メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bysuper_acacia155

夫の浮気を、公認している。

    ※浮気や不倫に関する話題を含みます。読むことで胸がざわついたり、嫌な感情が蘇りそうだな……と思う方は、無理せずそっと閉じてくださいね。



    誰にも言わないでほしいハナシがある。
    ここだけの、内緒のハナシだ。

    夫の浮気を、公認している。



    現在進行形で浮気されているわけではない。
    軽めのやつなら、いつでもどうぞ、ご自由に。そういうスタンスでやっている、という話である。



    浮つくのが、彼の心の核の部分であれば、ちょっと考える。でも、体なら構わない。相手が後腐れのないプロなら、なおいい。

    もちろん、そこから派生しかねない数々のトラブルを考えると、推奨すべきでないことは理解している。

    しょっちゅう外出されてしまっては、生活に支障が出て家族が不利益を被るし、民事上の不法行為でもあるのだから、自分から夫に仕掛けるのもおかしな話だ。相手次第では、周囲を巻き込んで迷惑をかけることになるし、許容できない方がスタンダードであることは明白である。


    でも、誰にも迷惑かけずに遂行できるのであれば——。


    「行っておいで」と、わたしは言いたい。

    行っておいで。
    帰るべき港はいつでも、ここにある。


    夫が恋の喜びや切なさに身を焦がし、大いなる刺激を受けて生き生きと日々を豊かに過ごしてくれたら、嬉しい。わたしはもう、彼にその刺激を与える役目を担っていない。

    夫が多くの女性を知るのは、夫婦にとっても悪いことではないだろう。わたしと彼の間に新しい風が吹いて、パートナーシップがより実験的で興味深いものになるなら、きっと楽しいはずだ。



    「ずいぶん自信があるね」と思われるだろうか。
    「それってつまり、自分も浮気したいってこと?」と、疑われるかもしれない。

    違う。そうではないのだ。

    わたしは、夫が一生わたしだけを愛することなんて望んでいない。夫の人生は、夫自身のものだ。夫が思う、夫なりの情熱をまっとうしてほしいと、心底思っている。そこに嫉妬はない。

    たまたま、互いの人生の一番近いところにいる。それだけの話だ。


    プロポーズにも、愛の誓いはいっさいなかった。

    まぁ自分の幸せはそれぞれ自分で。
      ただ一緒にいる、そういう感じでいきましょう。


    そんな、和紙のようにごわついた、しかしまっさらで嘘のない彼の提案だからこそ「そうしましょう」と合意した。結果として、夫婦の形をとっている。それだけだ。



    そういえば、夫とわたしは、かつて恋人同士だった。
    彼の愛情を骨の髄までしゃぶり尽くしたくて、駆け引きをしたり、涙が枯れるまで泣いた夜もあった……かもしれないし、なかったかもしれない。

    残像はあまりに遠く、煙のようにゆらめくばかり。もう二度と、あの頃の実態をつかむことはできない。




    夫はずっと、家にいる。
    ずーーーーーーーーーっとずっと、いる。

    平日は自室で仕事をしているし、休日は家族と過ごす。飲みにいく友人もほぼおらず、会社の飲み会も年に片手で数える程度。

    彼はいつだって冷静だ。子どもに声を荒げることもない。時計の針のように一定のリズムで、日々を消化している。

    わたしがリビングに雷や嵐を持ち込み、火を吹き、蛇の皮みたいにのびきっている横で、夫ただ静かに、チクタクと秒針を刻み続けるのである。



    夫はこのまま、その秒針を狂わせることなく、人生を終えるつもりなのだろうか。新たな血潮に触れもみで、趣味もなく仕事ばかりの毎日で、本当にいいのだろうか。


    わたしは、心配なのだ。おせっかいなのだ。
    だからつい、火薬を密売する商人のように、コソコソと夫にささやく。

    「ちょっとぐらい、火遊びしてきたら?」と。


    「またまたぁ。実際に俺が遊んでたら、いい気しないでしょうよ」

    夫はそう言って、下着を新調していそいそと出かけるかわりに、子どもたちと戦いごっこをし、絵本を読み、絶妙な手加減でUNOを盛り上げる。

    そして子どもたちを寝かしつけた後、ハイボールとポテチを片手に、深夜のリビングでひとり映画を観るのだ。ソファに身体を沈めて、誰にも邪魔されることなく、のびのびと。



    ああ、つまらない。
    夫の秒針を狂わせるものが、なにかないものだろうか。

    女性でなくてもいい。突然、謎の趣味に没頭したり、推しのために遠征しだす夫を、見てみたい。10年以上聞き続けた「今年は仕事の年にする」という新年の抱負。来年は、仕事以外に野望を燃やす夫を見てみたい。

    横で「スッスッハー」と一緒に呼吸を整えてあげたくなるほど、目まぐるしく心臓を爆発させ、どうしようもなくときめいている夫を。



    もしかしたらわたしは、夫に——常に平熱なままの彼の世界に、嫉妬しているのかもしれない。

    そう、夫を奪う誰かにではない。彼を常温に保とうとするナニモノかに、ずっと、静かに、嫉妬している。夫が愛し、彼を満たすあらゆる凪に。


    こんなに穏やかに日常に溶けこむ嫉妬が、本当にあるのだろうか。わからない。深夜に仕事を終え、大急ぎで彼の家へと向かっていた恋人時代の自分には、想像すらできない類の感情だ。


    情熱やときめきで、淡々と調律された夫との世界が揺れるさまを想像する。

    夫の熱を帯びた視線の先に、自分がいる必要はない。彼の秒針が不器用に、予測できぬ音を立てたら、きっと素敵だと思う。

    そして、そんな夫の姿を見て、わたし自身も、くすぐったく揺れるのだろう。




    わたしは今日も、夫の秒針の音を隣で静かに聴いている。

    洗濯物をたたみ、食器を洗い、修了式を終えた長男の教科書を問答無用でバッサバッサと捨てる夫の、いつもと変わらぬ淡々とした音を。





    ▼夫について書いたもの

    めっちゃ書いてるやん……




    ▼このnoteを書いた人

    画像

    食の仕事14年目。8歳5歳3歳の母。自家製好き。Xでは朝ごはんの知恵袋を発信中。noteのフォローはこちら、Xはこちらからお気軽に!


    この記事が参加している募集

     
     
    食や暮らしを入り口に、エッセイを書いています。 子ども×朝ごはん本を出版中。かきたま汁がすき。 本はこちらより▶︎ https://amzn.asia/d/0hJYEvq スキを押すと、今日のラッキーフードが出るよ。

    あなたへのおすすめ