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【君はすでに答えを見つけている】「このままでいいのか」と立ち止まる夜から、人生は動き出す

    「このままでいいのか」と思う夜がある。

    仕事はこなしている。生活も回っている。誰から見れば、ちゃんとしている。 それなのに、ふとした瞬間に、自分の人生が自分のものではないように感じる。

    そういう違和感は、たいていすぐに打ち消されてしまいます。 甘えるな。贅沢だ。もっと頑張れ。考えすぎだ、と。 世間の常識や自分自身の焦りで、そのモヤモヤに蓋をしてしまうのは簡単です。

    しかし、もしその心の声を無視せずに、一度だけ足を止めてみたらどうなるでしょうか。

    『明日の君は、どこにいる? ヘーゲル先生の自己啓発の教室』では、あえてその違和感に蓋をせず、主人公が立ち止まるところから幕を開けます。 しかも、私塾の主であるヘーゲル先生は、「その問いを持った時点で、もう答えは見つかっている」と言い切るのです。

    本日は、皆さんがこの物語の世界へ入る最初の扉として、プロローグの場面をそのままご紹介します。

    働き始めて数年。久々に会ったヘーゲル先生に、思わず心の声をもらしたときから、僕の人生はゆっくりと動きはじめた。
    「僕の人生はこのままでいいのでしょうか、先生」
    答えがあるとは思えない質問に対し、先生は笑いながら「そんなの簡単な話だ」と答えた。
    「君はすでに答えを見つけている。その疑問を持った段階から」
    どんなにくだらない話にも付き合ってくれる先生の声を聞くと、遠い記憶が蘇ってくると共に、社会に出て身につけた鎧が、するするとほどけていくようだった。

    事の発端は、数週間前だった。
    夜十一時、スマホを見ていると「久しぶりに飯でも食おう」と連絡がきた。高校時代からの友人である小林からだ。およそ一年半ぶりの連絡に僕は嬉しくなり、すぐに返信をした。あっという間に予定は決まり、その週末の夜、実家の近くにある居酒屋で待ち合わせをした。
    高校のクラスで偶然隣の席になり、趣味が驚くほど一致して親しくなった僕たちは、卒業後も変わらず関係が続いていた。
    しかし、最近ではめっきり会う機会が減っていた。二人とも社会人になって忙しくなったからだ。特に小林の仕事は激務のようで、朝七時に家を出て夜十一時に帰宅するという、まるでコンビニの名前のような働き方をしていた。

    予定より十五分ほど遅れてやってきた小林は、くたびれた紺色のスーツ姿だった。手を合わせて「悪い、待った?」と謝りながら席につくなり、ネクタイを緩めて「これでも、今日は早めに仕事が終わってよかったよ」とニコリと笑った。
    久しぶりの再会で話がはずみ、酒も進んだ。酔いが回った僕は、普段は言わない仕事の愚痴をこぼし始めていた。
    上の部署は数値を追いかけるだけで、現場が分かっていない。
    もっと効率よくやればいいのに、ルールだからといって変えてくれない。
    責任を追求するわけでもなく、なぜやっているのか理由を聞いたら嫌な顔をされた。
    話の途中でビールの空きグラスを置き、おかわりの注文をしようとしたときだった。小林が、それまでの僕の話を断ち切るように言った。
    「お前さ、そんなこと言ってないで俺と一緒に何かやらないか。いまなら社会の役に立つ仕事か、何かを立ち上げてさ。俺と一緒にビッグなことを」
    唐突な起業の誘いに、僕はたじろいだ。
    でも、僕はそれを見ないふりをして軽口で返した。
    「なんだよ、急に。しかもビッグって。もっとまともな誘い方はなかったのかよ」
    小林は笑ったが、一瞬悲しい顔をした。
    その話題はそれで終わり、昔と同じように終電間際まで飲んで別れた。

    しかし、小林に誘われたことが、いつまでも僕の心のどこかに引っかかっていた。
    はたして僕は、小林の起業の誘いを断ってよかったのか。

    そもそも僕はいまの仕事に満足しているのか。
    自分の人生これでよかったのだろうか。
    死ぬ時に、自分の人生は満足であったと言えるのか。
    どこかで人生を間違えたからではないか。
    こんな漠然とした不安に僕は襲われることになった。
    しかし、どんなに考えても、その答えは出てこなかった。

    『明日の君は、どこにいる? ヘーゲル先生の自己啓発の教室』

    ■ 「悩み」は人生が動き出す前触れである

    このプロローグで描きたかったのは、誰もが経験しうる日常の「ぐらつき」です。

    主人公は決して、特別な危機に陥っているわけではありません。仕事が完全に破綻したわけでもなく、恋人に振られたわけでも、会社を辞めたわけでもない。ただ、友人の一言をきっかけに、自分の人生の輪郭が急にぐらつき始めただけなのです。

    そしてそのぐらつきに対して、先生は「まだ答えが見つかっていないね」とは言いません。 「君はすでに答えを見つけている」と言い切ります。

    ここが、この物語の出発点であり、最初に伝えたかったメッセージです。

    多くの本は、「どうすればいいか」という解決策やノウハウを教えようとします。

    でも、この物語はまず、「その問いを抱えたこと自体に意味がある」と肯定することから始まります。悩むことを、人生の遅れや意思の弱さとしてではなく、本当の人生が動き出す前触れとしてあつかっています。

    もしあなたも、主人公と同じような「人生のぐらつき」に心当たりがあるのなら。きっとこの物語を、ご自身の身近な出来事として読んでいただけるはずです。

    『明日の君は、どこにいる? ヘーゲル先生の自己啓発の教室』は、すぐに分かりやすい答えを渡す本ではありません。 その代わり、「自分の人生はこのままでいいのか」と立ち止まった人が、どこから考え始めればいいのかを、先生との対話を通してゆっくりと見せてくれる本です。

    もしあなたが今、立ち止まって人生について考えたいなら、ヘーゲル先生の教室物語が、未来へ一歩踏み出すときの力になってくれるはずです。

    この本が書かれた経緯のノート


     
     
    建築家・作家。Design Office Stet代表。 店やまち、建築、本、歴史、哲学など、気になったことを調べて書いています。 『明日の君は、どこにいる?』著者。

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