
No.2008 ワンシーン?
「犬」という漢字は面白いですね。「ヽ」を上に移動させれば「天」になり、「ヽ」を下に移せば「太」になります。なーるほどー!
こんなユニークな話が登場するのは、鎌倉時代の1252年(建長4年)に成立した教訓説話集『十訓抄』上巻「第一、人に恵みを施すべき事」の21番目にある「大江匡衡の学才」でのお話です。文章博士・大江匡衡(952年~1012年)による「犬」の名解釈に唸っちゃいます。好きな古典のお話の一つです。是非、味わってみてください。
(本文)…まことや、この御時、一つの不思議ありける。上東門院の御方の御帳の内に、犬の子生みたりける、思ひかけぬありがたきことなりければ、おほきに驚かせ給ひて、江匡衡(ごうきょうこう)といふ博士に問はれければ、「これめでたき吉事なり。犬の字は、大のそばに点をつけり。その点を上につけば、天なり。下につけば、太なり。その下に、子の字を書きつづくれば、天子とも、太子とも読まるべし。かかれば、太子生れさせ給ひて、天子にいたらせ給ふべし」とぞ申しける。
そののち、はたして皇子御誕生ありて、ほどなく位につき給ふ。後一条天皇、これなり。匡衡、風月の才に富めるのみならず、かかる心ばせども深かりけり。
(訳文)…そういえば、この御代に一つの不思議な出来事があった。上東門院彰子の御方の御帳台の中で、犬の子が生れることがあって、思いもかけない不思議な出来事だったので、大変驚かれて、この大江匡衡という博士に尋ねられたところ、「これはめでたい吉祥でございます。『犬』という字は『大』という字のそばに点を打ちます。その点を上に打てば、『天』です、下に点を打てば、『太』です。『天』『太』の下に『子』という字を続ければ、『天子』とも『太子』とも読めます。ですから、『太子』がお生れになって、『天子』にまでならせ給うに違いありません。」とお答えしたという。
その後、その言葉どおりに、皇子のご誕生があって、ほどなく位におつきになったのだった。後一条天皇である。匡衡という人物は、詩文の才に恵まれていたばかりでなく、こんなことへも深い心遣いができる人物だったのである。
本文中の「御帳」(御帳台)とは、「四方に帳を垂らし、天井には明障子を置く箱形の座敷で、貴人のプライバシーを守るために設計された空間」のようです。その部屋で、いきなり母犬が子犬を生みました。さて、凶事なのか吉事なのか?上東門院(藤原彰子)はさぞ心配なさったことでしょう。
そこで、召し寄せられた博士・大江匡衡の、彰子さまの心中を推し量っての機転の利いた前向きで予言めいた解釈に、彰子はもちろんのこと、一同が安堵し納得する名解釈を堂々と述べるのです。もう、座布団10枚進呈したくなりました。
もっとも、『十訓抄』は説話集なので、話の信憑性に難無しとは言い切れないようですが、実に興味深いお話です。難問に立ち合った時、いかに臨機応変に、しかも、周囲が安心できる解を導き出せるか、人の才覚や機知が問われるようです。
そんな才知ある人物が、1000年も前にいたことがうかがわれ、そんなユニークな発想が、我々の生活の中でも、ことを丸く収めたり、和やかな雰囲気に変えたりするヒントに出来ないものかと思ったりもするのです。
古典は、学び味わうものだけではなさそうですね。
ところで、先の2024年(令和6年)の大河ドラマ「光る君へ」の中で、犬だけに、このワンシーンが用いられ、描かれたかどうか、私の記憶にはありません。どなたか教えて頂ければ幸甚です。
※画像は、クリエイター・瑛 |スキしてほしい♡さんの、タイトル「【生成AI】次回使用予定のワイヤーダックス画像」の1葉をかたじけなくしました。ぎょへー!これって生成AI画像ですか?昭和20年代に生まれた爺さんには、見分けがつきません。教えられました。お礼を申し上げます。