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同性パートナーとの8年半

    「加湿器がね、壊れちゃったと思っていたんだよね」
    私が言った何気ない一言だったけど、親友の宗(たかし)は何か察したようで、座り直してこちらに体を向けた。

    11月末の三連休。有給もプラスして3泊4日で大阪から群馬まで来てくれた宗に、私は打ち明けることがあった。

    「加湿器の表示がずっと『30』にしかならなくて、蒸気も出てこないし、壊れちゃったんだと思っていたんだよね。だけど、説明書を読んだら、中に入れなきゃいけない消耗品のトレーもフィルターもつけていないだけだってわかって、壊れていなかったんだよ」
    「うん」
    宗が近くまできて、加湿器を挟んで向かい合った。

    「加湿器ってさ、ほおっておくとカビが生えたり、変な匂いがしたりするじゃん?そうならないように掃除をしたり、消耗品のトレーとフィルターを毎年変えてくれていたのはパートナーだったんだよ」
    「そっか」
    「加湿器の裏を見たらさ、パートナーの文字で交換時期がちゃんと手書きされていた。『あー、俺何にもやっていなかったんだ』って、そのときわかって。『パートナーって、こういう細かいところまでやってくれていたんだ』って思って」
    「そうだね」

    私はかなり泣き顔になっていたと思う。
    「それを見たとき、なんか耐えられなくて。トレーやフィルターを通販で注文することも、それ以上加湿器の説明書を読むこともできなかった。パートナーのやってくれていたことを何もわかっていなかったのかもって考えてしまって、そこでかなり心にきてしまって」
    「まあ、そんなことはないんちゃう」
    「そうかねぇ。で、宗が来てくれたから、今なら通販でトレーとかを注文したり、なんか加湿器の説明書をちゃんと読んだりできそうなんだよ。だから本当に意味分からないと思うけど、」
    「いや、ええで。今やっちゃおう」
    「本当にありがとう。親友がいてくれるから、俺パートナーとのことが向き合えるんだよ。本当にありがとう」
    「大丈夫。お互い様やで」

    照れなのか安堵なのか、私は泣き顔から徐々に笑顔に変わっていった。

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    2025年春。8年付き合っていた同性のパートナーと別れることを決めた。仕事で知り合い、私からの猛アプローチで実った関係だったけど、パートナーもちゃんと私に向き合ってくれて、両親に会い、いろいろなことを話し合って二人の関係を決めてきた。

    私にとっては、当時付き合っていた彼女と別れて付き合った人で、同性のパートナーとしては2人目。だけど1人目の同性の恋人やこれまでの彼女とは全く異なり、深い深い関係だった。結婚同等だと思っていたし、ちゃんと将来も考えていた。

    だけど、私の気持ちが離れてしまった。ポリアモリーを実践したくて話し合いやいろいろな挑戦を続けたけど、それを望まないパートナーとの間に溝ができてしまった。自分じゃない人がこの人をきっと幸せにしてくれるだろう、って思ってしまい、その気持ちが止まらなかった。好きだし、愛しているけど、道が分かれたとはっきりと感じた。


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    別れて半年経ってから同棲を解消した。そこから私は必死だった。毎日料理を作り、掃除をして、洗濯物を干した。それは同棲していた当時からやっていたけど、分担をしていた家事を、全部自分でやらなくてはいけない。特に掃除はパートナーがやっていることが多かったから、徐々にほこりがたまる部屋を懸命に磨いた。

    「何だ意外とできるじゃん」「こんなことまでやってくれていたのか」という感情が交互に顔をのぞかせた。そして料理は分量がよくわからなくなった。4人分くらいを作っては、何日も同じものを食べる。そして味噌汁は具材とかを少なくしたのに、溶く味噌の量を間違えたりして濃いものが完成した。「何やってんだよ」とか思いながら、濃い味噌汁をそのまま食べたりした。


    これだけ書いているが、後悔はない。愛していたし、大切だし、今でも形が変わっただけで家族だと思っている。私の人生に大きな影響を与えてくれた人だし、忘れることも嫌いになることも、ないがしろにすることもできない。本当に本当に、心の底から幸せになってほしい。

    何度も泣いたけど、それは寂しさよりも感謝が大きい。そして相手の将来を心配しているから出るような涙でもある。自分が知らないところで知らない人と生きていても、かならず幸せで温かい状態でいてほしいと。

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    今でも、一人になったときに心にくることがある。それはあまりにもこれまで自分の中を多く占めていた人が近くからいなくなり、どうやって生きていたんだろうというような感覚だ。後悔とか愛おしさとかじゃなくて、単純に『あれこういう時間って何をしていたんだっけ』みたいな、海外に引っ越したような感覚だった。

    宗といた時に注文した加湿器のフィルターは1ヶ月くらい経って届いた。ちゃんとセットしたら加湿器もいつもみたいに蒸気が出るようになった。そこにパートナーはいないけど。でも部屋を潤してくれて、私の生活も軌道に乗り始めた。

    パートナーとは別の道を歩んでいる。ただそれだけのこと。でも私にとって彼の存在は大切なままで、何も変わってないと思う。

    愛することを教えてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。そんな気持ちにさせてくれたことに感謝しかない。

    そして支えてくれた親友や友達もありがとう。こうやって生きていく事を私は決めたのだ。

     
     
    33歳の不器用なサラリーマン2人(環と太)が心の奥に閉まっていた大切なストーリーを紹介するエッセイメディア「OLi」です。 1日1日を生きるあなたに、人の生きる姿を、音楽とともに紹介します。 毎週金曜日更新。願わくば、僕たちが紹介するストーリーや音楽があなたに寄り添いますように。

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