
真夏の方程式
★★★☆☆(3 / 5)
美しい海を汚さないのは科学か、それとも「愛」という名の不条理か
あらすじ
美しいガラスの海が広がる緑岩島。
静かな環境を守るため、ガラスの様に綺麗に輝くこの地にやってきた天才物理学者・湯川学は、一人の少年・恭平と出会う。好奇心旺盛な少年と過ごす穏やかな夏休み。
しかし、その裏では、かつてこの美しい海で起きたある不可解な死亡事故の影がうごめいていた。一つの死が暴いた過去の罪と、愛する家族を守るために選んだ悲しい決断。
科学では割り切れない「人間の業」と「家族の形」の正体に、湯川が静かに向き合う夏。
作品基本情報
* 公開年:2013年
* 制作国:日本
* 監督:西谷弘
* 脚本:福田靖
* 原作:東野圭吾
* 主な受賞歴:第37回日本アカデミー賞(優秀主演男優賞:福山雅治、新人俳優賞:山崎光)ほか
キャスト
* 湯川学:福山雅治(帝都大学物理学准教授・通称「ガリレオ」)
* 岸谷美砂:吉高由里子(警視庁捜査一課の刑事)
* 川畑成実:杏(ガラス工芸家で、島で民宿を営む家族を支える女性)
* 柄崎恭平:山崎光(夏休みを叔父の家族のもとで過ごす小学生)
* 川畑重治:前田吟(成実の父・民宿「緑岩荘」を営む)
* 川畑節子:風吹ジュン(成実の母)
* 塚原正次:塩見三省(元警視庁刑事・謎の死を遂げる)
* 仙波英俊:白竜(16年前の元ホステス殺害事件で服役していた男)
レビュー
『容疑者Xの献身』のあの重厚でヒリヒリする空気感とはまた一味違って、今作はなんといってもロケーションの贅沢さにやられる。
目の前に広がるエメラルドグリーンの海、そして何より、杏さんのスタイルがとにかく抜群に良い。スクリーンに映るだけで画面がグッと引き締まるというか、あの長身から醸し出される透明感と影のあるたたずまいは、この切ないミステリーの雰囲気に最高にマッチしていた。
あと、随所に光る東野圭吾節の「伏線回収」の美しさ。
ロケットに携帯電話を入れて海の中の様子を見せるなんて、化学嫌いの小学生にとっても、映画を観ているこっちにとっても最高の夏休み演出じゃないか。理屈じゃない、少年と物理学者のどこか不器用な交流にじんわりさせられる。
トントン拍子で「仙波の冤罪で一件落着か?」と思わせといて、元刑事殺害の過去の事件がしっかり絡み合ってくるあの二転三転の構成は、やっぱり「東野圭吾、やっぱ天才だな」と唸らざるを得ない。
ただ、物語の終盤にむけて描かれる「家族全員で鳴海の殺人をかまう」という選択。
……うーん、これは本当に「家族愛」と言っていいのだろうか?
血の繋がらない愛人の子供(鳴海)のために、自分の人生を投げ打ち、身代わりになり、家族総出で罪を共有する。自分のことではなくても実の娘のように愛し、守り抜こうとするその姿は凄まじいけれど、そこにあるのは美しい絆というより、あまりにも歪で深い「業」の深淵を見ているような複雑な気持ちになる。
とはいえ、最後の最後に鳴海がようやく自分の犯した罪の重さに気づき、全てを知った上で「自分は一人じゃない、色んな人に守られている」と自分で選択するあの着地があるからこそ、ギリギリ救われるところではある。
この映画が突きつけてくるのは、「正しさ」と「愛」のどちらを取るべきかという、大人の泥臭い問いだ。
仕事でも何でも、ロジックや正論で物事をスパッと割り切れたらどれだけ楽か。
でも、現実の人生には、理屈では決して説明のつかない「守りたいもの」や、不条理なしがらみが付きまとう。
湯川学のようにクールに真実を暴くことが正義とは限らない。時には誰かの人生の秘密を抱え込み、あえて沈黙を選ぶ優しさもまた、人間らしい生き様なのだろう。
すべてをキレイに割り切れなくてもいい。自分の大切なものを守るために、泥をかぶる覚悟があるか――そんな大人の苦さと、夏の終わりのような切なさをそっと残してくれる一本だった。