
評価への納得感は、仕事の割り振り方でも変わるのか?
人事評価の時期になると、社員から「評価に納得できない」という声が上がることがあります。こうした不満に対して、企業は評価基準を明確にしたり、評価者研修を充実させたり、フィードバック面談の質を高めたりすることで対応しようとします。
もちろん、いずれも重要な取り組みです。しかし、評価基準が明確で、上司が丁寧に説明していても、社員が納得しない場合があります。
その原因は、評価の仕組みそのものではなく、評価に至るまでの仕事の任せ方にあるのかもしれません。
今回は、人事評価制度への納得感と、職場目標や仕事の配分との関係を分析した研究を取り上げます。
評価への納得感は、評価面談だけでは決まらない
中嶋哲夫(2007)は、人事評価制度に対する従業員の納得度が、どのような要因によって左右されるのかを検討しました(*1)。
この研究の特徴は、「自分が受けた評価結果への納得」と「人事評価制度そのものへの納得」を区別している点にあります。
例えば、高い評価を得た社員であっても、制度の運用が不公平だと感じている可能性があります。逆に、必ずしも希望どおりの評価結果ではなくても、制度の運用に一定の納得感を持つことは考えられます。
研究では、従業員への質問紙調査と企業の人事マイクロデータを組み合わせ、個人属性や実際の評価結果を考慮したうえで、評価制度への納得度に関連する要因を分析しています。
その結果、評価面談の実施が制度への納得度と正に関連することが確認されました。さらに注目したいのは、職場目標への納得度や職務配分の公正さも、評価制度への納得度と重要な関連を持っていたことです。
また、これらの関連の仕方は職種によって異なっていました。
つまり、社員が評価制度をどう受け止めるかは、期末の評価面談だけでなく、日常的な目標設定や仕事の割り振りとも関係しているということです。
ただし、この研究は観察データに基づく分析であり、仕事の配分を変更すれば必ず評価への納得度が高まるという因果関係まで証明したものではありません。
同じ評価基準でも、成果を出す機会は同じではない
この研究から、経営や人事の実務に引き寄せて考えたいことがあります。
それは、社員の成果が、本人の能力や努力だけで決まるわけではないということです。
例えば、営業組織で同じ売上目標を持つ二人の社員がいたとします。一人には既存の大口顧客が割り当てられ、もう一人には新規開拓の難しい市場が任されている場合、両者の成果を売上だけで比較することには慎重さが求められます。
もちろん、担当する顧客や市場の違いが、必ずしも評価上の不公平を意味するわけではありません。経験や能力に応じて仕事を配分することには合理性がありますし、難しい仕事を任せること自体が成長機会になることもあります。
問題は、そうした配分の理由が十分に説明されず、成果を生み出す条件の違いも評価に反映されていない場合です。
特に、難易度の高い仕事や新規事業への参画、経営層と接する機会などが一部の社員に集中していると、長期的には経験や能力を伸ばす機会にも差が生まれます。その差が将来の評価や昇進に影響すれば、当初の仕事の配分が、その後のキャリア形成にも関わることになります。
これは中嶋の研究が直接検証した因果関係ではありませんが、人材マネジメントを考えるうえで重要な論点だと思います。
管理職は、評価者である前に仕事の配分者である
ここで見直したいのが、管理職に期待する役割です。
多くの企業では、管理職に対して適切な目標設定や公正な評価、丁寧なフィードバックを求めています。一方で、日々の仕事を誰に任せるかという判断については、個々の管理職の裁量に委ねられていることも少なくありません。
しかし、仕事の配分は単なる業務管理ではありません。組織として成果を上げるための資源配分であると同時に、社員の経験や成長機会を左右する人材マネジメント上の意思決定でもあります。
だからこそ、管理職には、目先の業務効率だけでなく、仕事の配分が中長期的にどのような影響をもたらすのかを考えてほしいと思います。
例えば、重要な案件をいつも同じ社員に任せていないか、経験の浅い社員にも挑戦の機会を提供できているか、特定の社員に負荷が集中していないか。さらに、そうした配分の理由を本人に説明できるかどうかも大切です。
ここでいう公正さは、全員に同じ仕事を均等に割り振ることではありません。
社員それぞれの能力、経験、育成課題、組織の必要性を踏まえて仕事を配分し、その判断に合理性と説明可能性を持たせることです。
そして、この役割を管理職個人の力量だけに依存させないことも、人事部門の重要な仕事だと考えます。
評価制度の見直しは、目標設定と仕事の配分まで含めて考える
この研究を踏まえると、人事評価制度の改善には、評価の場面だけでなく、日常のマネジメントを含めた視点が必要だと考えられます。
例えば、評価制度を改定する際には、評価項目や評価尺度だけでなく、期首に職場目標がどの程度共有されているか、個人目標と実際の担当業務に整合性があるか、仕事の難易度や責任の違いがどのように考慮されているかも確認する必要があります。
さらに、評価会議においても、単に誰が高い成果を上げたかを議論するだけでは不十分かもしれません。その成果がどのような仕事や機会のもとで生まれたのか、という情報も判断材料にすることが考えられます。
もっとも、仕事の配分を考慮することが、成果責任を曖昧にすることにつながってはいけません。難しい仕事を担当したからといって、必ず高く評価することが適切とも限らないでしょう。
重要なのは、成果と、その成果が生まれた条件を区別して把握することです。
評価の公正さを高めるために必要なのは、制度を複雑にすることではなく、マネジメントの判断をより丁寧にすることなのかもしれません。
評価の公正さは、期末ではなく日々の判断から始まる
人事評価制度は、どうしても評価基準や評価結果に注目が集まりがちです。しかし、社員は期末の評価面談だけで、会社の公正さを判断しているわけではありません。
日々どのような仕事を任され、どのような期待を伝えられ、どのような機会を与えられているのか。そうした経験の積み重ねも、評価制度への受け止め方と関係していると考えられます。
だからこそ、評価制度への不満が生じたとき、評価基準や面談方法を見直すだけではなく、その前段階にある仕事の配分にも目を向けたいと思います。
評価の公正さは、成果をどう測るかだけでなく、成果を生み出す機会をどう配分するかという、日々の経営判断から始まっているのだと思います。
参考文献
*1 中嶋哲夫(2007)「人事評価制度の納得度を決定する要因─職場目標への納得度と職務配分の公正さ─」『日本労務学会誌』第9巻第1号、68–80頁。