
新しいシステムを買う前にやるべきこと ―中小企業のバックオフィスに眠る「宝の持ち腐れ」を掘り起こす―
社労士開業準備中のともちかと申します。
これまで2回にわたって、社労士試験の勉強法と、その土台にある仕事哲学についてお話ししてきました。
今回からは実践編として、実際に現場で取り組んできた業務改善の事例を紹介します。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と聞くと、多くの経営者やバックオフィス担当者はこう思うはずです。
「うちにはITの専門家がいないから無理」
「高いシステムを導入する予算なんてない」
ここで声を大にして言いたいのですが、高度なプログラミングスキルは必ずしも必要ではありません。
そして「まず新しいシステムを買う」ことから始める必要もありません。
私はプログラマーではありません。
持っているIT関連の資格といえば、「MOS(Microsoft Office Specialist)Excel Expert」くらいです。
「Excelの関数やマクロを少し扱える」という、バックオフィス担当者としてはごく一般的なスキルです。
なお、これから紹介する取り組みは、すべて現在の職場で実施したものです。
しかも、専任のプロジェクトとして時間を確保してもらったわけではありません。
労務管理や社会保険手続きといった通常の総務業務をこなし、さらにシステム担当としてPCのセットアップやネットワーク設定といった日々の対応に追われながら、入社から半年足らずの間に形にしています。
今回はその中でも、「すでにあるものを、正しく使い直す」という視点で行った2つの改善事例をお話しします。
1つは追加投資ゼロで実現したもの、もう1つは相応の初期投資を判断したものです。
その判断の分かれ目についても、正直にお伝えします。
① 「宝の持ち腐れ」を解消する、勤怠管理システムの再構築
実は、私が入社した時点で、クラウド勤怠管理システムはすでに導入されていました。
しかし、実際に使われていたのは出勤・退勤の打刻機能だけ。
時間外労働の申請も、有給休暇などの休暇申請も、直行直帰や出張の申請も、すべて従来通り紙で回っていました。
これは中小企業で本当によくある光景だと思います。
システムは入っているのに、現場のオペレーションが変わっていない。
結果として、「デジタル化したはずなのに紙も残っている」という、最も非効率な二重管理が発生していたのです。
そこで私がやったのは、新しいシステムを買い足すことではありませんでした。
まずは既存システムのマニュアルを徹底的に読み込み、どこまでの機能を持っているのかを自分で把握し直すこと。
そのうえで各種申請フローをシステム上で完結できるように設定し、従業員が迷わず操作できるよう、自社の運用に合わせたマニュアルを新たに作成して周知しました。
新たな投資はゼロです。
それでも、紙のやり取りと総務側の転記作業を一掃し、大幅な時間短縮を実現できました。
すでに支払っているコストを、本来の性能まで使い切る。
これも立派なDXだと考えています。
② 「電話を取り次ぐ」という仕事をなくす、クラウドPBXの導入
もう一つ手を入れたのが、社内の電話環境です。
現職では、固定電話と会社支給の携帯電話を二重に持っている社員が数名いました。
固定電話同士なら内線でつながりますが、それはあくまで建屋の中だけの話。
外出中の従業員から連絡が入る場合は代表電話に着信するため、一度総務が受けて、該当者に取り次ぐという作業が日常的に発生していました。
この「取り次ぐ」という行為、一件あたりは数十秒かもしれません。
しかし総務側は自分の作業を中断させられ、かけてきた側も待たされる。
1日に何度も積み重なれば、両者にとって決して小さくないロスです。
そこで導入したのがクラウドPBXです。
これにより固定電話と携帯電話を内線化し、社内・社外を問わず、連絡したい相手に直接つながる環境を作りました。
正直にお伝えすると、この取り組みだけは初期費用として100万円程度がかかっています。
ここまで「お金をかけずに」という話をしてきた流れからすると、意外に思われるかもしれません。
ただ私は、効率化とは「1円も使わないこと」ではないと考えています。
かけるべきところにはかける。
重要なのは、その投資が何を生むのかを事前に見極めることです。
そして今回の場合、その回収の道筋がはっきり見えていました。
効果は「取次がなくなること」だけではない
この取り組みが面白いのは、副次的な効果が何重にも重なった点です。
● 取次業務の削減 …… 総務が電話を受けて回す作業そのものが消滅
● 通話料の削減 …… これまで外線扱いで通話料が発生していた社内連絡が、内線化によって通話料ゼロに
● 端末コストの抑制 …… 固定電話と携帯電話の重複保持を解消でき、買い替え時のコストを圧縮
● 管理のスマート化 …… 管理すべき端末そのものが減り、総務の管理業務も軽くなる
「電話の取次が面倒だ」という一つの困りごとから出発したのに、結果としてコスト削減と資産管理の効率化まで同時に達成できました。
初期費用はかかりましたが、通話料と端末の重複コストという「毎月・毎年出ていき続けるお金」を止められたことを考えれば、十分に意味のある投資だったと考えています。
改善は「困りごと」からしか始まらない
この2つの事例に共通しているのは、どちらも「新しい流行のツールを入れよう」という発想から始まっていないことです。
出発点は常に、現場で実際に起きている「面倒くさい」「なんでこんなことに時間を使っているんだろう」という違和感でした。
そこを起点に、すでに手元にあるものを見直したり、既存の仕組みをつなぎ替えたりしただけです。
前回お話しした「3つの仕事哲学」でいえば、これはまさに「ゴールから逆算する」の実践です。
「システムを導入すること」をゴールにしてしまうと、導入した時点で満足して、紙の申請が残ったままになります。
「取次業務をゼロにする」「紙をなくす」という本来のゴールから逆算したからこそ、必要な打ち手が明確になりました。
そして逆算ができていれば、「これはお金をかけずに解決できる」「これは投資してでも変える価値がある」という判断も自然と見えてきます。
勤怠システムは追加投資ゼロで解決できる問題であり、電話環境は投資してでも構造そのものを変えるべき問題でした。
同じ「効率化」でも、打ち手はまったく違っていいのです。
次回は、同じ現場で取り組んだ「生成AIを使った業務改善」の事例をお話しします。
プログラミングコードを1行も書かずに、総務の困りごとをアプリで解決した話です。