
日本の光学技術は、中国・台湾の開発現場でいまどう見られているのか
「日本の光学技術は、いまでも中国や台湾で評価されているのでしょうか」。国内中心で事業をしてきた光学企業の方から、こうした問いを受けることがあります。
私の答えは、「評価はされている。ただし、見られ方が一つではない」です。
中国の開発現場では、日本の光学技術は品質の基準であると同時に、置き換えの目標にもなっています。台湾では、スマホの先にある新しい分野で組む相手として見られています。
この記事では、次の3点を公開情報から整理します。
中国で、日本の光学技術が「基準」と「目標」の両方として見られている理由
台湾で、日本の光学企業がどんな相手として見られているか
評価を採用につなげるために、日本側が先に用意しておけること
中国の開発現場で、日本の光学技術は「品質の基準」として見られている
まず、日系企業自身が中国での立ち位置をどう見ているかを確かめます。
JETRO の2025年度 海外進出日系企業実態調査(中国編、2025年8〜9月実施)を分析した2026年4月のレポートに、強み・弱みの指数があります。「強み」と答えた割合から「弱み」と答えた割合を引いた数字です。
製造業では、「製品の性能・品質」が89.8と、ほかの項目を大きく引き離していました。一方で「価格」は-55.3、「市場投入までの速さ」は-25.9で、はっきり弱み側です。
つまり、品質では日本が上だと、日系企業の多くが考えています。光学の分野で言えば、材料の均一さ、ロットごとのばらつきの小ささ、長期の信頼性データといった部分です。
ただ、同じレポートでは、在中国日系企業の74.5%が最大の競合を中国企業と答えています。2019年と比べてシェアが縮小した企業は41.9%でした。
品質では評価されているのに、シェアは減っている。このずれが、いまの見られ方を理解する入り口になります。
同時に、日本の光学技術は「置き換えの目標」にもなっている
中国の開発現場では、日本製の材料や部品は「いずれ国産に置き換えたいもの」の一覧にも入っています。
国産化を進める政策と資金
中国は、光学薄膜などの新材料の国産化を国の政策として進めています。前瞻産業研究院の2024年11月の政策まとめによれば、2019年版の「重点新材料首批次応用示範指導目録」で、複合膜と偏光片が試行の対象に入りました。
この目録は、国内で開発した新材料を初めて採用する企業のリスクを、保険の補償で下げるための一覧です。言い換えると、「国産品を最初に試す会社」を国が後押しする仕組みです。
資金も動いています。中国の経済メディア 36Kr は2026年4月、東莞の新興企業が数千万元を調達したと報じました。掲げているのは、日本ブランドが長年占めてきた高級な産業用レンズの置き換えです。
記事では、半導体装置向けの中核レンズの国産化率は業界推計で10%未満とされています。同社は、主要な指標で海外の一流ブランドの90%超の性能に達したと説明し、国産化の好機は今後3〜5年だと語っています。
なぜ「目標」になるのか
日本製が置き換えの目標になる理由は、品質が低いからではありません。品質の基準だからこそ、置き換えたときの価値が大きいのです。
中国の投資情報サイト「投資界」の2022年5月の記事は、光学フィルムの中核材料である光学基膜を「基本的に日本が握っている」と書きました。輸入品の価格は国産品の4〜6倍とされ、そこに中国企業が追い上げているという構図です。
相手から見ると、日本製は「性能の目安」であり、「価格を下げられる余地」でもあります。だから評価は高いまま、置き換えの検討も同時に進みます。
最大手の動きも参考になります。舜宇光学の2025年の年次報告書は、スマホ用カメラモジュールで世界シェア1位を保ちながら、高価格帯の製品の競争力を強めたと説明しています。中国の光学メーカー自身が、上の価格帯へ進んでいるということです。
台湾では、新しい分野で組む相手として見られている
台湾の見られ方は、中国とは少し違います。
JETRO の2020年の資料では、日台の企業連携の背景として、日本企業の技術力と台湾企業の量産能力の補完関係が挙げられていました。この関係は、いまは新しい分野に広がっています。
DIGITIMES は2026年4月、台湾のレンズメーカーがスマホの先に、CPO(光電融合パッケージ)やシリコンフォトニクスへ軸足を広げていると報じました。CPO は、光の送受信部品を半導体のすぐ隣に実装する技術です。
日本側の動きもあります。日本の光学ガラス大手の2025年度の有価証券報告書を見ると、台湾の台中と雲林に製造子会社を持っています。台湾の工場では、AIサーバー向けの電子基板に使う低誘電ガラスの専用の溶解炉を立ち上げているとしています。
台湾の企業から見ると、日本の光学企業は「量産を任せてもらう相手」から、「新しい分野の材料と工程を一緒に作る相手」に変わりつつあります。台湾で話が進むかどうかは、相手の新分野の開発日程に、自社の材料や評価データを出せるかで決まりやすくなっています。
評価が採用につながらないとき、日本側が見落としやすい点
ここまでの見られ方を踏まえると、日本側が見落としやすい点が2つあります。
「日本製だから」で説明を終えてしまう
日本製が品質の基準だという見方は、相手もすでに持っています。そのため「日本製で品質が高い」という説明だけでは、新しい情報になりません。
相手が知りたいのは、「この部品を国産品や他社品に替えたら、何が起きるか」です。不良率、信頼性試験の結果、工程の歩留まりへの影響など、置き換えたときに相手が失うものを数字で示せるかどうかが分かれ目になります。
置き換えの検討が進んでいることを前提にしていない
36Kr の記事が示すように、中国側では置き換えの検討が並行して進んでいます。いま採用されている部品でも、数年後には候補の一つに戻ることがあります。
JETRO の2024年度の調査では、日系企業が見る中国企業の強みは、コスト競争力(84.7%)と意思決定の早さ(55.8%)でした。価格と速さでは、国産品の方が有利な場面が多いということです。
私が光学の開発と営業に携わってきた立場から見ると、中国・台湾の開発担当者は、日本製の品質そのものを疑っているわけではありません。迷っているのは、その差に価格の差に見合う意味があるかどうかです。
次にやること:置き換えにくい理由を1枚にまとめる
社内でできる準備は、次の3つです。
自社の主力製品について、中国・台湾で比べられそうな国産品・他社品を挙げ、性能の差を数字で並べる
その差が、相手の工程や最終製品の何に効くのか(歩留まり、不良の返品、長期の信頼性など)を書き出す
価格の差を、相手の側で減る費用や手間で説明できるかを確かめる
台湾向けには、もう1点加えてください。CPO や AI サーバーなど、相手が広げている新しい分野で、自社の材料がどの工程に使えるかを書き出しておくことです。
11〜12月は、日本側では来期の計画と予算を立てる時期です。この1枚を来期の計画に入れておくと、引き合いが来たときに説明の軸がぶれません。
まとめ
日本の光学技術は、中国の開発現場では品質の基準であると同時に、置き換えの目標として見られています。
台湾では、スマホの先の新しい分野で、材料と工程を一緒に作る相手として見られつつあります。
評価を採用につなげる鍵は、「日本製だから」ではなく、置き換えたときに相手が失うものを数字で示すことです。
まず今日やっていただきたいのは、自社の主力製品1つについて、中国・台湾で比べられそうな製品を挙げ、性能の差を3行で書き出すことです。
私は、日本・中国・台湾の光学企業をおつなぎするビジネスマッチング「NW agent」を運営しています。ここから先は自社サービスの紹介です。
横浜・上海・台北の拠点から、相手先の開発・調達の担当者へおつなぎし、商談にも同席します。
ご相談の内容は、秘密保持契約(NDA)を結んだうえで伺います。
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中国・台湾の光学業界の動きや、現地での商談の進め方を、これからも書いていきます。
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