
【ショートショート】9月は接吻してってば アマノ文筆クラブ
「ねえ、たっくん。キスして!」
今月に入ってから、彼女はやたらとキスをねだる。最初のうちはかわいくて、キスを返してあげていた。だが、毎日何回も濃厚なキスをせがまれると、俺のキス欲は目に見えて萎えていった。
「言わぬが花」とはよく言ったものだ。
言葉にしないからこそ、情緒が生まれ、欲も掻き立てられる。
「ちょっとー、なんでキスしてくれないの?」
葵の声が俺を現実に呼び戻した。頬を膨らませて上目遣いで睨む葵はめちゃくちゃかわいい。
許してくれ、葵。もう限界なんだ。
俺の荒れた唇も、口内炎だらけの口腔も!
ほんっとうに痛みが限界で、1ミリもキスしたいなんて思えないんだよっ!
「……あのさ、ひとつ聞いていい?」
「何?」
「なんで今月やたらとキスしたがるの?」
「えーっ! わからない?」
わからないから聞いているんだ!
内心の苛立ちを顔に出さないように「うん、教えてくれるかなー」となるべく穏やかな声で答えを促した。
葵はもったいつけたように、ごほん、と咳払いした。
「今月は9月でしょ? セプテンバー! 接吻してってば!」
なんちゃって、と葵は舌を出して笑った。
ああ……。
今月は「苦月」だ。
アマノ文筆クラブさんの企画に参加させていただきました。
「9月は接吻してってば」
とてもユニークなお題で楽しませていただきました。
よろしくお願いいたします。