
月を見る #シロクマ文芸部
月を見る。
薄曇りで輪郭もぼんやりしている。
色も薄い黄色のような白のような、黄ばんだ、昔は真っ白だったシャツみたいな、そんな色。
形は満月でもなく、半月でもなく、三日月でもない中途半端なアーモンド。
だけど私は「青い月」を描く。
全然似ても似つかない、黄ばんだアーモンドの月を見ながら画用紙に筆ペンで研ぎたての猫の爪のような月を描いた。
パステルで黄色を画用紙に塗り、指でこすり取って縁取った猫の爪の中を塗りつぶす。
オレンジを内側に重ねる。
背中側に白を重ねる。
そして青。
薄い青、濃い青、鮮やかな青、黒。
画用紙にどんどん塗って指でこすって、混ぜて
月に重ねる。
冷たい月を描くんだと心の中で呟いていた。
もっと、もっと、もっと冷たく
もっと。
もっと青く、もっと深く。
これを描き上げたら能代さんに見てもらう。
能代さんは、最近、知り合ったデザイナーの人で
男を追い回して邪険にされて
泣いている私に能代さんが言った。
「絵を描きなさいよ、絵。好きでしょ?」
「描いて描いて描いて、次会う時また見せて」
大好きだった男は卒業制作に時間を取られているうちに他の女を連れていた。
怒って追いつめている間に私が嫌な奴になっていた。
女の、男の後ろで小さくなってごめんなさいと言いながら口角が上がったのを見た。
発狂しそうだった。
大好きな気持ちも、悔しい気持ちも、怒りも
冷たい月に
青い月に
どうしたらもっと冷たく見える?
もっともっともっと。
たすけて。
青く深く
重そうな、でもはかなく黄色の光を帯びた月を描き上げて、他の数十枚の絵とともに能代さんに見てもらう。
能代さんは一枚一枚丁寧に見て
青い月だけを最後に残し
「これはいいよね。でも未完成だよね。こういうのがコンスタントに描けるようになったら編集に紹介してもいい」
私の発狂しそうな気持ちは未完成なのか。
こんなに思いを込めてコンスタントに描くのか。絶望的な気持ちで月を見る。
今日は明るい丸い、でも満月ではない
ちょっと欠けた月。
青く冷たく
寂しく
どこまでも深く
そんな月はないんだな。
(了)
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今回のBGMは、sia Unstoppable
"I put my armor on."
私は鎧を身にまとう
by sumiya