メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bycrystal_note

『この夏の星を見る』――暗闇の中で星を探す

    先日、気になっていた『この夏の星を見る』を見に行けた。
    前評判の高さから期待値も高まっていたが、それを軽々と超える良さだった。

    現時点で”今年ベスト級”と言っても差し支えないほどに素晴らしかった。


    以下、ネタバレあり、敬称略で感想を記載していく。
    一度、見たのみなので、セリフの記憶違いがあるかもしれないが、ご了承頂きたい。


    若手キャストとharuka nakamuraの音楽

    主演は桜田ひよりで、茨城県・土浦の天文部員・溪本亜紗(たにもとあさ)を演じている。

    物語は長崎・五島、東京の高校生達の話が同時進行で進むため、良い意味で亜紗だけが主役という印象はない。
    それでも、悩みながらも、熱意を持つ亜紗を演じる桜田は丁寧かつ繊細だった。

    亜紗と同じ天文部員に水沢林太郎、長崎の高校生に中野有紗、東京の中学生に黒川想矢がキャススティングされている。

    何年か経ってた時に「この作品にはこの人も出てたのか」と言えるような、今後の更なる飛躍が期待される若手キャストが揃っている。

    音楽は「ルックバック」や、こちらも桜田が主演した「あの子ども」でも担当した、haruka nakamuraが務めた。
    壮大かつ繊細で、冒頭から一気に映画の世界観へと誘ってくれた。


    暗闇の中で星を探す

    今作において重要なイベントとして登場するのが、「スターキャッチコンテスト」だ。

    この競技は、大まかに言うと、指定された天体を同じ規格の望遠鏡で見つけ出す速さを競うもので、オンラインでつなぎ、茨城、東京、五島のそれぞれの場所で行われた。

    それはコロナ禍で制限される中で、必死に”今”を生き、希望を探し出す彼女たちと重なった。

    星が綺麗に見えるのは圧倒的に五島だかが、かといって土浦と東京が不利なわけでもない。
    それぞれの環境下で星を探し出す姿が良かった。


    「勝ち負けじゃない」

    スターキャッチコンテストの後、東京から参加した中学生・中井天音が「勝ち負けじゃない」と爽やかに話すシーンが印象的であった。

    それぞれが星を探し、”コンテスト”として競い合うが、本気で練習し、向き合った結果に出た一言だ。

    特に学生のうちはテストや運動、何かと比較することは避けられない。
    それでも、自分たちそれぞれの”星”を探すことの大切さを教えてくれた。


    一番近くて遠い星―五島留学生の三人

    登場人物は皆、魅力的であったが、特に印象的だったのが、五島留学組の三人の関係性だ。

    その中の一人、輿は東京に帰省中にパンデミックが拡大してしまい、五島に帰れなくなってしまう。
    同じ高校の佐々野円華に恋しており、スターキャッチコンテストについてオンラインで話している時に、思わず「好き」だと言ってしまう。

    物語の終盤、五島に残っていた留学生・武藤は、もう1人の留学生・小山に”粋な”なアシストをされ、「輿がいない間はフェアじゃないと思ったから」と前置きをした上で、佐々野に思いを伝える。

    劇中で「月」を「いちばん近くて遠い星」と話すシーンが何度か登場する。
    心理的には近くとも、物理的には離れてしまった彼らの関係性にもあてはまるように感じた。

    離れてしまったことで、「月の裏側」のような、自分には分からない相手の心情にも、より思いやるようになったのではないか。

    実際に彼らの中でどんな話があったかは分からないが、そんな互いを思う関係性に目頭が熱くなった。

    次に見る時は、彼らの関係性についても最初から注目したいと思う。


    雲間から見えたISS

    物語の終盤、星ではなく、夜空を移動するISS(国際宇宙ステーション)をキャッチしようとするシーンがある。
    これは競技としてではなく、参加者の誰かがキャッチできれば大成功というものだ。

    亜紗のいる土浦では、直前まで雲がかかっているが、奇跡的に雲に切れ間が見えISSが見える。
    再び雲に隠れた後に、再度切れ間から出たところをキャッチに成功する印象的なシーンだ。

    生きていると、自分ではどうしようもないことで、光が見えなくなることもある。
    見えたと思っても、見えなくなることもあり、なかなか上手くいかない事の方も多いかもしれない。

    それでも、そんな状況下であっても光は探せるかもしれないー。
    そんな希望を感じた。


    画面越しに届くメッセージ

    ISSをキャッチした後、岡部たかし演じる天文部顧問・綿引先生が画面越しに語り掛ける。

    オンラインで参加している学生に向けて語りかけるシーンなのだが、それが見事に画面越しに観客へも語りかけているように感じられる演出になっているのだ。

    正確な言葉は覚えていないが、それは学生のみならず、あの時期を超えて、今を生きる自分たちへのメッセージのようで、思わず涙が溢れてきた。

    劇中の彼女たちも、ぼくたちも、本当によく頑張ったと思った。


    ラジオのような映画

    物語の序盤、幼き日の亜紗がラジオを聴いている。
    番組には綿引先生がゲスト出演しており、亜紗に電話をつなぐ。

    自分は作中の学生たちと同じ年齢の時から日常的にラジオを聴いているが、この映画はラジオのような物語だとも感じた。

    離れた場所にいても、電波を通じてパーソナリティやリスナーは同じ時間を共有する。
    その時間、自分以外に誰かがどこかにいると思えるだけで、思春期の自分は救われたし、そこが居場所だった。

    それは、離れた場所で同じ星を探す、彼女たちの姿に重なった。


    最高で、二度と来ないで欲しい夏

    映画の予告編では「最高で、二度と来ないで欲しい夏」というコピーが使われている。

    辻村深月による原作も、それによるこの映画化が生まれたのも、あの夏があったからだ。

    かと言って「コロナがあったからこそ」とは言えない。
    自身も仕事柄、多くの感染された方やそのご家族とも関わってきた。

    ただ、そのような状況下を経て、この作品が生まれたことは、作中でスターキャッチをする彼女たちと重なるところがあるように感じる。

    暗闇の中で星は輝く。

    決して、その時の状況を良かったことにはできないが、その中でしか見つけられない光があるのだと、この映画を見て思った。



    山元監督と松井総合プロデューサーのインタビューでかなり詳しく制作についての話をしています。
    とても興味深かったので、よろしければどうぞ。

    今夏見た『星つなぎのエリオ』も宇宙をモチーフにした作品でした。
    こちらについても記事を書いていますので、ご覧になった方はこちらもよろしければ。


     
     
    1993年生まれ。 紅白、映画、ドラマ、ラジオ、ライブといった好きなコンテンツの話。旅行、日常、あの頃の青春について。 思いついたままに更新予定です。

    あなたへのおすすめ