
アルゼンチン共和国杯2026|逃げ切りも追い込みも「34秒6」。その違いはどこにあったのか【レースを読む】
2024年のアルゼンチン共和国杯。ハヤヤッコは4コーナー15番手から差し切った。
翌2025年。ミステリーウェイはすべてのコーナーを先頭で通過し、そのまま逃げ切った。
正反対の勝ち方だった。
ところが、過去の結果を並べていて、妙なことに気づいた。
両馬の上がり3ハロンが、まったく同じ34秒6だったのだ。
上がり3ハロンとは、最後の600mを走った時間のこと。後方から追い込んでも、先頭で逃げ切っても、最後の600mにかかった時間は同じだった。
同じ東京芝2500m。同じ34秒6。
それなのに、なぜ勝ち方がこれほど違ったのだろう。
今年のアルゼンチン共和国杯を考えるにあたり、まず気になったのはそこだった。
100メートルしか違わないコース
東京芝2500mは、2400mより100m長い。
数字だけを見れば、たいした違いには思えない。ところが、この100mには少し厄介な意味がある。
東京芝2500mのスタート地点は、2400mより約100m、4コーナー寄りにある。
2400mが坂を上り切ったところからのスタートなのに対し、2500mは正面直線の上り坂の途中から走り始める。
つまり、発走直後に坂を上り、1周してきた最後の直線でも、もう一度同じ坂を上ることになる。
東京競馬場の直線は525.9m。残り約460mから300mにかけて約2m上り、坂を越えてからも約300mが残っている。
直線が長いから末脚勝負、と単純に考えるわけにはいかない。
最後に速い脚を使うためには、そこまでの1900mをどう走ってきたかが重要になる。
ハヤヤッコとミステリーウェイの違いも、最後の600mだけを見ていては分からなかった。
34秒6にたどり着くまでの違い
まず、2024年と2025年のレース全体のラップを比べてみる。
2024年の勝ち時計は2分29秒0。2025年は2分30秒2だった。
スタートから500mの通過タイムは、2024年が29秒6、2025年が30秒6。
2024年の方が1秒速い。
ところが、900m地点ではその差が0秒4まで縮まっていた。
本当に大きな違いは、その先にあった。
900m地点から1900m地点までの1000m。
2024年は59秒0。
2025年は61秒3。
同じ区間で2秒3も違っていた。
2024年は序盤が速かっただけではない。道中も11秒台後半を中心としたラップが続き、先行馬にとって息を入れにくい流れだった。
実際、逃げたジャンカズマは13着。自身の上がりは39秒4までかかり、2番手で運んだショウナンバシットも14着に敗れている。
レース全体の最後の600mは36秒1。ハヤヤッコは、前の馬が苦しくなる中、34秒6の末脚で差し切った。
一方、2025年のミステリーウェイは、中盤に12秒3から12秒4のラップが続く区間を作り、先頭を維持した。
2024年と比べれば、道中で余力を残しやすい流れだったと考えられる。
そして最後の600mを34秒6でまとめ、後続を振り切った。
ここでもう一つ、面白い数字がある。
2024年のハヤヤッコが記録した34秒6は、そのレースで最も速い上がりだった。
ところが2025年は、ミステリーウェイより速い上がりを使った馬が10頭もいた。
2着スティンガーグラスは34秒2、3着ディマイザキッドは34秒1。それでも先頭には届かなかった。
一方は、誰よりも速く走って追い込みを決めた。
もう一方は、自分より速い上がりを使った馬たちを従えて逃げ切った。
同じ34秒6でも、こうして比べるとずいぶん違って見える。
もちろん、馬場状態や出走馬の能力差もある。中盤のラップだけで勝敗が決まったとは言えない。
それでも、最後の600mの数字だけでは見えない違いが、そこにはあった。
2018年は、また別の競馬だった
さらに過去へさかのぼると、2018年にも興味深い数字があった。
この年は中盤、200mごとのラップが13秒3、13秒0まで落ちている。
道中で大きくペースが緩み、最後の600mは11秒1、11秒0、11秒2。
合計33秒3。
勝ったパフォーマプロミス自身の上がりは32秒6だった。
2024年のように速いラップを刻み続ける競馬とは、まったく違う。
同じ東京2500mでも、道中で脚をためて最後に一気に加速する年があれば、速い流れを長く走り続けなければならない年もある。
過去10年の勝ち馬を4コーナーの位置で分けると、4番手以内が5頭、5~9番手が3頭、10番手以下が2頭。
前からでも、後ろからでも勝ち馬は出ている。
ただし、勝ち馬10頭の位置取りだけでは、どこが有利なのかまでは判断できない。
2023年のゼッフィーロと2024年のハヤヤッコは、ともに4角15番手から勝った。その翌年には、ミステリーウェイが逃げ切っている。
どうやら、このレースで考えるべきなのは、どの脚質が有利なのかということだけではないらしい。
どこでペースが緩み、どこから厳しくなるのか。
その流れによって、同じ位置取りの意味も変わってくる。
ハンデ戦なのに、軽い馬ばかりが勝つわけではない
もう一つ、気になった数字がある。
アルゼンチン共和国杯はハンデ戦だ。
実績などに応じて負担重量に差をつけ、各馬の条件を近づけようとする。
軽い斤量を与えられた馬にも、勝つチャンスが広がるはずである。
ところが過去10年、勝ち馬の斤量はすべて54kg以上だった。
2024年のハヤヤッコに至っては58.5kg。8歳、10番人気での勝利だった。
だからといって、重い斤量の方が有利という話ではない。
そもそも実績のある馬ほど重い斤量を課されやすい。斤量と能力を切り離して考えることはできない。
軽ハンデ馬が好走した例もある。2018年のマコトガラハッドは51kgで3着に入った。
ハンデがあるからといって、能力差が完全に消えるわけではない。
斤量の軽さだけを理由に評価を上げたり、重さだけで評価を下げたりするのは、少し危ういように思う。
過去10年の数字は、今年の答えではない
人気別の成績も確認しておこう。
過去10年の1番人気は3勝、2着3回、3着1回。3着以内率は70%だった。
3番人気も3着以内率70%。
3着以内に入った延べ31頭のうち、23頭が5番人気以内だった。上位人気馬は比較的堅実に走っている。
一方、6~10番人気からも3頭の勝ち馬が出ている。
ハヤヤッコは10番人気、ミステリーウェイは9番人気だった。
前走の成績にも、興味深い傾向がある。
過去10年、前走11着以下だった馬は33頭(競走中止を含む)。この中から3着以内に入った馬はいない。また、勝ち馬10頭はいずれも前走が2200m以上で、着順は10着以内だった。
こうした数字には、確かに参考にする価値がある。
ただ、過去10年間で起こらなかったことが、今年も起こらないとは限らない。
特に過去10年はいずれも良馬場で行われている。今年の天候や馬場状態が変われば、比較の前提も変わる。
数字は、今年の結果を教えてくれるわけではない。
何を考えるべきか、その手がかりを与えてくれるものだと思う。
今年の2500メートルは、どんな競馬になるのか
2026年のアルゼンチン共和国杯は11月8日、5回東京2日の芝2500m。使用コースはBコースの予定だ。
今回、過去10年のデータを調べ始めたときは、どの脚質が有利なのかを知りたかった。
ところが、調べるうちに、その問いだけでは足りないと思うようになった。
前の馬が残るのか。後ろの馬が届くのか。
それを考える前に、どの馬が先頭に立ち、どこでペースが緩み、どこから速くなるのかを考えなければならない。
そして、その流れに対応できる馬はどれなのか。
ハヤヤッコとミステリーウェイは、正反対の競馬で勝った。
それでも、最後の600mは同じ34秒6だった。
数字が同じだからといって、その意味まで同じとは限らない。
今年の2500mでは、最後の600mにたどり着くまでに何が起こるのだろう。
次回は出走馬それぞれの近走を調べ、どのような流れに対応してきたのかを考えていく。
まだ本命は決めない。
まずは、馬を見る前にレースを読む。
※『データで競馬を考える。』は、①レースを読む、②馬を読む、③最終予想、④答え合わせの4記事で、予想時の判断とその結果を検証する連載です。