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【静岡・沼津】風の日の沼津御用邸を訪ねて|波板ガラスの大合奏、畳に揺れる陽だまり、和室に灯る洋の明かり

    11月14日、海からの強い風が吹きつける日に、静岡県沼津市の「沼津御用邸記念公園」を訪れました。

    松林がざわざわと鳴り、空には風に引きのばされた雲が流れていきます。明治から昭和にかけて、皇室の方々が冬を過ごした御用邸。その静かな建物は、この日だけは少しにぎやかでした。


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    海と松林に守られた、皇室の冬の住まい

    沼津御用邸は明治26年(1893年)、のちの大正天皇が皇太子だったころに、静養のための御殿として建てられました。冬でも暖かい気候と、海と松林に囲まれた静かな環境が選ばれた理由です。

    いま中を見学できる「西附属邸」は、もとは昭和天皇の養育係を務めた川村純義の別荘でした。明治38年(1905年)に御用邸の一部として整えられ、幼い昭和天皇や弟宮たちが過ごした場所でもあります。

    昭和20年の沼津大空襲で本邸は焼けてしまいましたが、西附属邸は焼けずに残り、その後は本邸の役目を引き継ぎました。昭和44年に御用邸としての役目を終え、翌年から公園として公開されています。

    歩いても歩いても続く廊下

    中に入ってまず驚いたのは、建物の大きさと広さです。ガラス戸がずらりと並んだ廊下が、角を曲がるたびに、さらに奥へと続いていきます。


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    個人の別荘として建てられた家が、皇室の住まいとして少しずつ広げられてきました。お付きの人たちも含めて大勢が暮らすには、これだけの広さが必要だったのでしょう。

    波板ガラスの大合奏

    この廊下のガラス戸には、当時の手作りの板ガラスがはまっています。表面が平らではなく、ゆらゆらと波打っていて、向こうの松林が少しゆがんで見えます。

    この日は、そのガラス戸が海からの強い風を受けて、いっせいにガタガタと鳴り出しました。割れてしまうのではと心配になるほどの、まさに大合奏です。百年以上前のガラスが、今も風と一緒に鳴っている。静かに見学するつもりが、思いがけず建物の「声」を聞いた気がしました。

    そして、そのガラスを通った日の光は、畳の上でゆらゆらと揺れていました。平らなガラスでは決して見られない、波板ガラスならではの陽だまりです。


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    和室に灯る洋の明かり

    館内で心をひかれたのが照明です。和風の板天井から、花のような形のガラスのかさをつけたシャンデリアが下がっています。和の部屋に洋の明かりという取り合わせなのに、ふしぎとよくなじんでいて、とても綺麗でした。

    これは当時のものなのだろうか、と思いながら、何度も見上げてしまいました。


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    畳の上にじゅうたんを敷き、花柄の椅子とテーブルを置いた部屋もあります。和の住まいに、西洋の暮らしを少しずつ取り入れていった明治の空気が感じられます。


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    ビリヤード台のある部屋もありました。


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    壁には、つまみを回す昔の電灯のスイッチが並んでいます。照明だけでなく、こうした小さな道具からも、当時の新しい暮らしぶりが伝わってきます。


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    薄暗がりの金屏風

    金の屏風は、薄暗い部屋の中でぎらぎら光ることはありません。わずかな光を受けて、やわらかく照り返しています。軒の深い日本の家では、金は飾りであると同時に、部屋に光を回す役目も果たしていたのかもしれません。


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    松林の先は駿河湾

    建物を出て松林を抜けると、目の前に駿河湾が広がります。空には筋のような雲が流れ、海の向こうに伊豆の山並みが見えました。

    ガラス戸を鳴らしていたのは、この海から吹いてくる風だったのです。


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    おわりに

    御用邸と聞くと、静かでおごそかな場所を思い浮かべます。けれども、この日の沼津御用邸は、風に鳴るガラス戸と、畳の上で揺れる光にあふれていました。

    古い建物は、写真や資料で見るだけではわかりません。その日の天気や風の中に身を置いて、はじめて聞こえる音や見える光があるのだと感じた訪問でした。

    訪ねるときは

    場所:静岡県沼津市下香貫島郷2802-1

    入園料:大人100円(西附属邸の見学は別料金)

    ※時間や料金は変わることがあるので、出かける前に公式の案内で確かめてください。


     
     
    古民家や文化財建築物が大好きな4児の父です。全国の歴史ある建築を訪ね、その佇まいや職人技をnoteに記録しています。自身も築80年以上の古民家で賑やかに暮らし中。訪れて感じる「美しさ」と、住んで実感する「リアルな味わい」の両面から古い建築の魅力を発信します!

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