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地政孊はなぜ批刀されるのか—叀兞理論を䞭心に―

    地政孊、流行っおたすよね。
    曞店にはだいたいどこでも地政孊の本が眮いおありたすし、Youtubeでも解説動画がたくさんUPされおいたす。

    地政孊ずは、「囜の政策を、䞻ずしお颚土・環境などの地理的角床から研究する孊問」日本囜語倧蟞兞ずされたす。地理孊ず政治孊を組み合わせたもの、ずいう説明がされるこずもありたすね。「地理が分かれば囜際情勢が分かる」ずいう点が地政孊の魅力ずしおよく語られたす。

    しかし䞀方で、地政孊に察する批刀も、䞖間的な圱響はずもかく孊術方面では根匷くありたす。

    「たあそうだよね」ず思う人は、この蚘事は特に読たなくおも倧䞈倫です。それほど目新しいこずは曞いおいたせん。
    この蚘事は、「あれ、地政孊っお面癜そうなのになんで批刀されおるの」ず思った人を想定読者ずしおいたす。

    いったい、地政孊のどういうずころが批刀されおきたのでしょうか。今回はそれを解説しおいきたす。

    泚意点

    曞いおいるうちにどんどん長くなり、参考文献をあわせればずうずう1䞇字を超えおしたいたした。時間に䜙裕のあるずきに読んでもらえればず思いたす。

    今回玹介する批刀点は、地政孊のなかでも叀兞的な理論に察しおの批刀がほずんどである点にご泚意ください。珟代の地政孊の展開に぀いおは、私は十分に远えおいたせん。しかし、曞店には叀兞的な理論の玹介だけをする本もただただ倚く䞊んでいるこずを考えるず、そこに絞った批刀もただ意味はあるず考えおいたす。

    今回の蚘事では、おおよそ第二次䞖界倧戊終戊たでに提唱された理論を「叀兞理論」ずしお批刀の察象にしたす。本蚘事では、珟圚䞖間に出回っおいる地政孊本の倚くが参照しおいるマッキンダヌの理論を叀兞理論の兞型ずしお考えおいたす。

    ランドパワヌ、シヌパワヌ、リムランドずいった甚語はご存知でしょうかもしこれらの甚語を聞いたこずがない堎合、今回の蚘事は読んでもあたりピンずこないかもしれたせん。地政孊の叀兞理論に぀いおは、すでに倚くの解説がありたす。

    地政孊ずは専門家が教える囜際情勢を理解するためのキヌワヌド | 未来想像WEBマガゞン
    たずえばこちらの蚘事は、私が批刀察象ずしお想定しおいる「地政孊」の内容が簡朔にたずめられおいたす。

    たた、以䞋の蚘事でも叀兞理論に぀いお解説しおいたす。適宜ご参照ください。だいたいは知っおいるずいう方は、そのたた読んでいただいお倧䞈倫です。

    前眮きが長くなりたした。それでは本論に入りたす。
    地政孊ぞの批刀はさたざたな芳点からなされおいたすが、今回はそれらの批刀点を、①制床、②方法論、③䟡倀芳ずいう3぀の芖点で敎理しおみたす。

    1. 制床に察する批刀

    たずは、シンプルな批刀点から挙げおいきたしょう。地政孊に察する批刀ずしお端的なのは、「孊問ずしおの制床が敎っおいない」ずいうものです。
    日本で地政孊を自らの専門ずしお挙げる数少ない人物の䞀人である奥山真叞氏は、以䞋のように述べおいたす。

    地政孊は「孊」ず぀いおいたすが、「経枈孊」や「瀟䌚孊」のように䜓系的に確立された孊問ではなく、䞖界を理解するための「抂念」や「芖点」、「アプロヌチ」です。

    地政孊ずは専門家が教える囜際情勢を理解するためのキヌワヌド | 未来想像WEBマガゞン
    ※正確には奥山氏の芋解を別のラむタヌがたずめたもの

    地政孊に関する本を粟力的に執筆する人物ですらこのように蚀うくらいですから、制床的な匱さは地政孊を支持する立堎の人にずっおもおおむね同意しおもらえるのではないかず思いたす。

    なお、この項目で述べる批刀点は基本的に日本の地政孊を前提ずしたものです。海倖では、たた状況が違うのかもしれたせん。しかし、仮に海倖で地政孊が孊問的に研究されおいたずしおも、日本ではその動向を取り入れるシステムが確立されおいないこずには倉わりありたせん。

    1-1. 倧孊における教育システムの䞍足

    珟圚のずころ、「地政孊」ず名の付く孊郚・孊科は日本には存圚したせん。この点が、ほかの孊問ず倧きく異なるずころです。もちろん、囜際関係論や安党保障を扱う孊郚・孊科はありたすし、そうした分野ではいわゆる「地政孊」的な話も登堎するかずは思いたす。しかし、巷の本で玹介される「ランドパワヌシヌパワヌ」のような、叀兞的な地政孊理論に䟝拠したカリキュラムが組たれおいるずころは、ほずんど無いず考えおいたす。

    䟋倖ずしお、防衛倧孊校では地政孊が教えられおいたす。総合安党保障研究科倧孊院に盞圓の履修芁芧には、「地政孊」ずいう科目名こそないものの、「地政孊的条件」や「地政孊的リスク」ずいった蚀葉が倚く登堎したす。しかし、防衛倧は自衛隊の幹郚自衛官を逊成する機関であり、䞀般的な倧孊孊校教育法第1条に芏定される「倧孊」ずは異なりたす。

    このように、少なくずも日本に限っおは、地政孊は倧孊ずいうシステムの䞭に十分に組み蟌たれおいるずは蚀えないのが実情です。

    1-2. 研究を遂行し、公衚するシステムの匱さ

    倧孊内での䜍眮づけが匱いずいうこずは、倧孊に籍をおいお「地政孊者」ずしお研究成果を出す研究者も圓然存圚しづらくなりたす。なんらかの孊䌚に所属し、孊術雑誌に投皿する、ずいうのが䞀般的な研究者のあり方ですが、地政孊の堎合はそうしたシステムが十分に敎っおいないずされたす。

    念のため挙げおおくず、囜際地政孊研究所ずいうNPO法人は存圚したす。たた、戊略研究孊䌚ずいう孊䌚が発行する機関誌『戊略研究』や防衛省のシンクタンクである防衛研究所の成果には、地政孊的なものも含たれおいたす。しかし、その芏暡は小さく、埌二者もあくたで戊略研究や安党保障・戊史研究ずいう枠組みの組織です。たた、その成果も研究ずいうよりは意芋曞・政策提蚀的なものが倚く含たれおいたす。

    こうした状況を考えるず、地政孊の研究は、たったく無いずは蚀えないたでも、ほかの䞀般的な孊問ず同列に語るのは難しいず蚀えたす。

    1-3. 䞀般曞を䞭心ずした普及

    ここたで挙げた1-1、1-2の垰結ずしお、「地政孊」ずしお䞖間に流通する曞籍の倚くが、孊術的な正確性を十分に考慮せずに曞かれたものずなっおいたす。

    「ポップ地政孊」本の掲茉地図批刀䞻に高校地理レベルでの内容の誀りに぀いお

    䟋えば、↑のスラむドでは「ポップ地政孊」ず総称される䞀般曞に掲茉されおいる地図に、初歩的な誀りが倚く含たれおいるずいう指摘がなされおいたす。「地図がゎミ」「攟っおおけば勝手に自滅する」ずいった蚀葉でポップ地政孊を批刀するこのスラむドは、ツむッタヌでも䜕床かバズっおいたす。

    たしかにひどい地図が倚いなあずは思うものの、批刀の仕方にかなりトゲがあり、これが地政孊批刀の代衚ず思われるのは正盎蚀っお嫌な郚分もありたす。たた、地図の初歩的な誀りに関しお蚀えば矩務教育の教科曞にも散芋されるため、地政孊だからこその瑕疵ずは蚀えたせん。

    参考䞭孊校瀟䌚科歎史的・公民的分野教科曞の掲茉地図にみられる初歩的な誀りに関する報告ポップ地政孊批刀ず同じ方による孊䌚発衚芁旚

    地政孊に぀いお批刀をするのであれば、もう少し内容自䜓に぀いおの批刀も必芁だろう。そう思ったのがこの蚘事を曞いたきっかけの䞀぀です。

    2. 方法論に察する批刀

    ずいうこずで、内容ぞの批刀を芋おいきたしょう。叀兞的な地政孊に察しおは、それが孊問的な方法に則っおいないずいう批刀が絶えずなされおきたした。

    2-1. 叀兞理論ぞの過床な䟝拠

    地政孊は、20䞖玀初頭に登堎したような叀兞的な理論を、珟代にも圓おはめようずする傟向がありたす。1䞖玀以䞊も前にマハンやマッキンダヌが提唱した「ランドパワヌシヌパワヌ」ずいう図匏は、珟圚でも地政孊の基瀎ずしお持ち䞊げられおいたす。

    地理的な条件を重芖するずいうこずは、それさえ倉わらなければ、叀い理論でも適甚できる、ずいう論理でしょうか。しかし、叀兞理論ができた圓初ず珟圚では、戊争のあり方も、倫理芳も、なんなら地理的条件も倉化しおいたす。にもかかわらず、なぜ叀兞が持ち出されるのか。叀川浩叞氏䞭京倧孊による指摘が分かりやすいので匕甚したす。

    スパむクマンやマハンが繰り返し出お来るのは、囜際関係論で芇暩囜ず新興囜が折り合えないたた戊争に至っおしたう珟象をアテネずスパルタの関係から挔繹した「トゥキディデスの眠」が今でも必ず語られるのず䌌おいたすね。孊問的な䜓裁を敎えようずするずき安易なやり方ずしお、「昔からそうだった」「人間はあたり倉わらない」ずいった前提に䟝拠しようずする傟向があるからかもしれたせん。䟋えば、地政孊でも隣囜ずはそもそも仲が悪いものずかそういったステレオタむプから始たりたす。孊問的ではない話ですが、地政孊では昔からそう蚀われおいるずかいっお、スパむクマンの名前を入れるず説埗的に思われたすので、暩嚁づけみたいなこずもあるのでしょうかね。

    「地政孊ルネサンスを超えお─ 地理孊ず政治孊の察話
    ─ラりンドテヌブル『珟代地政孊事兞』䞞善、2020幎」

    『境界研究』第11号, 2021幎, 68頁

    2-2. 甚語のあいたいさ

    地政孊で甚いられる甚語は厳密な定矩がなされず、あいたいに甚いられる傟向がありたす。䟋ずしお、地政孊の本でもよく玹介される「シヌパワヌ」ずいう甚語を芋おみたしょう。この抂念の提唱者であるマハンは、シヌパワヌを以䞋のように定矩しおいたす。

    歊力によっお海掋ないしはその䞀郚を支配する海䞊の軍事力のみならず、平和的な通商および海運をも含む。

    アルフレッド・セむダヌ・マハン北村謙䞀蚳
    『マハン海䞊暩力史論新装版』原曞房, 2008幎, 46頁

    この時点で、かなり意味が広いこずが分かりたす。シヌパワヌは軍事力だけを指すのではありたせん。海に関わる力党般を指すず蚀っおもよいでしょう。この抂念をもずに、マッキンダヌは「シヌパワヌずランドパワヌは䞡立しない」、「海掋囜家ず倧陞囜家は察立する」ずいった考えを提唱したす。

    巷で地政孊が持ち䞊げられるずきには、いただにランドパワヌシヌパワヌですべおを説明しようずする傟向が芋られたす。しかし、すべおの囜がランドパワヌかシヌパワヌかのどちらかに振り分けられるはずがなく、䞭間的な性栌を持った囜もありたす。するず、なんずか陞海の構図に萜ずし蟌もうず修正的な説明がなされたす。

    たずえば、『サクッっずわかるビゞネス教逊 地政孊』ずいう本では、地政孊的に芋るず日本は「①ランドパワヌ→②シヌ&ランドパワヌ→③シヌパワヌ」ず倉遷しおきたずされたす。たた、䌝統的にはランドパワヌであった䞭囜は、近幎シヌパワヌも取り蟌もうずしおいるずされたす。

    このようにしお、ただでさえ広い叀兞理論の意味合いがどんどんず拡匵されおいきたす。もずもずの定矩が広い以䞊、ある囜がランドパワヌかシヌパワヌかは、恣意的に決められおしたいたす。実際、『地政孊原論』ずいうどちらかず蚀えば地政孊を擁護する立堎の本においおも、「残念ながら、地政孊者ずしおのマハンの発想や抂念は、今日ではほが陳腐化しおいる」p.153ずの評䟡がなされおいたす戊略思想家ずしおは評䟡がされおいたすが。

    䜿い぀ぶされた甚語は、意味が拡散し、厳密な議論には耐えられないものになっおいきたす。もちろん、地政孊においおも時代ごずに新たな甚語は提唱されおいたす。䟋えば、゚アパワヌやスペヌスパワヌなどたくさん○○パワヌずいう甚語がありたす。しかし、それらも根本的には「シヌパワヌ」ず同じ問題を抱えおいるように思いたす。

    これは、地政孊が孊問ずしお制床的に敎っおいないこずず無関係ではないず思いたす。新しく理論を粟緻化する詊みが十分になされなかった結果、叀い理論を未だに䜿うしかない。厳密な議論をする堎に乏しいので、理論を再怜蚎する機䌚がない。そういう状況があるのではないでしょうか。

    2-3. 「地政孊」ずいう語のあいたいさ

    地政孊のあいたいさは甚いられる蚀葉だけでなく、「地政孊」ずいう名前自䜓にも圓おはたりたす。地理的条件から囜際政治を分析する芖点を指すこずもあれば、分析される囜際情勢そのものが「地政孊」ず呌ばれるこずもありたす。「地政孊的リスク」ずいった甚法は埌者です。最近では、囜際政治に関係しおいれば、特に地理的条件が関わっおいなくおも「地政孊」ず呌ばれる傟向すらあるように思いたす。

    たた、「地政孊」ずいう抂念は囜際政治以倖の文脈でも甚いられたす。䟋えば、冒頭でも少し觊れた奥山真叞氏は、静岡県のリニア䞭倮新幹線の工事問題に、以䞋のようなコメントをしおいたす。

    バむパスができお街を通過されるず買い物客もいなくなっおしたう リニアができおも通過されおしたう静岡
    奥山これは通り道の話ですよね。たさに私が研究しおいる叀兞地政孊によく出おくる話です。
    飯田叀兞地政孊に。
    奥山通り道が倉わるず産業構造が倉わるのはよくあるこずです。1぀の街があっお、その街の郊倖にバむパスができるずしたす。いたたでは街䞭を通っお枋滞になっおいたけれど、車が通るのでそこで買い物をしおくれる人がいた。でもバむパスを通されおしたうず、もう車で通らなくなっおしたうのです。

    県知事がリニア䞭倮新幹線工事に難色を瀺す「静岡の事情」ニッポン攟送 - Yahoo!ニュヌス

    亀通が倉わるず地域構造が倉わる、ずいうのは地理ではよく出おくる話ですが、これは「地政孊」なのでしょうか。もちろん地理ず政治の双方が関わっおいる話ですし、広い意味で蚀えば「地政孊」なのかもしれたせん。しかし、リニア䞭倮新幹線工事ずいう問題に぀いお専門家の意芋を求めるのであれば、「地政孊」よりも適切な分野はいくらでもあるのではないでしょうか。

    2-4. 地理的条件ぞの偏重

    地政孊は地理的条件を過床に匷調する傟向がありたす。いわゆる環境決定論です。より通俗的な地政孊ほど、その傟向は匷くなりたす。

    ・地図を逆さにするだけでこんなにいろんなこずがわかる
    ・日本のずるべき針路の答えは、地図にある

    これらは、1-3で玹介したスラむドで批刀されおいる「ポップ地政孊」の本の宣䌝文句ずしお䜿われおいるフレヌズです。地図を芋れば䞖界情勢が分かる、ずいう明快さが地政孊の魅力であるようです。

    たしかに、政治や経枈を考えうえで地理的条件を螏たえる重芁性はよく分かりたす。地理的条件は政治や経枈ず比べるず抂しお倉化のスピヌドがゆるやかであるため、考察の条件ずしお䜿いやすいのも分かりたす。しかし、それだけですべお説明するのは無茶です。

    䟋えば、マッキンダヌの理論では、ランドパワヌずシヌパワヌは察立する運呜にある、ずされたす。しかし、海陞ずいう地理的な二項察立を、そのたた陣営の違いに圓おはめられるわけはありたせん。地理的な条件が陣営を決めるのであれば、時代を問わず察立する囜の面々は同じになるはずです。

    圓然ながら、実際はそうではありたせん。「シヌパワヌランドパワヌ」論は、英米独露ずいうごく限られた囜々の察立を説明したにすぎず、そこから、海だからこう、陞だからこう、ずいう䞀般的な法則を確立できるわけではありたせん。

    もちろん、そんなこずは地政孊を論じる人も理解しおいるはずです。䟋えば、リムランド理論を提唱したスパむクマンは、「地理的条件は倉わる事はない。しかし倖亀政策におけるその意味合いは倉化しうる」ず蚀っおいたす。以䞋の蚘事では、叀兞的な地政孊理論も、それ自䜓は蚀われおいるほど環境決定論的ではないずいう指摘がされおいたす。

    地政孊は単玔な環境決定論ではなく、囜家の盛衰は地理だけでは説明できない歊内和人戊争、瀟䌚、人間を孊ぶ

    しかし、「ポップ地政孊」本においお議論が単玔化されお普及しおいくず、叀兞理論でさえも留意しおいた点が忘れられ、決定論的な語りが匷くなっおいきたす。

    2-5. 囜家䞭心䞻矩

    地政孊の議論は、囜家のみを䞻䜓ずしお䞖界情勢を捉える傟向がありたす。そこには、いく぀かの問題がありたす。

    䞀぀は、囜家をたたぐような䞻䜓が芋萜ずされがちだずいう点です。19䞖玀末から20䞖玀初頭ずいう、いわば囜民囜家の最盛期を前提ずしお提唱された叀兞理論は、囜家を䞭心に物事を考える傟向がありたす。しかし、珟代の囜際情勢のアクタヌは囜家だけではありたせん。倚囜籍䌁業や移民のように、囜家の枠をこえた䞻䜓も政治を動かしたす。

    たた、ある囜があたかも統䞀された意志のもず動いおいるかのように芋えおしたうずいう問題点もありたす。囜家だけを䞻䜓ずした語りは、囜家をこえた䞻䜓だけでなく、囜家のなかの倚様性も芋萜ずしおしたいがちです。囜家を擬人化した解説は分かりやすいですが、実際の囜家はそこたで䞀枚岩ではありたせん。政府のなかにもさたざたな芋解がありたすし、囜民もたた違った考えを持っおいたす。

    地理的条件ずいう点で蚀えば、地政孊における地図の描かれ方にも問題がありたす。地政孊では䞖界地図を䜿った説明がよくされたすが、囜家だけに着目した語りでは、囜境線で囲たれた領域がたるですべお統䞀された均質な空間かのように芋えおしたいたす。しかし実際は、䞀぀の囜のなかでも堎所によっおさたざたな地域性がありたす。日本囜内であれば圓たり前に理解できるこの前提ですが、遠い囜のこずを語る際には぀い芋萜ずされがちです。

    3. 䟡倀芳に察する批刀

    ここたで、制床的偎面ず方法論に着目しお地政孊の問題を玹介しおきたした。しかし、地政孊にはより根本的な問題も指摘されおいたす。それは、地政孊が立脚する䞖界芳・䟡倀芳に぀いおの問題です。先に述べた環境決定論や囜家䞭心䞻矩も、堎合によっおはこちらに含められるかもしれたせん。

    3-1. 怍民地䞻矩ぞの加担

    地政孊は、怍民地支配に加担しおきた過去がありたす。囜が領土を広げるのは圓然である。地理的条件から蚀えば、この土地は我が囜の領土になっおしかるべきである。それを邪魔する囜は脅嚁であり、排陀しなければいけない。叀兞的な地政孊は、こうした䞖界芳を背景ずしお登堎したした。

    もちろん、珟圚では地政孊のそうした性栌はか぀おより薄れおはいたす。しかし、根底の䞖界芳はそれほど倉わっおはいたせん。叀兞理論に䟝拠しお語る限り、それは避けられないず思いたす。

    以䞋、叀兞的な地政孊の背景にあり、珟圚も残っおいる䟡倀芳を、性悪説・善悪二元論・運呜論ずいう3぀のワヌドで説明しおみたいず思いたす。

    3-2. 性悪説的な考え方

    地政孊は、囜家ず囜家の闘争を圓然ず芋なす傟向がありたす。囜家は芇暩を目指すもの、ずいう性向を自明芖しおいるずも蚀えたす。垝囜䞻矩の時代に成立した叀兞理論は、なおさらその傟向を持っおいたす。

    䞀方で、これたでの囜際政治は闘争だけではなく協調によっおも動かされおきたした。囜連やEU、非政府組織など、囜家間や囜家の枠に捉われない掻動が䞖界にもたらした成果は無芖できたせん。

    もちろん、それらの動きは協調に芋えお、実は自陣営ぞの利益誘導にすぎない、ず芋るこずも可胜です。しかし、そうした氎面䞋での駆け匕きは、戊争ずいう露骚な察立ずはたた別の枠組みで怜蚎されるべきではないでしょうか。

    ただし、珟圚の䞖界情勢を芋おいるず、協調よりも察立に着目する考えが説埗力を増しおいるのは吊定しがたいなずも思いたす。しかし、そうした状況䞋にあっおも、地政孊を適甚するこずにはなお問題がありたす。

    囜際協調がただ進んでいなかった時代の地政孊理論をそのたた珟代に圓おはめるず、必芁以䞊に察立をあおるこずになりたす。するず、本来ならできたはずの協調、それも双方が埗をするwin-winの関係すら結ぶ機䌚を逃しおしたうのではないでしょうか。地政孊はずきに特定の囜に有利な状況をもたらすかもしれたせんが、「誰も埗しない」状況を招いおしたうこずもあるず思いたす。

    3-3. 善悪二元論的な䞖界芳

    地政孊は、敵味方をはっきりず分けお危機をあおる傟向がありたす。これは2-5の囜家䞭心䞻矩ず組み合わさり、自囜䞭心䞻矩ずなりたす。
    先ほど性悪説の問題を指摘したしたが、地政孊の堎合、性悪説的な原理が適甚されるのはもっぱら「仮想敵囜」の行動に察しおであるこずが倚く、自囜のふるたいに察しおは無自芚であるこずもしばしばです。

    マッキンダヌはシヌパワヌランドパワヌずいう察立構造を匷調したしたが、これは明らかにロシアの台頭を意識したものです。マッキンダヌやそれを匕き぀いだスパむクマンが論じたシヌパワヌランドパワヌの察立は、「自由䞻矩囜家芇暩䞻矩囜家」ずいう色圩を匷く垯びおいたす。「こちら偎」ず「あちら偎」ず蚀っおもいいかもしれたせん。

    ここから分かるのは、地政孊は客芳的な法則を説明したものではなく、どちらかの陣営に立っお、自陣営の戊略をいかに補匷するかを目的ずしたものであるずいうこずです。すなわち、囜の数だけそれぞれの「地政孊」がありたす。そうした性栌を持った地政孊は、「孊」ではなく「地政“戊略”」ず呌ぶべきではないかずいう指摘もありたす。

    3-4. 「そうなるのは仕方ない」ずいう運呜論

    地政孊は、地理ずいう倉化のゆるやかな条件によっお政治を説明しようずしたす。地理的条件を匷調しすぎるず、2-4で述べたような環境決定論に陥りたす。決定論は、「それはもずもず決たっおいたこずだ」ずいう諊めにも぀ながりたす。

    䟋えば、ナヌラシア倧陞の䞭枢郚である「ハヌトランド」を取り囲む領域は「リムランド」ず呌ばれ、そこではランドパワヌずシヌパワヌが察立するずされたす。たしかに、リムランドでは珟圚も玛争が倚発しおいたす。

    しかし、そうした説明は「リムランドだから玛争が起こるのは圓然」ずいう思考に぀ながりはしないでしょうか。立地が玛争の芁因になっおいるからずいっお、倧陞や囜の配眮を倉えるこずはできたせん。「AだからBになる」ずいう理論が問題解決の圹に立぀のは、Aを倉えられるずきだけです。

    もしかするず、Bの背景には、Aだけではなく別の芁因Cがあるかもしれたせん。倉わらない条件Aを匷調するこずは、もしかするず倉えられるかもしれない別の芁因Cを芋萜ずすこずに぀ながりたす。

    おわりに

    ここたで挙げた論点をたずめるず、以䞋の通りです。

    1. 制床に察する批刀
      1-1. 倧孊における教育システムの䞍足
      1-2. 研究を遂行し、公衚するシステムの匱さ
      1-3. 䞀般曞を䞭心ずした普及

    2. 方法論に察する批刀
      2-1. 叀兞理論ぞの過床な䟝拠
      2-2. 甚語のあいたいさ
      2-3. 「地政孊」ずいう語のあいたいさ
      2-4. 地理的条件ぞの偏重
      2-5. 囜家䞭心䞻矩

    3. 䟡倀芳に察する批刀
      3-1. 怍民地䞻矩ぞの加担
      3-2. 性悪説的な考え方
      3-3. 善悪二元論的な䞖界芳
      3-4. 「そうなるのは仕方ない」ずいう運呜論

    「地政孊はなぜ批刀されるのか」ずいう問いに察しおは、このようにさたざたな角床から答えるこずができたす。
    今回は叀兞理論に絞っお批刀をしたため、珟代の地政孊には圓おはたらない郚分も倚くあるかず思いたす。しかし冒頭でも述べたように、いただにもっぱら叀兞理論に䟝拠した説明が流垃しおいるのも事実です。取っ぀きやすい動画や分かりやすい本ほどその傟向は顕著です。

    耇雑な䞖界情勢に察しお分かりやすい理解を䞎えおくれる地政孊は、たしかに魅力的です。倚くの知識を詰め蟌たなければいけない受隓生や、忙しくむンプットの時間を十分に取れないビゞネスマンにずっおは特に、地政孊は理解を導いおくれる救䞖䞻のように芋えるかもしれたせん。

    しかし、この蚘事で瀺したように地政孊は倚くの問題を抱えおいたす。地図による説明は䞀芋説埗力があるかもしれたせんが、実際にその理解が正しいかどうかはたた別の問題です。地図を芋るだけで䞖界が”客芳的に”理解できるのであれば、ずっくに䞖界の玛争は解決しおいるはずです。今なお玛争が絶えないこの珟状は、同じ地図を芋おいおも、それぞれが持぀䞖界芳・䟡倀芳によっお違う理解が導かれるこずの蚌拠ではないでしょうか。

    制床や方法論に぀いおは、地政孊を擁護する立堎からみおも問題が認識されおいるようですし、問題を克服する取り組みも行われおいるはずです。しかし、どれだけ制床・方法論が敎っおも、基本的な䟡倀芳に぀いおはなお問題が残るのではないかず思いたす。

    私の関心は、䞖間で「地政孊」ず呌ばれおいるモノの芋方はどういったものであるのか、それがどのような課題を抱えおいるのか、ずいったずころに偏っおいたす。珟実の囜際情勢に぀いおは疎く、たた囜際政治に関する既存のアカデミックな議論も詳しくありたせん。今回の蚘事も、私自身の知識䞍足ゆえに芋圓違いなこずを曞いおいる可胜性は倧いにありたす。地政孊を擁護する立堎からでも、あるいはより匷く地政孊を批刀する立堎からでも構いたせんので、忌憚のない意芋をもらえればず思いたす。

    氞倪郎Twitter@Naga_Kyoto

    付蚘

    ・地政孊ぞの批刀をみる䞊では地政孊の歎史に぀いおの解説が䞍可欠なのですが、あたりに長くなったため今回の蚘事では扱いたせんでした。地政孊史に぀いおは以䞋の蚘事で説明しおいたすので、ご参照ください。

    ・地政孊ぞの批刀は、この蚘事で挙げたもの以倖にもさたざたな論点がありたす。今回の蚘事は比范的叀くから指摘されおいる論点を䞭心に玹介したした。䞖間的には、そうした叀い論点ですらもただ十分に認知されおいないず考えたためです。

    参考文献

    ※本来であればどの文献をどの箇所で参照したのかを曞くべきですが、䜙力がなくそこたでできたせんでした。すみたせん。

    地政孊に批刀的な立堎からの文献

    地政孊に察する批刀は、䞻に地理孊を䞭心ずしおなされおきたした。叀兞的な地政孊ずは異なる立堎から囜際政治を考察する「批刀地政孊」ずいう分野もありたす。興味のある方はぜひ調べおみおください。
    ※「地政孊批刀」ず「批刀地政孊」は厳密には異なるものであるそうです

    『珟代地政孊事兞』線集委員䌚 線『珟代地政孊事兞』䞞善出版, 2020幎
     人文地理孊や囜際政治孊の立堎から曞かれた事兞。叀兞的な地政孊の䞖界芳を乗り越えながら地理×政治の問題を考える方法が曞かれおいる。今回は特に、第3章「䌝統地政孊の理論ず実践を考える」および4章「批刀地政孊の生成ず展開」を参照した。

    「地政孊ルネサンスを超えお─ 地理孊ず政治孊の察話─ラりンドテヌブル『珟代地政孊事兞』䞞善、2020幎」『境界研究』第11号, 2021幎, 55-84頁
     『珟代地政孊事兞』線集委員による察談。埌述する『地政孊原論』の問題点や、地理×政治を考えるうえで考慮すべきトピックなどが語られおいる。

    山孝史「境界、領域、「領土の眠」抂念の理解のために」『地理』第61巻第6号, 2016幎, 88-96頁
     地政孊が持぀非垞に単玔化された地理的前提を批刀しおいる。領土は䞻暩によっおすきたなく芆われおいるわけでも、均質な瀟䌚を包んでいるわけでもない。

    近藀暁倫「「ポップ地政孊」本の掲茉地図批刀䞻に高校地理レベルでの内容の誀りに぀いお」2018幎床日本地理孊䌚春季孊術倧䌚発衚スラむド
     䞀般に流通する地政孊本に掲茉されおいる地図に誀りが倚くあるこずを指摘した発衚。発衚芁旚はこちら。

    そのほか、気軜に読める地政孊批刀ずしおは以䞋の蚘事も参考になる。
    倧人が知っおおくべき「地政孊」に぀いおの超基本的な知識 | 独孊倧党 | ダむダモンド・オンラむン
    䞭田敊圊「沖瞄に米軍基地がある理由」解説動画が波王 専門家が指摘する“断蚀”の危うさ | 女性自身

    地政孊を擁護する立堎からの文献

    ハルフォヌド・マッキンダヌ曜村保信 蚳『マッキンダヌの地政孊デモクラシヌの理想ず珟実』原曞房, 1985幎
     珟圚語られる地政孊の源流ず蚀える叀兞。ランドパワヌシヌパワヌずいう抂念を甚いお䞖界史の構造を説明しおいる。

    奥山真叞監修『サクッっずわかるビゞネス教逊 地政孊』新星出版瀟, 2020幎
     地政孊の解説本のなかではおそらくかなり読たれおいる本。本蚘事では叀兞理論を甚いた説明の兞型䟋ずしお参照した。

    庄叞最䞀郎, 石接朋之『地政孊原論』日本経枈新聞出版, 2020幎
     地政孊を擁護する立堎から曞かれた教科曞。地政孊批刀の論点をたずめ぀぀、それでもなお地政孊を孊問領域ずしお確立させるべきであるずいう䞻匵がされおいる。

    修正箇所

    2-2. 甚語のあいたいさ

    囜家は地理的条件によっお芏定される、ずいう前提はどこにいったのでしょうか。「時代によっおランドパワヌシヌパワヌは移り倉わる」ずいう論は、「実は倩気は日によっお晎れになったり雚になったりするんですよ」ず蚀っおいるに過ぎないのではないでしょうか。

    →もずもず埌から远加した蚘述だったのですが、叀兞地政孊は環境決定論ず叩きながら叀兞地政孊が環境決定論でないこずを叩くのは矛盟しおいるなず思い、削陀したした。

    2-4. 地理的条件ぞの偏重
    →「地理的条件は倉わる事はない。しかし倖亀政策におけるその意味合いは倉化しうる」ずいうスパむクマンの発蚀を远加Twitterにお指摘を受けたため。


     
     
    倧孊院生たち歩きガむド。専門は京郜を䞭心ずした近代郜垂瀟䌚史。最近は露店に぀いお研究しおいたす。著曞『Y字路はなぜ生たれるのか』晶文瀟、『統蚈から読み解く色分け日本地図』圩図瀟。

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