
【ショートショート】【待つ時間】 #シロクマ文芸部さん|時代背景で見る、待てない現代人
「待つ時間」と「時代背景」

人々にとって行列は贅沢なステータス。新しくできた店に並ぶ時間は、「価値あるものに時間を費やす自分」に酔いしれる時でもあった。人々は退屈と期待の長い列の中でじっとその「待つ時間」を味わっていたのである。

ガラケーが爆発的普及。待ち合わせの概念が劇的に変わり、「今どこ?」と直前まで連絡を取り合えるように変わる。寒空の中、本当に相手が来るのか不安だった「待つ時間」が、瞬く間に消えていったのである。

スマホが普及。世界は効率とスピードの波に乗る。人々はどこにてもスマホ片手に何かを見ている。待ち時間、何かのちょっとした合間、私たちは「待つ時間」というほんの少しの空白の時さえも、徹底的に削ぎ落とし始めたのである。

コロナにより緊急事態宣言が出るなど、行動を制限された。コロナ禍以降は病院や飲食店などは混雑を避けるために事前予約制がスタンダードになる。「待つ時間」の概念が変わり始める。

AIの進化により、かつて何十分も待たされたコールセンターの待ち時間が短縮化した。夜中であってもAIが回答してくれ、あの長い長い「待つ時間」を過ごさずとも、欲しい回答がいつでも得られるようになる。

ドローン配送や、レジのないウォークスルー決済が当たり前になり、社会からあらゆる無駄な「待つ時間」がほぼ消失する。この頃より15分待つだけで怒るようなクレーム客が急増する。

人類はAIの予測制御により、「待ち時間ゼロ社会」を手に入れていた。
タクシーは呼ぶ前から近くで待機。
レストランでは席に着くやいなや料理が出てくる。
一分待つことすら過去の「不便」として笑われていた。
深夜のコンビニ。
自動レジの画面を見た男が、不気味に顔を引きつらせた。
「処理中、残り20秒」
「20秒も待たせやがったな……!」
「お客様、ただいま正常に――」
「ふざけるな!」
男はレジを蹴り飛ばし、奇声をあげた。
それは氷山の一角にすぎなかった。
SNSには
「電子レンジの30秒が長すぎる」
「エレベーターが10秒来ない」
といった狂気の投稿が溢れ返り、街のあちこちで「待てない人たち」による凄惨な暴動が勃発した。
政府がどれだけシステムを高速化させても、人間の沸点はさらにその先をブチ抜いていく。
自宅のスマートドアの前に立った時。
『認証エラー。システム復旧まで、あと3秒お待ちください』
だが、その数字を聞いた瞬間、スマホをドアに叩きつけた。
『衝撃によりエラー。人員を要請します。到着まで5分ほどお待ちください』
――私たちは知らなかったのだ。
人類が長年求め続けた効率化。時短。
「待つ時間」こそが、人類が人間であるために踏み留まるための
最後の防壁だったのかも知れない――
おしまい。
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今回はシロクマ文芸部さんのお題で書いてみました。
お読みいただきありがとうございます!
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三須 ミス子
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