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第206話 働かないアリとキリギリス 後編

    前回のあらすじ
    働かないアリの壱号と弐号はキリギリスのキリやんと知り合い、毎日仕事をサボってキリやんの歌に聞き惚れる。
    ある日八日目の蝉が3人の前に落ちてくる。


    弐号:
    「いやあ本体にすごいです。キリやんさん。
    もう思い残すことないっす」
    キリやん:
    「え、どっか行っちゃうんですか?」
    壱号:
    「いやあ実はな、今度の定期異動で俺たち2人ともガーディアンに移ることになったのよ。
    仕事は巣の警備なんで今までみたいに土一回運んであとはオメエんとこでちんたら遊んでる、ってえ訳にはいかなくなるだぁよ。
    どうも俺たちみたいな働かないアリだけ集めて半端仕事させる。
    そして残ったエリートと普通のやつらだけの編成で仕事の効率上げようって魂胆だぁな。
    キリやん、オメェに会えて良かったよ。随分楽しませて貰った。
    俺ら、あんたのこと忘れねぇぞ」
    弐号:
    「ボクもです。
    ありが10匹でーす。
    綺麗なメスさんと巡り会えるといいですね!
    キリやんさんなら絶対ですよ」

    *
    *
    *
    キリやん:
    「いやあ、いかったぁ。
    腰が抜けちまったよ。ボクの精子、ちゃんと届いたかなあ。
    もうこれで思い残すことはないか。もう歌う必要もないし。
    あの八日目の蝉が言ってたのはショウガ食いたいじゃなくって、生涯に悔いがない、だったのかもしれないね。そんな気持ちだわ。
    でも寒いな。
    ん、何だ何だ。下手くそな歌が聴こえるぞ」

    ミノムシ:
    「チチよ チチよ」
    キリやん:
    「なんだコイツ。変なやつだなあ。木っ端で着物作ってやがる。でも、歌下手っぴ」
    ミノムシ:
    「ふん下手っぴで悪かったね。
    でもオマエなんかもう寒さで死んじゃうんだろ。
    アタイの悪口言った平安時代のオンナはババァになって男から捨てられて野垂れ死にしたんだよ。ざまぁないね。
    アタイは木で作ったシェルターに入ってるから冬が来ても大丈夫だもんねー。羨ましいだろ」

    キリやん:
    「けっ、芋虫の分際で何をいうか。
    第一、清少納言と小町がごっちゃになってるよ。
    何にもわかってないな!
    生きるってことの価値は長い短いじゃなくて、何をしたかなんだよ。
    ま、オマエに言ってもわかんねーだろうけどさ」

    *
    *
    *

    キリやん:
    「ひゃあ 危ない危ない。もう少しで見つかるところだったよ。
    カマキリは視界広いし、じっとしてるとわかんねーもんな。
    ありゃ、2匹いるぞ。でっかいほうにちっこいのが乗っかってらあ。小さい方がオスかあ。お、始まったよ。
    そうそうそこそこ。ほらもっと腰を入れて。

    あららら。オスさんメスに頭齧られてるよ。
    ひぇー食べられちゃった。今のうちに逃げよっと。
    しっかしどうなんだろ。快感の頂点で愛する相手に喰われるって。気持ちいいのかなあ?
    チョット羨ましい?
    いやいやいや。やっぱ遠慮しとくわ」

    *
    *
    *
    弐号:
    「あ、キリやんさんじゃないですか!
    しっかりしてください。
    え、何?ショウガ食いてえ?違う?
    『我が生涯に一片の悔いなし』ですか?
    ちゃんと聞こえてます!喰われてもいい相手に出会った。よかったですねえ。」
    壱号:
    「おいこら弐号!
    そんなとこで油売ってんじゃねーぞ。
    オマエいつまで経っても働かないアリだよなぁ。何メソメソしてやがる。
    キリやんだあ?そんな死に損ない、その辺におっぽっとけ。
    いや違うわ。テメェひとっ走りして狩りの連中呼んでこいや。貴重なタンパク質だからな。
    オラ愚図愚図してんじゃねえぞ。はやく行きやがれ。
    俺が逃げられないように押さえつけておくからな」
    「キリやんよ。悪く思わないでくれよ。これも仕事なんでな。
    そうよ俺ァもう2割の働かないアリじゃない。仕事出来る方の2割になったんだよ。
    しかも序列第1位だぜ。
    評価制度ってのが出来てな。てめえの目標をコミットして半期に一度、上と面談して働きっぷりを確認すんのよ。そしたら何だか受けがよくなっちまってさ。※

    不思議なんだけど仕事しねーやつとか出来ねーやつを10匹集めると、何故か2:6:2の比率が出来ちまうんだな。
    俺の場合、他の連中があんまり仕事しやがらねえからイライラして手とか口出してたら、いつの間にか仕事する2割になっちまった。

    何だって?どうせなら友達に?
    わかったよ。今引導渡してやるからな」

    おしまい

    ※会社員時代、筆者はこれが嫌で嫌で嫌でしかたなかった。
    営業みたいに数値目標が設定できれば良いが、間接部門なので握る目標を見つけて設定するのが面倒だったのである。
    しかも目標達成状況を針小棒大に膨らませなければならない。
    エネルギーと時間の無駄使いだったと思う。

    *
    垣根涼介著「信長の原理」を参考にさせていただきました。

     
     
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