
9月は接吻してってば アマノ文筆クラブ
下記の企画への応募です。ドキッとするようなタイトル画像に惹かれて書いてみました。
ショートショートなのでサクッと読んでください。
【SS】9月は接吻してってば (829字) #アマノ文筆クラブ
酷暑日が続いた夏も夜になると涼しさを感じられるようになってきた。それにしても各地で狂ったような豪雨被害が出ているのには心が痛くなる。9月だというのに、まだ災害が続くのだろうか。
「いい加減にしてほしいよな」
「えっ、何が…」
美咲は正樹とした約束のことかなと一瞬不安になった。
「ニュースになってる各地の災害だよ。日本だけじゃなく、海外もさ」
「ああ、災害ね…へぇ、正樹って優しいんだね」
美咲の顔にちょっと笑顔が戻り、繋いでいる手に力が入った。
「だって、心配になるじゃん。美咲だってそうじゃないのか」
「美咲は、正樹のお財布の中身の方が心配だよ。いっつも貧乏だから。正樹にとっての大災害だと思うんだけど」
「うっ…」
「そろそろちゃんとお仕事見つけたら」
「それを言われると辛い…」
「世の中の心配もいいけど、自分の心配もしてね」
「ありがとう。美咲」
「それから…」
「えっ、まだあるの」
「もう、9月に入ったよ」
「うん、そうだね」
「お約束したでしょ」
「…」
僕たちは今、渋谷駅前のスクランブル交差点で信号待ちをしている。ちょうど目の前には109の看板が見えている。いつもながら、この交差点はすごい人だかりだ。まだ、朝だというのに。
「ねぇ、覚えてるでしょ。知らん顔しないで。ほら、こっち向いて」
「えっ、こんなところで…」
「9月は毎日どこにいても一時間に一度は接吻するって。約束したじゃん。愛の表現は場所を選ばないって。キスじゃなくて接吻だよって正樹が言ったんだよ。美咲、9月になって毎日ドキドキしてるんだから」
「いや、俺もドキドキしっぱなし」
「ねぇ、9月は接吻してってば。お願い」
「わ、わかった…」
二人の周りはまるで空白地帯になったかのように人が避けて通り、交差点を渡って行った。長い長い接吻をしていた二人は、交差点を渡ることなく、信号機が赤に変わっても唇を合わせ続けていた。
通行する人たちにとっては、迷惑な小さな災害になってしまった。
了 (829字)
あとがき
タイトルを見て考えを巡らせてみました。キスじゃなく接吻…その単語が表す微妙な違いを表現したいなと考え、約束事に辿り着きました。字数は少ないショートショートですが、災害から接吻までの物語に仕上げてみました。
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