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NOT A HOTEL Smart Home の“心臓”を作る話 ~ 初めて制御盤を設計したエンジニアの奮闘記

    この記事は、NOT A HOTELのソフトウェア開発連載「Inside the SOFTWARE TEAM」の企画で書いています。

    はじめに

    こんにちは。NOT A HOTEL のスマートホームチームでエンジニアをしている今井(@imashin_)です。ソフトウェア、ハードウェア、ネットワーク、制御盤設計、現場インテグレーションなどを幅広くやっています。

    NOT A HOTEL Smart Home とはどのようなものなのかは以下の YouTube を観ていただくとわかりやすいかと思います。

    NOT A HOTEL Smart Home の根幹を担う制御盤。その設計は、スマートホーム開発のすべてが凝縮された領域です。
    この記事では、私が制御盤を初めて設計したときの学びと試行錯誤を紹介します。

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    新たに生まれ変わった NOT A HOTEL Smart Home の制御盤

    なぜ改めて制御盤を設計し直したのか

    NOT A HOTEL では、スマートホームの制御盤が建物のほぼすべての設備と有線でつながっています。照明、空調、鍵、サウナ、風呂、etc.
    ゲストが何も意識せずに快適に滞在できるのは、この制御盤が裏側で完璧に働いているからです。

    ところが、これらの機器はそれぞれ規格も通信方式もまったく違います。
    これまでは、機器通信は KNX という規格に統一し、ひとつの仕組みで操作できるように外部パートナーと調整を重ねながら対応していました。

    しかし、実際に多くの施設を運用する中で、当初想定していなかった制御方式ごとの得手不得手が具体的に把握できるようになりました。

    機器によっては、KNX 以外の他の方式を組み合わせることでコスト減や安定性向上を図れることがわかってきました。

    そこで今回、「KNX を使うべき箇所」と「別方式を採用するべき箇所」を改めて明確に切り分ける方針に踏み切りました。

    さらに、もうひとつ大きな理由があります。
    NOT A HOTEL は「ホテル」でありながら「プロダクト」でもあるため、改善サイクルの柔軟性と迅速性が体験価値を大きく高める要素になります。

    今回内製することで、迅速な改善サイクルを回したり問題発生時の対応についても、サービス特性や運用状況を踏まえて柔軟に改善できるようになります。

    今回の再設計では、制御方法や制御機器の選定を全面的に見直し、商流も新たに構築し、さらに、機器を操作するためのコードもすべてゼロから書き直しました。

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    NOT A HOTEL Smart Home 制御盤内部の各機器へ接続する配線端子台

    再設計のポイントその1 ~ より高度な制御にトライする

    より詳細な制御

    制御盤を再設計するにあたり、まず見直したのが制御方法そのものです。
    業務用機器には多様な制御方式が存在します。シンプルに分類すると、大きく 2 種類 のアプローチがあります。

    ひとつは、
    接点による 0/1 のバイナリ操作や状態取得。
    いわゆる「スイッチのON/OFF」に近い制御で、信頼性が極めて高く、構造もシンプルです。

    もうひとつは、
    RS485、イーサネットなどを用いた、より細かなデータ通信による制御。機器側が対応していれば、ブラインド開閉度合いの命令、床暖房の温度制御、詳細な警報内容取得など、「操作の幅」が飛躍的に広がります。

    スマートホームの魅力を突き詰めるなら、この「操作の幅」は多ければ多いほど良いと考えています。そこで今回の再設計では、対応可能な機器は積極的に細かな通信方式へ置き換える方針を採りました。

    このアプローチにはいくつもの利点があります。通信制御にすることで、

    • 制御線の本数を減らせる

    • 接点制御のためのデバイスを削減できる

    • 結果として、故障ポイントそのものが減る

    という大きなメリットがありました。

    一方で、当然デメリットもあります。通信制御は高度な分、コードの複雑性が上がります。つまり、バグが紛れ込む可能性も増えるということです。そこはコードレビューやQAプロセスを強化することで品質を担保しています。

    また、制御方式を通信化したとしても、絶対にバグってはいけないクリティカルな領域に関しては接点制御も併存させています。例えば鍵や一部の安全系の設備など、万が一にも失敗できない箇所には二重化を行いました。これはスマートホームである前に、滞在の安全性を守るという、基本思想でもあります。

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    イーサネットによる機器制御をするために制御盤には産業のネットワークスイッチを搭載

    照明制御 ~ 建築の価値を引き出すために

    そして、もっとも大きな挑戦だったのが 照明制御 です。
    NOT A HOTEL において照明制御は、建築の魅力を最大限引き出す重要要素です。

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    NOT A HOTEL ではアプリから照明を操作可能

    特に DALI(Digital Addressable Lighting Interface)という照明制御規格については、相当な時間をかけて検証を行いました。DALI ゲートウェイを何種類も購入し、それぞれの挙動を細かく評価しました。最終判断は、KNX を経由しない DALI ゲートウェイを採用するというものでした。

    KNX を経由すると、どうしても DALI の低レイヤーコマンドに触れないという点がネックでした。これでは細やかな照度設定や特殊なシーン制御が実装できず、スマートホームとしてのポテンシャルを発揮しきれないことがわかったからです。

    新たに選定した DALI ゲートウェイは、低レイヤーのコマンドまで直接触れるため、できることの幅が飛躍的に広がりました。その結果、

    • 立ち上げ時のコミッショニングが高速化

    • 保守性が大幅に向上

    • シーン切替などの照明制御のスループットが改善

    という面でメリットが得られました。

    DALI まわりの話は深掘りするととんでもなく長くなるので、この領域を担当したエンジニアの投稿を待とうと思います。

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    現場で DALI 照明の調整をしている様子

    再設計のポイントその2 ~ デバイスの故障を考慮する

    NOT A HOTEL の特徴は、一般的な箱型ホテルとは根本的に異なる点にあります。通常のホテルであれば、もし設備トラブルが起きても「別の部屋へご案内」という選択肢があります。しかし、NOT A HOTEL はそうはいきません。

    一棟貸し、別荘のようなプライベート空間が前提のため、「この一棟が止まったら、代わりはない」という構造です。

    さらに 1 泊数十万〜数百万円という宿泊体験を提供する以上、スマートホームの安定稼働は「前提」ではなく「絶対条件」ともいえます。

    そして現実として、どれほど高品質な機器でも デバイスは必ず壊れる。これは避けようのないことです。重要なのは、「壊れないこと」を祈るのではなく、壊れる前提で設計することです。

    よく壊れるデバイスから冗長化する

    そこで今回の再設計では、特に障害リスクの高いデバイスを中心に、冗長化を設計に導入しました。冗長化した代表例が以下の 2 つです。

    • 24V 電源

    • エッジコンピューター

    どちらが止まっても制御盤全体が止まってしまうため、
    この 2 つは「最優先で二重化すべきクリティカルポイント」でした。

    電源まわりの冗長化と安全設計

    まず電源。
    24V 電源は 2 台用意し、それらを連結する 冗長ユニット を追加しています。これにより、どちらか一方が故障しても自動的にもう片方が引き継ぎ、制御盤を止めずに運用し続けることができます。

    さらに、停電対策として 24V UPS(無停電電源装置) も搭載しました。
    これにより外部電源が落ちても、一定時間は制御盤が動き続け、スマートホーム機能が「いきなり何も操作できない」ような状況を避けられます。

    そして大きなポイントがもうひとつ。24V DC は制御盤の外にも分岐して供給されるため、もし外部のどこかでショートが起きると、一瞬で全系統が巻き込まれる可能性がありました。そのため、サーキットプロテクタ(過電流保護)を導入し、系統を細かく分けることで、「一系統がショートしても他の系統は生き残る」という安全設計にしています。

    さらに、これらの異常をリアルタイムに検知できる仕組みも導入しました。UPS のバッテリーの劣化状況まで取得できるようにしたことで、「壊れる前に気づく」予防保全が可能になりました。

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    24V 電源、UPS、サーキットプロテクタ、冗長ユニットのセット。制御盤で一番場所を取る心臓部

    エッジコンピューターも冗長化

    もうひとつの重要なポイントが、エッジコンピューターの冗長化です。ここが止まると、スマートホーム全体の頭脳が停止してしまいます。

    そのため、エッジコンピューターも二重化し、障害発生時には予備側が瞬時に処理を引き継げる構成にしています。

    この部分は技術的にもかなり面白い仕組みになっていて、詳しい話は実装したエンジニアが後続のブログで語ってくれる予定です。(個人的にも楽しみにしています。)


    今回の再設計では、「モジュールが壊れる前提で設計する」という考え方を徹底し、制御盤全体の耐障害性を一段上のレベルへ引き上げました。NOT A HOTEL のスマートホームが「安心して使える」という裏側には、こうした地道でテクニカルな工夫が詰まっています。

    再設計のポイントその3 ~ デリバリーの安定性を高める

    制御盤をゼロから再設計するにあたり、私たちは性能、機能性だけでなく、「デリバリーの安定性」 を重要な評価軸として設定しました。

    制御盤はプロダクトの中心であり、NOT A HOTEL の滞在体験を支える基盤です。どれほど優れた制御方法や高度な機能があっても、必要なタイミングで機器が調達できなければ NOT A HOTEL として完成しません。これは運用フェーズでも、立ち上げフェーズでも同じです。

    日本の産業用機器の安定性と調達力に気づかされた

    今回、制御盤内で使用する機器の選定を行う中で、私自身、あまり詳しくなかった領域にも踏み込みました。そのプロセスで、日本の産業用機器には安定性・信頼性・調達性の面で優れた選択肢が多いことを改めて実感しました。動作が堅牢で、メンテ性が高く、痒いところに手が届くプロダクトが多く流通しています。

    元々、制御盤を構成するデバイスはほとんどが海外製でしたが、今回の再設計を通じて、「日本製:約50%、海外製:約50%」という構成に変わりました。

    これは単なる国産回帰ではなく、「機器としての信頼性」×「継続的に手配できるか」を総合的に判断した結果です。

    デリバリーの「詰まり」はプロダクト価値の低下につながる

    NOT A HOTEL の施設は、同じ仕様を複数拠点で展開していきます。そのため、制御盤の構成要素が安定して手配できないと、

    • 工事スケジュールが遅れる

    • 保守部品が届かず現場が止まる

    • 代替機器による仕様変更が発生し、体験にブレが生まれる

    といったリスクが現実的に発生します。

    だからこそ、今回の再設計では機器選定の段階から「このメーカーはどれくらい安定的に供給してくれるか?」という視点を強く持ちました。

    自社で在庫を持つという判断

    さらに、デリバリーの安定性を上げるもうひとつの施策として、
    制御盤用の機器を自社で在庫として確保する体制を整え始めました。

    これにより、

    • 現場でのトラブル対応が迅速にできる

    • 工期の遅延を防ぐ

    • デバイスの仕様がブレない

    といった効果が得られます。また、在庫管理は外部倉庫と連携し、必要なときに必要な数を、無駄なく管理できる仕組みを構築しているところです。


    今回の再設計では、機能そのものだけでなく、安定して生産、デプロイする仕組みづくりにも大きく踏み込んでいます。

    NOT A HOTEL Smart Home の裏側には、目立たないけれど非常に重要なデリバリーの思想が隠れています。

    これからのスマートホーム開発はどこへ向かうのか

    スマートホーム開発は、派手なテクノロジーの裏側で、想像以上に地道で細かい作業の積み重ねです。一つひとつの機器を検証し、実装し、作図し、配線し、QA を行い、その上に、全体を統合する UX を設計することで、はじめて「NOT A HOTELの体験」が生まれます。

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    配線一つ一つまで現場で確認するメンバー

    言い換えれば、細部を積み上げ続けた先にしか、唯一無二のスマートホーム体験は存在しないということです。

    NOT A HOTEL のスマートホームも、まだ完成には程遠いと思っています。改善したいところは無数にあり、もっと最適化できる領域も山ほどあります。建築、設備、ハード、ソフトすべてを自社で作っているからこそ、進化の幅はむしろこれから広がっていくと感じています。

    そして、NOT A HOTEL の展開は今後さらに加速していきます。
    拠点が増えるほど、スマートホームというプロダクトが担う役割は大きくなり、その拡大を支え、牽引できる技術力が求められます。

    そのためにも、私たちはこれからも「進化し続けるスマートホーム」を作りたいと思います。

    一緒に未来のスマートホームを作りませんか?

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    開催中イベントのデモをリアルタイムに構築するメンバー

    NOT A HOTEL では、これからのスマートホームを一緒に作ってくれる仲間を募集しています。スマートホームメンバーは現在15名ほどですが、今後もどんどん仲間を増やしていく予定です。

    • 電気工事施工管理技士

    • 制御盤設計エンジニア

    • IoT エンジニア

    • ソフトウェアエンジニア

    • 設備エンジニア

    • etc.

    どの職種も、これからの NOT A HOTEL の成長に欠かせない領域です。

    少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ カジュアル面談 に応募してみてください。あなたの経験や専門性が、スマートホームの未来を大きく前進させる力になるはずです。

    謝辞

    スマートホーム開発では、多くの外部パートナーのみなさまに協力いただきながら取り組みを進めています。そうした協働の積み重ねを踏まえつつ、現在は自社内でより柔軟に改善できる体制へと進化しています。関わってくださっている皆さまに感謝いたします。

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