
解釈を180度翻す|【HUNTER×HUNTER】絶対的暴君“メルエム”の尊き愛
※本記事は『HUNTER×HUNTER』キメラアント編の重大なネタバレが炸裂。
未読の方はただちに撤退を。
「こんなやつ、絶対に好きになれるはずがない!」
人類のだれもがそう確信していたのに、気づけば解釈が天と地ほどにひっくり返されているキャラクターが存在する。
そう、HUNTER×HUNTERの絶対者“メルエム”である。
彼ほど感情を極限まで翻弄し、好感度をマイナス100万から『世界で最も尊い者』へと引き上げた存在を、私は他に知らない。
残虐な怪物を『世界で一番優しい心』を持つ者へと変貌させたものは何だったのか?
好感度『マイナス100万』:絶対的な人類の敵として誕生した王
生まれたその瞬間から彼は『王』であり、その精神には1ミリの慈悲も存在しなかった。
残虐
傲慢
理不尽
絶対的自己中心主義
ひとことで表すなら『絶対的な人類の敵』。
実の母親である女王の“愛”すら一蹴し、その胎内を自ら切り裂いて降臨した狂気の誕生。
そこにあったのは『種としての絶対的本能』のみであり、他者への感情など皆無。
役に立たぬ。
気に食わぬ。
少しでも気に障れば配下すら一瞬で消す。
ほんの少し、1ミリでも間違えば躊躇なく殺す。
間違いなく「好きになれる余地などゼロ」と言い切れるほど、完璧な悪の象徴だった。
メルエムが最初から持っていた『人間性の芽』
だが、メルエムには最初から恐ろしいほどの『仕掛け』が施されていた。
それは『他者の言葉を素直に聞き入れる器』だ。
間違った答えを出せば即座に命を奪うが、問いに対して理にかなった的確な解答が返ってくればちがった。
「そうか」
「こうか?」
と、意見を否定せずにあっさりと受け入れる。
並の悪役や傲慢な暴君であれば、他者の意見を聞き入れる「器」すら持たない。
自身の自我のみで世界を踏みにじるため、好感度が上がる余地など永遠に訪れない。
しかしメルエムには、その『受容の器』があらかじめ備わっていた。
この時点で私は「……ん? 意外と素直か……!?」と、無意識のうちに魂を揺さぶられ始めていたのだ。
盲目の軍儀王者・コムギとの遭遇
その器に満たされたのが、盤上競技『軍儀』の世界王者である盲目の少女“コムギ”だった。
メルエムはあらゆるゲームの頂点を蹂躙し、己の絶対性を証明してきた。
だが、コムギには勝てなかった。
「弱き存在に勝てない」という事実に対する苛立ちを抱えつつも、メルエムは彼女の圧倒的な強さを直感的に“認めて”いた。
『軍儀』以外になにもない自分は、負ければ存在する価値のないゴミになる。
コムギはそう語り、対局には常に『己の命』を賭けている。
コムギはには死への恐怖すら存在しない。
メルエムがこれまで人間から受けてきたものは『敵意・恐怖・絶望・媚びへつらい』のいずれかであった。
しかし、コムギにはそのどれもが存在しなかった。
コムギはメルエムを「総帥様」と呼ぶが、その本質においてはただひとりの『対等な棋士』として彼を見ていたのだ。
メルエムが初めて体験した『人間の感情の閃光』。
ここから世界線は不可逆な変化を遂げる。
『名前』という記号の超越、理屈を凌駕した心『心』
メルエムには『名前』がなかった。
生まれた瞬間から『王』であり、だれかに名前を呼ばれる必要性すらなかったからだ。
だが、メルエムはコムギに『名前』を尋ね、そして問い返されたことで初めて『己という存在の名前』に意識を向ける。
しかし、自分は『王』。
メルエムは、なぜ一目置くべきでもない人間に心を奪われているのかが理解ができない。
「なぜ名前を聞いたのか」
「なぜこんなにもどかしいのか」
葛藤の末、メルエムは『王』である自分が絶対的な存在であると信じ『暴力こそ最も強い』と己に言い聞かせ、理解不能な感情を抹消するためにコムギの殺害を決める。
しかし、鳥に襲われるコムギを目撃した瞬間、メルエムの身体は思考よりも先に動いていた。
頭では「殺す」と決断していたはずの理性が、心によって拒絶された瞬間。
理屈を超えてコムギを案じる声が漏れ出たそのとき、メルエムは既に『人間性』を獲得していたのだ。
記憶を失くしても、『心』はコムギを忘れなかった
ネテロ(ハンター協会の会長)との決死の激闘を通じ、メルエムはついに己の名を知る。
だが、ネテロが放った人類の悪意の結晶により、瀕死に追い込まれ、その記憶すらも喪失してしまう。
しかし、配下であるウェルフィン(人間の時の記憶を持つキメラアント)が口にした、たったひとつの言霊…
「コムギ?」
そのひとことが、失われた記憶の全領域を瞬時に再構築した。
王としての覇道も宿命もすべてを投げ打ち、メルエムはただ『コムギと軍儀を打つこと』だけを望んだのだ。
死の淵で魅せた『圧倒的敬意と尊重』
自らの肉体が毒に侵され、残された時間がわずかであることコムギに告げないつもりだったかもしれない。
そこには『コムギに拒絶されたくない』という恐れもあったのではないかと…
だが、「こんなに幸せでいいのでしょうか」と言うコムギに、真実を告げた。
自分の命の灯火が消えかける中、コムギと最後の軍儀を打ちたいという己の『エゴ』だけで、なにも知らない彼女を死の毒に巻き込むわけにはいかない。
この判断にこそ、メルエムが手に入れた『他者への最大級の敬意と尊重』が凝縮されているように感じた。
盤上で完成された、世界で最も美しい『ふたりの一手』
かつて出会った初期の対局で、メルエムが勝利を確信して打った一手。
しかしそれはコムギが何年も前に編み出し、そして自らの手で“殺した”一手であった
死を間近に控えた対局で、コムギはあえてその『一度殺した一手』を再び打つ。
殺すのではなく、メルエムとともに新たな盤上の一手を生み出すために。
コムギは「幸せです」と、「この日のために生まれてきた」と涙を流す。
メルエムもまた、己がこの世界に生を受けた真の理由が『この瞬間のためだった』と確信する。
『2人で生み出した一手』を実感した瞬間こそが、2人が最も深く繋がった証明だと思っている。
メルエムが最期に手に入れた『世界で一番優しい心』
メルエムはコムギに感謝を告げる。
生まれた瞬間には意味を持たなかった『名前』を、最期に自分が一番呼んでほしかった人の声で呼ばれ、コムギの腕の中で静かに眠りについた。
生まれた瞬間は他者への敬意など微塵も持たない絶対的怪物だった存在が、最期の瞬間には『たったひとりの少女を世界で一番大切に思い、尊重する心』を抱いて旅立ったのだ。
メルエムという存在の『ずるさ』と、あまりに美しすぎる救済
スタート地点がマイナス100万だったこと。
そして、どれほど残虐であっても『人の意見を聞き入れる器』を最初から宿していたこと。
成長のベクトル次第で、ただのバケモノにも人間に近くも成り得た。
その要素を最初から秘めていた。
コムギとの遭遇によって促された、あまりにも美しくも残酷な『精神の成長』そのものだったとすら思う。
…これは最高にズルい。
メルエムの評価がひっくり返ったのは、単に『バケモノが急に優しくなったから』ではない。
コムギという存在との遭遇によって、メルエムの内に眠っていた『人間性が開花していく奇跡のプロセス』を完璧に見せられたからだ。
コムギがいなければ、メルエムはただの怪物として世界を滅ぼしていた。
メルエムがいなければ、コムギの軍儀はあの至高の領域へ到達することはできなかった。
互いが互いを、世界で唯一無二の場所へと導き合ったのだ。
たったひとりとの出会いによって『心』を知り、世界で一番その人を大切に思うようになったメルエム。
メルエムとコムギが迎えた最期は、私の中にずっと残り続けるものとなった。
▼キメラアント編のキャラクター(人間)観察
