
【226日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく
「イヤ。真面目に聞いてくれなくちゃ困る。チャン公一流のヨタなんかコレンバカリも混っていないんだぜ。これがあの四五年前に流行した『ドコマデモ』という俗謡の本家本元なんだ。チャント記録に残っているんだ」
「……ヘエ。そんなもんですかね」
「そうだとも。第一お前さんと一緒ならサハラだのナイヤガラ見たような野暮な処へは行かない。一緒に天に昇って並んだ星になって、下界の人間をトコトンまで羨やましがらせましょうというんだから遣り切れないよ。覗いて聞いていた奴もタイシタ奴に違いないが……」
「しかし、それが絵巻物とドンナ関係があるんですか」
「大ありだ。まあ急かないで聞き給え。大陸の話だからナカナカ焦点が纏まらないんだよ。いいかい……こんな文化式の天子だから玄宗皇帝は芸術ごとが大好きで、李太白なぞいう、呑んだくれの禿頭詩人を贔屓にして可愛がる一方に、当時、十九か十八位の青年進士呉青秀に命じて、遍ねく天下の名勝をスケッチして廻らせた。すなわち居ながらにして天下を巡狩しようという、有難い思召だ……ドウヤラ貴妃様の御注文らしいがね」
「絵の天才だったのですねその青年は……」
「無論さ。十八九の青年の癖に、古今に名高い禿頭の大詩人、李太白の詩と並ぶ絵を描く奴だから、生優しい腕前じゃないよ。もっとも運が悪くて夭死にしたために、名前も描いたものも余り残っていない。前にも云った通りその頃の記録には勿論の事、近頃の年代記類にも記載してあるにはあるが、書物によって年代や名前が少し宛違っていて、確実なところはわからないようになっている。しかし、何しろここに詳しい事を記載した実物の証拠があるんだから、将来の史学家はイヤでもこの方を本当にしなければなるまいて」
「そうするとその絵巻物はトテモ貴重な参考史料なんですね」
「貴重などころの騒ぎじゃない……ところで話はすこし前に帰るが、その青年進士呉青秀は、天子の命を奉じてスケッチ旅行を続けている間がチョウド六年で、久し振りの天宝十四年に長安の都に帰って来ると、そのお土産の風景絵巻が、頗る天子の御意に召して、御機嫌斜ならず、芸術家としての無上の面目を施した上に、黛子さんという別嬪の妻君を貰った。おまけにチョウド水入らずで暮せるような、美しいお庭付きの小ヂンマリした邸宅を拝領したりして、トテモ有り難い事ずくめだったので、暫くは夢うつつのように暮していた訳だね。ところがその中に、だんだんと落ち付いて来ると、時恰かも大唐朝没落の前奏曲時代で、兇徴、妖孼、頻々として起り、天下大乱の兆が到る処に横溢しているのに気が付いた。しかも天子様はイクラお側の者が諫めても糠に釘どころか、ウッカリ御機嫌に触れたために、冤罪で殺される忠臣が続々という有様だ。……これを見た呉青秀は喟然として決するところあり、一番自分の彩筆の力で天子の迷夢を醒まして、国家を泰山の安きに置いてやろうというので、新婚匆々の黛夫人に心底を打ち明けて、ここで一つ天下のために、お前の生命を棄ててくれないか。いずれ自分も、あとから死んで行くつもりだが……と云ったところが……あなたのおためなら……という嬉しそうな返事だ……」
「トテモ素敵ですね」
ググってみたが呉青秀はさすがに創作上の人物のようだ
ググったら呉一郎の先祖とでてきたが、これは重要なネタバレだったのだろうか…
同じ呉だしそこまで隠してる情報ではないか