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【メモ】ひとりよがりのバラード

     あの日に戻りたい。

     誰しもそんな日があるのではないだろうか。大切な家族とのかけがえのない一日。二度と会うことのできない人と最後に過ごした日。人生の岐路で戻ることのできない選択をした日。

     きっとひとつに絞れないくらい、たくさんの候補があるだろう。僕にもそんな日がいくつもある。そのどれもが輝いていた日々とは言い難い。人生で下から数えたほうが早い日だって、戻ってみたい日のうちのひとつだ。

     もしやり直すことができたら。現在に影響を与えなかったとしても、その日の終わりに深い後悔を味わうことがなかったなら。そんな日がーー僕にはある。

     26年前の冬。僕は福岡市の南の果てで独り暮らしをしていた。洗濯機を玄関先に置くような、狭くて古いアパートだ。

     ガラス戸に仕切られた申し訳程度のキッチン。奥には四畳半の部屋。枕元には古本屋で仕入れた大量の本が山積みになっていた。その山は、まれに崩れて目覚まし代わりになったのだが、時間を問わないのが難点だった。

     隣にはインド人の学生が住んでおり、会うたび「オハヨーゴザマス」と元気よく挨拶してくれた。別人かと思うくらい顔が変わっていることがあったから、おそらく何人かで住んでいたと思う。

     彼らは基本的には真面目でいい子だった。だが、何度言っても聞かないのが、僕の洗濯機を勝手に使うことだった。帰宅すると、玄関先で勝手に洗濯をしている。「駄目だよ、勝手に使っちゃ」と言っても、なぜ駄目なのかを理解できていない。首をかしげて「ゴメンネ」というだけで、また同じことをする。

     彼らとは翌年に「ランドリー戦争」を起こすのだが、それはまた別の話。気になる方は世界史の教科書の近代史部分をめくってみるといい。載っているかもしれないし、そうではないかもしれない。

     そんなしょうもないアパートに、足しげく通ってくれていた女性がいた。名を真由といった。ここではプライバシー保護のためMAYUとさせていただく。この変換にどれほどの保護効果があるかわからないが。少なくとも一度漢字で書いてしまったから、もはや手遅れだろう。

     MAYUは居酒屋で働く専門学生だった。昼間はとある技術を学びながら、夕方からチェーンの居酒屋でホールを駆け回っていた。そこの板場で魚を捌いていた僕。始まりが何だったかは覚えていない。何かの飲み会のあとで、MAYUの部屋で情熱的なプロレスをしたことだけは覚えている。

     彼氏、彼女。そんな肩書きを互いにつけたかはわからない。ただ、一緒にいることが自然だと二人が思っていたなら、別に何も問題はなかった。

     他責で語れば、FF9のせいだ。

     当時発売したファイナルファンタジーの9作目。ガーネットだの、ビビだのが、僕の視界も手足も捉えて離さなかった。

     あの日MAYUがしていたのは、きっと二人の未来にとって大事な話だった。そのうち泣き出したのだって背中越しにわかっていた。それでも僕はゲームの画面を見続けた。やがてパスタの入った皿が飛んできて、MAYUは部屋からいなくなった。

     間違いなく僕のせいだった。

     あの日ちゃんと向き合えていれば、違う未来もあっただろう。二人の笑顔も新たな生命もあったかもしれない。いや、あの頃のクズな僕にそんな未来はもったいないが。

     どのみち一人の人間を深く傷つけたことは事実だ。いまさら反省したところで、なかったことにはならない。

     MAYUとFF9を天秤にかけたわけではない。仮にかけていれば、傾くことにすぐ気づいたはずだ。あの瞬間、愚かにも「どちらかを選んで、どちらかを失った」ことに僕は気づいていなかった。

     独りになった部屋で僕はプレステの電源を切った。反省したのかもしれないし、レベル上げに飽きたのかもしれない。前者であったと願いたい。

     その日は、眠れなかった。



     MAYUさん。遅くなりましたが、あの日の僕の気持ちを歌にして送ります。戻ることはできませんし、当時の想いは色褪せてしまいました。でも、ちいかわに誓って、あの日の本音です。

     それでは聴いてください。
     『dedicate everything』

    目を覚ますとひとり 古い本の匂い
    嫌いじゃない 好きになれない恋
    ぼくの前にひらり 舞い降りたよMelody
    悲しみより 切ない響きなのに

    もっともっと 世界の雫のように
    ずっとずっと あと少し届かないのに
    喜びより強く その光へ手を伸ばすから

    I dedicate everything to you.
    If you would just give me one more chance.
    あの日は無かったことにならない
    それでも君をもう一度愛してる
    朝を待つ僕にどんな声をくれるかい

    君の言ったとおり そばに居れないのに
    嫌いじゃない 嘘ばかりのMemory
    遠い日々の二人 冷めた街の明かり
    ときに人は 愛を間違えるのに

    きっときっと 世界が祝福するように
    ぎゅっとぎゅっと 抱きしめ合えたのに
    永遠より長く 一瞬より短くても

    I don't need anything but you.
    If you would just give me one more love.
    あの日がもういちど繰り返すなら
    いまでも君が止まらない 愛してる
    朝を待つ僕にどんな夢をくれるかい

    試してよ 確かめてよ 僕の愛を
    探してよ 消さないでよ 君の愛を

    I dedicate everything to you.
    If you would just give me one more chance.
    あの日は無かったことにならない
    それでも君をもう一度愛してる
    朝を待つ僕にどんな声をくれるかい


     ひとりよがりのバラードが届いたでしょうか。自己満足のメロディーが。

     コメント欄に「どうも、MAYUです」と書いた方には、真偽を確かめる術がないので、とりあえず謝ることとします。

     
     
    MojiでKoiする中年。 文字恋文化の世界遺産登録を目指し 日々活動しております。 という妄想を抱く中年です🤣 折り畳んだままでいて欲しかった。 開いちゃったあなたはもう仲間 質問箱はこちら https://note.com/qa/nifty_bee528

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