
【掌編小説】不器用な手紙
祖母が死んだ。
胃がんに侵されていた彼女だが、ほとんど老衰で逝ったようなものだ。旅立つ前日まで、冷蔵庫の整理を手伝う施設の人に「まだ死んでないよ!」と文句を言うタフな人だった。
祖母の最期はひとりだった。
ふたりの子供たちは母親を愛していた。特に、長男である父は彼女を敬愛し、祖母の訃報を受けて施設に駆けつけたあとは、魂が抜け落ちてしまったかのように虚ろだった。そんな父の傍らで、母は施設の人たちにお礼を言ってまわっていた。
「明日から忙しくなるね」
ぽつりとそう言う母に、私は重いため息をついた。
祖母の葬儀が終わり、一週間が経った。
父の仕事関係の人がたくさん訪れた通夜に比べて、葬儀はがらんとしていた。出席者は私たち家族と、わずかな親戚だけだった。
白い棺に納められた祖母。
スモークがかかっているようにぼんやりとしか思い出せない。
「茜、ちょっと」
父がトントンと部屋のドアをノックした。ドアを開けると、父は遠慮がちに入ってきた。
「これ、おばさんから。おばあちゃんの部屋の引き出しに入ってたそうだ」
差し出された一枚の白いメモ紙。父の手から受けとり、折りたたまれたそれを開いた。
達筆の祖母らしくなく筆跡が乱れていた。
「お前の成人のときに書いたみたいだな。渡せばよかったのにって姉貴があきれてたよ」
父を溺愛し、ひとりじめしたがった祖母。
車に乗るときも、食事の席でも、自分が父の隣でなければあからさまに機嫌を悪くして、さんざん母と私を困らせた。
祖母は、私が彼女を嫌っていたのをわかっていたのだろう。
それでも、お盆には、私の好きなうどの味噌汁を必ず作ってくれた。受験のときは、一番の得意料理を一人暮らしの住まいに送ってくれた。
「からだを大切に」
短い文面の中で、その言葉は幾度もくり返されていた。
「ほんと……渡してくれればよかったのに」
拝啓文芸部さんの企画に参加させていただきました。
昨年亡くなった祖母のことを思い返して書いてみました。
よろしくお願いいたします。