
【ショートショート】肉球の誘惑
「へえーっ! 人狼の手って犬の肉球とは感触が違うんだね」
「そんなに触らないで……」
ああ……。
これ以上は耐えられないっ!
幼い頃に人狼に噛まれてから、私は満月を見ると変身する体になってしまった。
抑制剤を飲めば、満月の夜でも人狼化を抑えることができる。なのに、今日に限って薬を飲み忘れてしまった。
みのりとはじめてのデートということに浮かれすぎていた。彼女の前で変化が始まった瞬間、私は絶望に凍りついた。
私の正体が人狼だとわかれば、みのりは私から去っていくに違いない。
そう思ったのに……。
「すごーい! めちゃくちゃかっこいいんだけど!」
「……えっ?」
「紗和、人狼だったんだね! どうして言ってくれなかったの?」
「みのりが怖がると思って」
「やだな。そのくらいで嫌いにならないよ。私の愛情をみくびらないでくれる?」
「……ごめん」
みのりは私を拒絶しなかった。私は肺の底から安堵の息を吐いた。
だけど……。
「うわー! 肉球超ザラザラしてる! 次はしっぽ触っていい?」
「待って! これ以上は……」
お願いだから、これ以上はやめて!
私……本当の狼になってしまうっ!
(481文字)
田原にかさんの企画に参加させていただきました。
肉球を見ると触らずにはいられません。狼の肉球ってどんな感じなんだろう……。
よろしくお願いいたします。