
99%の怪
「あと一週間で終わります」
その言葉を、私は何度聞いてきただろう。
そして、そのたびに、少しだけ身構える。
設計は終わった。
プログラムも動く。
画面もできた。
デモも成功した。
進捗会議では、
「現在、99%完了しています」
という報告が出てくる。
その瞬間、会議室に少しだけ安堵が広がる。
ところが、そこから終わらなくなる。
一週間の予定が、2週間になる。
2週間が、1か月になる。
残り1%のはずなのに、仕事は減るどころか、別の仕事が次々と現れる。
新人の頃は、計画が甘かったのだと思っていた。
でも、いくつものプロジェクトを経験してきて、少し見方が変わった。
私は、これを心の中で「99%の怪」と呼んでいる。
99%になったところから、今まで見えていなかったものが出てくる。
通信が途中で切れたら、どうなるか。
利用者が想定外の操作をしたら、どうなるか。
エラーが出たとき、利用者は次に何をすればいいか分かるか。
どれも、デモでは目立たない。
正常に動いている限り、問題にならない。
しかし、実際に使われ始めると、そこに現れる。
最後まで残るのは、大きなバグとは限らない。
ある条件でだけ計算がおかしい。
特定の操作をすると、画面が崩れる。
エラーの意味が、利用者には分からない。
1つ1つは小さい。
でも、使う人にとっては、その小さな違和感が大きな不安になることがある。
そして、厄介なのは、見つけたあとだ。
1つ直す。
もう一度テストする。
別の場所に影響が出る。
そこを直す。
またテストする。
ようやく終わったと思ったところで、
「あれ?」
が出てくる。
その「あれ?」は、たいてい小さい。
使い方を知っている人なら困らない。
説明書を読めば分かる。
だから、後回しにされる。
でも、初めて使う人にとっては、そうではない。
「なんとなく不安だ」
そんな感覚が残ることがある。
私は、終盤になるほど、この感覚を気にするようになった。
数字を見る。
残っている課題を見る。
でも、それだけでは終わらない。
実際に触る。
普通に使う。
少し変な操作をしてみる。
エラーを出してみる。
初めて触る人のつもりで、画面を見る。
そして、
「これで、本当にいいのか」
と考える。
若い頃の私は、最後に残ったものを「仕上げ」だと思っていた。
最後の修正。
最後のテスト。
最後の確認。
つまり、完成までの残り作業だと思っていた。
でも、違った。
最後には、最初の頃には見えなかったものがある。
作ってみて分かること。
使ってみて分かること。
何度も触ったから気づくこと。
誰かが、
「ここ、ちょっと気になります」
と言って、初めて見えること。
それは、最初から課題一覧に書けるものばかりではない。
むしろ、最初から分かっているなら、もっと早く解決できている。
だから、終盤の仕事は少し違う。
作ることより、見ることが増える。
進めることより、戻ることが増える。
決めることより、立ち止まることが増える。
ここで、ひとつ気づいた。
99%という数字は、完成までの距離を正確に表しているとは限らない。
残っている1%の中には、まだ見つかっていない問題がある。
そもそも、課題として認識されていないものもある。
数字に表れているのは、把握できている仕事の進み具合にすぎない。
見えていないものは、進捗率には現れない。
だから、99%になったからといって、完成に近づいたと安心することはできない。
むしろ、そこから初めて見えてくるものがある。
「あと一週間で終わります」
そう言われたとき、今の私は、以前ほど安心しない。
むしろ、少しだけ画面を見る。
数字を見る。
そして、もう一度使ってみる。
99%。
そこには、まだ数字になっていないものが残っている。
完成とは、作り手が作り終えたと思うことではない。
使う人が、安心して使えるところまで考え抜くことだ。
だから私は、99%を見ると、少しだけ身構える。
終わりが近いからではない。
まだ、見えていないものがあるかもしれないからだ。
あわせて読みたい
マガジンの玄関はこちらです
よろしければ、ここから全体の流れをご覧ください。
全体の玄関はこちらです
ほかのテーマやシリーズへの入口を、ここにまとめています。