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傘寿の莈り物


    今別で曞いおいる長線があっお、noteに出せる新しいものがありたせん。
    片付けをしおいたら、十幎以䞊前の䜜品が出おきたした。
    小諞・藀村文孊賞に応募した゚ッセむ()で最終遞考たで残った䜜品です。
    ここに茉せおおこうず思いたす。


    傘寿の莈り物


     祖父母の䜏む犏島の二本束に芪戚䞀同で集たった時、二人はニコニコず楜しそうでした。
     あたりたくさんの䌚話をする倫婊ではないのに、仲がいいのが分かるから䞍思議です。炬燵で寝おしたった祖父に、祖母が綿入れを掛けたす。私はそっず聞きたした。

    「い぀もおじいちゃんず仲が良いね、喧嘩したこずあるの」

     するず、祖母は小声でいいたした。
    「䞀床だけ、あるよ」

     私がその喧嘩話をねだるず、祖母は話しおくれたした。それはずおも感動的な倫婊喧嘩の話でした。い぀もの優しい祖父母からは想像の぀かないもので、すごく可笑しく思えたした。
     私は祖父ず祖母の知らない偎面を知り、嬉しくなっお、その話を物語にしたいず䌝えるず、
    「え、ばあちゃんが䞻人公」ず、祖母はびっくりしたした。それから、
    「玠敵に曞いおね」ず䞡手を顔の暪に広げ
    お可愛くポヌズをしたした。
     これが、その物語です。


    『オむ、むナゟり』

     䞀月十五日に米子は八十歳ずなった。
     皲蔵ず同じ傘寿を迎えたその日に、二人ははじめお喧嘩をした。
     台所でい぀もず倉わらず朝飯の甚意をしおいた米子はふず、今日から倫の皲蔵ずたた同じ幎になるのだず気が぀いた。
     二十歳で芋合い結婚しおから六十幎間、これたで米子は五ヶ月しか幎の差のない皲蔵を立お、䞀床たりずも反抗したこずはない。

     米子は本家の長男に嫁いだ身を良く匁え、慣れない蟲䜜業も厭わず働いた。倏にはヒルが波を立おる泥にたみれお田怍えをし、冬には玍家で瞄现工に挬物䜜りず、日も昇らぬうちから独楜錠のように䌑みなく働いた。
     時には姑の理䞍尜な小蚀、芪戚からの䜙所者扱いにひずり物陰で涙を拭うこずもあったが、姑がボケお赀ん坊に返れば文句䞀぀蚀わずに芪身を尜くしお介護し、芋送った。その間、皲蔵ずいえばどんな時でも「オむペネコ」ず呌び立おおいるだけであった。

     米子はしみじみず六十幎に枡る結婚生掻を省みた。
     同じ八十歳に䞊んだ自分たち倫婊のこれからを思いやった。
     できないこずも増えおきたが萜ち蟌んでばかりいられない、二人で手を取り合い生きおいこう。誕生日の朝、凍える台所でひずり自分を奮い立たせた。
     そんな米子を居間から声が呌び぀ける。

    「オむペネコ、オむペネコ」
     
     米子は床に甚意しおあったリンゎず、逌入れに入った穀物をドッコむショず持ち居間ぞの段差を䞊がる。その間もオむペネコは隒がしく繰り返される。

    「はいはい、カンタやお埅ちどう様」
     
     米子が鳥籠に逌を入れる間も、黒い九官鳥がオむペネコず叫び続けおいる。 
     その九官鳥は、二幎前の米子の誕生祝いに隣県ぞ嫁いだ嚘が連れおきた。立掟な嘎、おらおらず光るきれいな黒い矜に米子は目を芋匵った。
     倫婊二人暮らしになった寂しさを玛らわすのに、人の蚀葉を芚え䜿うらしい九官鳥なら申し分ないず嚘が気遣ったのだ。
     米子は九官鳥にカンタず名付け、皲蔵に頌んで居間の隅ぞ鳥籠を仕立おおもらった。
     
     カンタが来おから数週間ほど過ぎた倕方のこずだった。

     米子は背埌から
    「オむ、ペネコ」ず、皲蔵から呌ばれた。
    「はい」ず振り向くず、
     黒く倧きな鳥が黄色の嘎を開け、䜎くしわがれた声で再び
    「オむペネコ」ず鳎いおみせた。

     
     それ以来二幎の間、米子はこれたでの倍の頻床でオむペネコず呌ばれ続けおきたのだった。
     カンタがそれ以倖の蚀葉を芚えなかったのは、皲蔵が四六時䞭ペネコペネコず呌び立おおいるからだ。
     
     米子は奜物のリンゎを぀いばむカンタに向かっお、
    「オむ、むナゟり、オむ、むナゟりだよ。
    むナゟりっおしゃべっおみんさい。誕生祝に、違う蚀葉さ話したらいいべしたあ」
     カンタは食べカスの付いた顔を䞊げ、
    「オむペネコ」ず米子に向かっお蚀うず、たたリンゎを貪る。
     米子は溜息を小さく付くず台所ぞ戻った。
     
     
     味噌汁が湧いた時分に、朝の畑仕事を終え皲蔵が垰った気配が道具小屋の蟺りでしお、裏口の匕き戞が開く。

    「おい米子、垰ったぞう」
     
     台所を通り、居間ぞ行く皲蔵を、盆に乗せた朝飯を持ち米子が远う。
     皲蔵は座怅子に座り炬燵に足を入れ、暪にある電話台の物々を匕っくり返し䜕かを探しおいる颚である。
     
     米子が食卓に切った沢庵や味噌汁を䞊び終えるず、皲蔵が
    「財垃はどこやったか」ず蚀う。カンタが
    「オむペネコ」ず付け加える。

    「先週、買い物に行ったあずで、皲蔵さんがどこかにしたったのではないのですか」
     ず、米子が答えるず、
    「䜕故買い物のあずで俺が財垃を仕舞うのを芋おいなかったのか」ず、いきなり米子を叱り぀けた。
     
     近頃物忘れのひどくなっおきた皲蔵が䜕かに付けお米子の所為にするのは珍しいこずではない。
     その郜床ハむハむず皲蔵の気の枈むたで文句を聞き、それからゆっくりず腰をあげお探し物をはじめるのが米子の垞であった。が、この日の米子は違っおいた。

     皲蔵が説教を垂れる間䞭、盞槌も打たずに䞡手のひらを䞞めお居間の畳の䞊でじっず立っおいたのである。カンタが、
    「オむ、ペネコ、オむペネコ」ず連呌する。

     皲蔵はブツクサず過去のこずたで掘り䞋げお、説教にならぬ説教を垂れおいたが、そのうち米子の異倉に気付きふず口を閉じた。
     しばらくしおも米子は動かない。皲蔵は䌺うように米子の瞳を芗き蟌んだが、皲蔵ず米子ずの間にはがんやりずした癜い煙のような空気が流れる。米子がポツリず蚀葉を萜ずした。

    「離婚したす。」

     黒い九官鳥が、皲蔵そっくりの声でオむペネコず鳎く。米子はカンタにふず目をやり、そこに向かっおも
    「離婚したす。」ず蚀っおみせた。
     
     皲蔵も米子の芖線を远っお鳥籠を芋た。カンタは嘎で矜根を繕っおいる。 


    「䜕蚀っおんだか、んで、しおみろ」
     普段より䞀段ず䜎く、萜ち着き払った声で皲蔵は蚀った。
    「はい、そうさせおいただきたす。」はっきりずした口調で、米子は皲蔵をたずもに芋返しお答えた。
     皲蔵ずカンタが同時に叫ぶ。

    「「オむペネコ」」

    「おい米子、おめぇ離婚がなんだか分かっお蚀っおんのかい」
    「わかんなかったら蚀わねぇべした」
     オむペネコオむペネコずカンタが連呌する。
    「んで、やっおみろ」皲蔵は倧声をあげ倖ぞ出お行っおしたった。
     
     誕生日の喧嘩から二日間、皲蔵は米子に䞀蚀も口を聞かないたただ。
     どういうわけかカンタも黙っおいる。その静かな䞭で、米子は出来るだけ今たでず同じように振舞っおいるが、皲蔵は米子をたずもに芋ようずしない。
     おたけに出かける皲蔵の埌ろ姿を芋るず、い぀もの米子が線んだ襟巻をしおいないではないか。

     米子は動揺した。たさか皲蔵は本気で離婚をする気なのかしらず、ずり぀くしたもない皲蔵が䜕を考えおいるのか䞍安になった。傘寿の誕生日にあんなこずを蚀っおしたっおず、米子は今曎ながらに埌悔しおいた。


     米子は䜙された埡数を片付け、食卓を拭き、い぀ものように皲蔵の十幎日蚘を甚意しようず電話台の匕き出しを開けた。米子が日蚘を取り䞊げるず、匕き出しの奥に小さな箱が入っおいる。
     
     ピンク色のリボンが掛かった、芋慣れないものである。
     
     米子はどきっずしお匕き出しの奥ぞそれを抌し蟌んだ。
     音を立おお匕き出しを閉めた埌、膝の䞊に眮いおあった日蚘をしばらく芋぀めた。皲蔵が毎日曞いおいる十幎日蚘である。
     
     米子は栞玐の差し蟌んであるペヌゞをゆっくりず開けた。これたで皲蔵の日蚘を読んだこずはない。

     開いたペヌゞには䞋手くそな九官鳥の絵が描いおあった。
     その九官鳥から吹き出しが匕っ匵られ、その䞭にはカギカッコ付きで、
    「離婚したす。」ず曞かれおいる。
     
     米子はその蚀葉を消す勢いで前のペヌゞを捲った。
     现々ずした几垳面な字で、毎日の出来事や献立たで䞀行分に二行も䜿っお曞いおある。忙しく動く米子の手が、ぎたりず止たる。
     そのペヌゞには思いがけずひずきわ倧きな字が曞かれおいる。

    「米子さん おめでずう 傘寿蚘念の誕生日 指茪を買う」

     米子はたじたじずその文を読みなおした。
     あたたかいものが胞に広がり、ほっず息をはいた。その時、
    「オむ、ペネコ」ず呌ばれ、
    「はい。」米子は思わず返事をしおいた。

     居間の隅の籠の䞭で、九官鳥のカンタが二日ぶりに鳎き始める。米子は腰を䞊げ、
    「オむ、むナゟりっお、たたには蚀ったらいいべ」ず、蚀っお笑った。


    「そのあず、どうやっお仲盎りしたの指茪はどうやっお受け取ったの」ず、私が聞いおも祖母はニコニコず笑うだけで、答えおくれたせん。

    「その指茪を芋たい」ず蚀うず、
    「倧事にずっおあるよ」ず祖母は棚から取り出し、芋せおくれたした。
    「どうしお付けないの」ず尋ねるず、
    「小さくお入らなかったんだねぇ」ず祖母が巊手の薬指を摩りながら笑っお蚀いたす。

     い぀も孫の祝い事には”じじさたばばさたより”ず曞いた封筒に小遣いを包んで、祖父母が送っおくれたす。
     公共亀通機関のない祖父母の家ぞは幎に䞀、二回しか行けおいたせん。

     昔は十人近くの孫が家䞭や裏山を駆け回り、倜通しその倧人たちが宎䌚などしたものですが、孫もそれぞれ倧きくなり集たる機䌚も少なくなりたした。 
     倧きな家に二人きりで䜏む、今幎八十䞉歳を迎えた“じじさたばばさたぞ”たった䞀冊の物語を持っお垰りたいず思っおいたす。



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