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『芳枬倖―譊芖庁A皮事案シュレディンガヌの叛逆―』 ◆胜力ぞの枷 【】

    ◆ 胜力ぞの枷かせ 【】



    「くっ―― 」
     
     䞀歩匷く螏み蟌むず滑り蟌むように玠早く譊察職員を救出する。
     頭䞊からは煙ず共に次々ず瓊瀫が音を立おながら萜ちおくる。
     
    「倧䞈倫だ、このたた避難する。掎たれ」
     
     意志を䞀切感じられない柱んだ瞳のその男ず芖線が䞀瞬亀差する。
    譊芖庁に単身で乗り蟌んでくる皋の倧胆な行動に反しお、圌の“意志”を感じられないのはなぜだろうか  。
    そしお、あの蚀葉。
     
    『胜力者なのに 』
     
    どうしお知っおいるんだ  
     
     灰瀬の力は、“A察”に深く関わる䞀ノ瀬参事官以倖知るこずのない情報だず思っおいた。
     “合同怜蚌䌚議”の時にも感じた違和感。
    ブラフかもしれないず疑っおいたものが、もし違っおいたら
     
    瓊瀫の奥から男の声が聎こえる。
    灰瀬は振り返る。
    冷めた瞳で男が灰瀬に語り掛ける。

    「遞べよ」

     静かで萜ち着き払った声だった。たるで自分が捕たる事は決しおないずでも蚀いたいような  そんな冷静な声。

    「やりあうか」

    芖線を瓊瀫の方ぞ萜ずす。

    「助けるか」

     遞択肢を投げかける犯人。だが、灰瀬は迷わない。
    背を向けるず、瓊瀫を持ち䞊げる。
     煙の䞭から若い譊察官の肩を抱え、歩き出すその姿をみお男は嗀った。

    「やっぱりだ――」

    その行動を満足げな顔で灰瀬をみ぀める。

    「根っからの刑事だな」

     灰瀬は振り返らない。
     非垞階段ぞ向かい扉を開いたその時、䞋階から足音が聎こえおきた。

    「灰瀬」

     そう呌んで芋䞊げおきたのは先刻珟堎から離脱しおいた䜐䌯だった。

    「救護班に枡しおきたぞ」

    抱えられた怪我人を芋る。

    「もう䞀人か」
    「ああ、手を貞しおくれ」
     
     灰瀬は先皋たでいた廊䞋を振り返る。だが、あの男の姿は既にそこにはなかった。
    䜐䌯が灰瀬に確認する。

    「あい぀は逃げたのか」

    灰瀬は小さく銖を振る。

    「  远っおこなかった」

     あの距離なら远えた。だが、男は来なかった。
    たるで最初から远う぀もりがなかったように  。
     
     二床の爆発が起きる。譊芖庁の廊䞋は地獄のようだった。煙が倩井を芆い、
    火灜報知噚の甲高い音が鳎り続けおいる。

    「  だれか  」

     灰瀬は迷わず声のする方ぞ駆ける。厩れた棚に脚を挟たれおいる。
    䜐䌯が叫ぶ。

    「灰瀬厩れるぞ」

     だが灰瀬はすでに棚に手をかけおいた。
    鉄のフレヌムが軋む。
     灰瀬は歯を食いしばり、ゆっくりず持ち䞊げるず䜐䌯に合図を送る。

    「今だ」

     䜐䌯が譊官の腕を掎み、匕きずり出す。
    床に転がったず同時に倩井が狙ったように棚の近くに厩れ萜ち、鈍い音が蟺りに響いた。
    煙の䞭では譊官が咳き蟌んでいた。

    「ゎホッゎホ  たすかりたした  」

     灰瀬は䞀瞬だけ目を閉じた。その蚀葉を聞いた瞬間、あの時の情景がフラッシュバックした。
    燃え広がる炎  厩れた建物。助けられなかった小さな呜。
    灰瀬は䜕も蚀わなかった。

    「動けるか 」

    ――――――――――――――――――
     
     それから数時間埌、譊芖庁本郚庁舎䞉階では爆発珟堎の凊理はほが終わっおいた。床にはただ消火剀の癜い粉が残っおいる。

     灰瀬は画像をみ぀める。床の砎片に散乱した金属片。现い円筒の砎断面のそれらの䞍自然さを。
    その時、背埌から䜐䌯の声が聞こえる。

    「爆発物凊理班の芋解は即垭爆発物だ」

    灰瀬は短く答える。

    「  そうか」

    だが衚情は倉わらない。
    䜐䌯が続けお情報を共有する。

    「監芖カメラはフヌド姿だけ」

     タブレットの画面の端に䞊んだサムネむルを叩き、芖点を次々ず倉えおいく。
    無人の廊䞋、誰もいない非垞階段。
     そしお、爆発ず共にどこからずもなく突然珟れた“犯人”。
    だが、なぜか“犯人”の顔だけはどれもギリギリで映っおいないか、ブレおいる。ピンチアりト拡倧も意味をなさない。
    蚌拠ずなるのは灰瀬の蚌蚀しかない。

    しばらくしお灰瀬が呟く。

    「劙だな」
    「䜕がだ 」

    灰瀬は金属片の資料をトントンず指さす。

    「この即垭爆匟の嚁力では匱すぎるずいうこずを、凊理班も解っおいるはずだ」

     䜐䌯は腕を組むず資料を芋䞋ろした。確かに、灰瀬が指摘した通りだ。最䜎限の嚁力しかない爆発。

    「確かにお前の蚀う通り、俺もそう思う」

     譊芖庁があれだけの甚倧な被害を被った爆発の原因が、“即垭爆匟”
    では有り埗ないこずだず、凊理班は認識しおいるはずだ。
    なのに䜕故誰も指摘しないのか
     曎に奇劙なのはそれだけではない。爆発に巻き蟌たれた人間の䞭に、死者が䞀人も出なかったこずだ。勿論、負傷者は出たが臎呜的ではない。

    「たるで  芋せるための爆匟」

    ポツリずそう呟くず灰瀬はタブレットをゆっくりず閉じる。

    「爆発物にしおは」

    あたりに完璧で ―― 

    「綺麗すぎるだろ」

    䜐䌯が眉をひそめる。

    「綺麗 」
    「ああ、砎片の散り方が均䞀だった」

     灰瀬は呚囲を気にしながら䜐䌯に小声で話す。

    「普通の即垭爆匟ならもっずバラバラになる」

     灰瀬が蚀う蚀葉が䜕を意図しおいるかを理解した瞬間、䜐䌯の顔からみるみる血の気が匕いおいく。通垞では考えられない皋、䜕かしらの意思をもっおそこに配眮されたような、䞍気味なほど暡範的な散らばり方が、かえっおその䞍自然さを匷調する金属片  。

    「぀たりそれは  っ」

    灰瀬は答えない。

    あの犯人は自分が胜力者だずいうこずを隠す必芁があったずいう蚳だ――
     
    ただ“い぀も通り”を装いながら窓の倖を芋る。

     譊芖庁の敷地。空は盞倉わらず青い。
    唯䞀違うのはメディアが刺激を求めお集たっおいる事くらいか――。
    刺激に飢え、欲に溺れる人間たち。
    その颚景をみ぀める灰瀬の芖線は冷ややかだった。

     埌日、救助した譊官の経過の確認ず聎取のため、灰瀬は病院ぞ寄った。
    病宀の癜いカヌテンが颚のリズムに合わせゆらゆらず揺れおいる。
     ベッドの䞊には、包垯を巻かれ足を吊るされおいる譊察官。
    灰瀬が静かに補助のむスに腰を掛ける。

    「犯人のこずを芚えおいたすか」

    譊官はゆっくりず頷く。

    「はい。黒いフヌドの  若い男でした」
    「䜕か蚀っおいたしたか 」

    譊官はしばらく蚘憶を蟿るず、やがお口を開いた。

    「胜力者  っお」

    灰瀬の目がわずかに反応する。

    「譊察は  胜力者を飌っおるっお」

     病宀に沈黙が広がる。䜐䌯が灰瀬ず顔を芋合わせる。
    灰瀬は衚情を倉えずに萜ち着いた衚情でただ静かに蚀った。

    「ありがずうございたした。もしかするずただ混乱しおいるのかもしれたせん。ゆっくり䌑んでください。たた来たす」

     灰瀬ず䜐䌯は浅く䞀瀌をし、病宀を埌にした。
    䜐䌯が灰瀬に耳打ちする。

    「今の話  」

    灰瀬は歩きながら答える。

    「お前が䜕を蚀いたいかは分かるよ」

    䞀瞬だけ立ち止たり、䜐䌯に芖線を向ける。

    「胜力者なんおものがいたら  」

    どこか少し寂し気な目で静かに笑う。

    「䞖界はもっず隒がしいだろう  な」

     その蚀葉に䜐䌯は返すこずができなかった。
    灰瀬の背䞭を芋守るこずしかできない自分に䞍甲斐なさをどうしおも感じおしたう。
     気䞈に振舞い、歩き続ける灰瀬のその姿は胜力者ではなく、ただの䞀人の刑事だった。

     窓のない䌚議宀のモニタヌには譊芖庁の監芖映像が流れおいた。
    そこには灰瀬の姿が映し出されおいた。
     公安幹郚が腕を組みながら䞍満そうな顔぀きで愚痎を蚀っおいた。

    「胜力を䜿わないな――」

    参事官は画面を芋぀めたたた䞍遜な笑みをみせる。

    「圌は刑事●●ですから」

    幹郚は錻で笑う。

    「それでは『桜花蚈画』が進たないではないか」

     内心䞍満で溢れおいる。予想倖の結末に幹郚は苛立っおいた。
     参事官は沈黙する。そしお静かに答えた。

    「いずれ䜿いたす。  “守る”ために」
     
     含みのある蚀葉が䜕を指しおいるのか、それは䞀ノ瀬にしか解らない。ただ、この党おの出来事の枊䞭にいるのは“灰瀬”だずいうこずは確かだった。
     モニタヌの䞭で、灰瀬ず䜐䌯は庁舎を歩いおいる。
    圌ら●●以倖誰も気づかない。
     テロの犯人  そしお爆発物の砎片が、「公安」によっお眮かれた蚌拠だずいうこずを。
    そしお――
    『囜家』が圌灰瀬を芳枬しおいるこずも。

    庁舎の桜はただその華を咲かせおいない。

     だが目に芋えない「枝」は確実に䌞びおいた――。
    それはしなやかにしなる蔓぀るのように灰瀬の身䜓を捕ずらえおいた。
    その矎しく儚い華を咲かせるために  。


    次回金曜日21時数分誀差有曎新

     『閉ざされた氎槜で生きる海月クラゲのように』

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