした感情が、幻影となって容赦なく浮かび上がった。

    「……くそっ」

     アルジェリーナは、過去の幻影に飲み込まれるまいと、歯を食いしばる。

     彼女の脳裏に、飛ぶことを選べなかった、故郷の空がよぎる。
    しかし彼女は、飛べる翼を、今も広げなかった。

    「あたいは――逃げない。
    地面を歩くと、決めたんだ」

    「……いい目だ」

     レオンは、自身の過去の痛みに耐えながら、アルジェリーナの背中に手を伸ばす。
    彼の手が、少女の羽の根元に触れた。

    「繋がれ。
    この先の世界を、一人で行かせはしねぇ」

    「……わたくしも」

     ホズミも、小さな体を震わせながら、レオンの尻尾の付け根を強く握りしめた。

     三つの意志が、種族も、大きさも、役割も超えて、確かに、ひとつになった。

     彼らの強固な繋がりが、時の奔流に対する唯一の抵抗となった。

     その瞬間、裂け目が、静かにほどけた。


       風が、変わった。


     次に感じたのは、体全体を包み込むような、明確な温度だった。


     冷たくも熱くもない。
     ただ、やさしい。
     そして、嗅覚が蘇る。
     懐かしい土と草と、清らかな水の匂い。


     三人は、重力に導かれるように、同時に、柔らかな大地に膝をついた。
     ホズミは、そっと目を開く。
    レオンは、全身でその場の気配を感じ取り、アルジェリーナは、羽毛を通して大気の情報を読み取る。

       そして――

       顔を上げた。


     そこに広がっていたのは、一度も見たことのない、かつてのオーロラランド。

     空は、澄み切った、深く透明な青。
     雲は、手の届きそうなほど近く、ゆっくりと流れている。
     光は、柔らかく大地を抱き、色あせることなく、すべての生命を照らしていた。
     森は深く、木の葉は風に揺れ、その葉の一枚一枚から生気が溢れている。
     川は、歌うように、豊かな水をたたえて流れていた。
     そして、生命の樹。

     今、彼らが置いてきた、傷ついた巨木とはまるで違う。
     まだ深い傷を負っておらず、堂々と、その梢を天へ伸ばしていた。

     その梢から零れ落ちる淡い光は、空気そのものをきらめかせ、すべてが生命の喜びに満ちていた。

    「……美しい……」

     ホズミの瞳から、思わず涙がこぼれた。

    「……これが」

     レオンは、警戒するのも忘れ、ただただその光景を胸に焼き付ける。

    「守られていた、世界か」

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    「……」

     アルジェリーナは、言葉を失っていた。
    彼女の目には、この完璧な空の青が、涙で滲んでいる。

     風が、彼女の羽毛をそっと撫でた。
     その風は、
     泣いていなかった。
     ただ、
     生きていた。
     遠くで、誰かの笑い声がした。
     まだ、何も壊れていない時間。
     まだ、選択が、間に合う世界。

     三人は、並んで立ち、その景色を、胸に、魂に、深く刻み込んだ。

     これから起こる出来事を、彼らはまだ知らない。

     だが、確かに理解していた。
     この場所から、
     彼らの真の、新しい物語が始まるのだと。
     風が、静かに吹いた。
     それは、

     過去から未来へと、世界を正すための、
     一本の道のように、優しく、長く続いていた。



    🌈
    ここに――
    『虹の橋を架ける者たち』は、
    静かに幕を下ろす…   完結。

    そして、3人の物語は、
    「過去と未来を繋ぐ者たち」へと続く‼️



    🌈虹の橋を架ける者たち 完結です。

    さて次回からは〜

    🌠過去と未来を繋ぐ者たち へと続きます。

    わし(ムヒ)のnoteだけが知っている😁


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    2人の冒険はここから始まった‼️

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