メインコンテンツへスキップ
見出し画像

除霊熱波

    「ぜ、全部、デタラメなんです。サウナで除霊なんて」
     熱波師、田中は震えていた。サウナにいるのに悪寒と脂汗が止まらない。額や膝が焼けるように熱いのは、土下座しているからだ。
    「仕事クビになって、テントサウナしか手元になくて。スピ系で一発当てようとしたら、すげえウケちゃって」
    「別にいいと言っておるじゃろ?はよう面を上げい」
     優しく彼に声をかける女は、田中の今日の客だ。しかし、田中は必死で首を横に振る。
    「だ、だから、マジで霊とか」
    「面を上げい」
     田中の顎が、見えない何かに、乱暴に持ち上げられる。

     見えてしまう。

     見たくないから、ずっと土下座してたのに。

     ぞっとするほど白い肌に、タオルだけをまとった女。そして、壁から天井から、びっちりと埋め尽くしうごめく、何か。本能がそれを直視することを拒むが、顎を固定され、叫ぶことも目を背けることも許されない。涙と鼻水と嗚咽があふれる。

     女は、端正すぎる顔を歪め、げたげた笑う。
    「ぎ・ひ・ひ・ひ!!そらそら、除霊の時間じゃ!怨霊に取り殺される前に、ワシを『ととのわせて』みせよ!」


     真っ暗な空間の中心に、ikiのサウナストーブがひとつ。照明を浴び、神像のように静かに、田中の前に立っている。
    『ここはあなたの精神世界です。怨念に侵され、もう私しか残っていません。まあ、もともと空虚な場所でしたが』
     サウナストーブが厳かに言った。
    『除霊には信仰が必要です。あなたにはサウナしかない。だから、サウナで除霊するしかありません』
    「だからそれはデタラメだって」
    『信じるに足るものが、他にありますか?宗教、正義、理念、愛……』
     田中は目を逸らす。
    『ないでしょう。あればこんな浅はかな死に方はしないはずです』
     暗い空間に、わずかな光が差し込む。
    『あの女と怨霊も、すぐにここへ攻めてくるでしょう。行きなさい、内なるサウナ宇宙ヴァースへ。サウナへの信仰を、己の武器とするのです』

    【続く】

     
     
    小説家。代表作:『Q eND A』(角川ホラー文庫)『大谷ポケカ』ライオンマスク名義でゲームやサウナの記事も書く。ホームは『第三玉の湯』。ゲームや小説やサウナ関係の案件を募集中です X:@44900_lion mail:lionmizuburo@gmail.com

    あなたへのおすすめ