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手遅れにならないうちに犬の訓練士に連絡した|エッセイ

    「こんな暴れ馬みたいな犬の世話はもう嫌だ」
    生後4ヶ月になる仔犬(ポメラニアン)の子育てに限界を感じた私は、昨夜、面識のある犬の訓練士さん(ドッグトレーナー)にメールを送った。
    「犬のしつけについて相談があります。まずは初回のカウンセリングを受けたいです」
    彼は私が「杉並区動物相談員」をしていた頃の犬係の班長。犬のことなら何でもござれのベテラン訓練士だ。

    かたや私は、甲状腺の病気で療養生活を送っていた頃、「何か実のあることをしたい」と思い、杉並区の区民大学講座に8回通って資格を取ったばかりのペーペー。

    やる気だけはあったものの、会議に出ればつい眠くなってうとうと。その頃一緒に暮らしていたパセリ(ポメラニアン)はシニア犬だったこともあり、イベントにも参加できず、まったく役に立たない会員だった。

    その後コロナ禍となり、活動が停止せざるおえなくなった組織から私は足を洗った(犬かっ)。

    ところが終息後、「活動は以前にも増して活発になったよ」と近所に住む会員仲間から聞かされる。
    「ちっ、抜けなきゃ良かった」

    そんなこんなの今日、カフカの血統書(国際公認血統証明書)が郵便で届いた。
    登録名は「CRUSADER OF KING PET SHOP JP」。
    「CRUSADER(クルセイダー)」とは、
    「十字軍の兵士」
    「信念を持って突き進む者」
    という意味らしい。
    元気いっぱいで一直線なカフカには、なんだかぴったりな名前だ。

    ……なんて、冗談じゃない。
    噛みグセ、吠えグセ、破壊グセのあるカフカが、信念を持って突き進む勇者だなんて、絶対に認めないからね。

    ここ1ヶ月で、家でのカフカの人気はガタ落ちした。あまりにも言うことを聞かないからだ。
    パセリが大人しくて賢い子だったから、余計にそう思えるのかもしれない。そこはカフカも気の毒だ。

    「あ~、パセリがいた頃が懐かしいなあ」
    先日、夫が風呂の中でぽつりと呟いた。
    その声をたまたま洗面所で聞いた娘は、わざわざ台所にいた私のところまで報告に来た。
    「や、ヤバい……。このままではカフカの立場が危うい」

    私はYouTubeを観ながら仔犬のしつけを勉強しようとした。でも無理だった。
    個体差のある犬に同じ方法が効くとは思えない。それにYouTubeに出てくるモデル犬は、すでに賢い。
    ちびゴジラなんて、どこにもいないじゃないか。

    で、犬の訓練士さんの登場というわけだ。

    今でもカフカを連れて散歩に出ると、
    「可愛いパピーちゃんね」
    「そのうちお利口さんになるわよ」
    「仔犬なんてこんなもんだよ」
    と、みんな口をそろえて言う。
    でも、そんな明るい未来を描ける人は、うちには誰ひとりとしていなかった。
    もはやカフカは、家族みんなの不安材料にまで成長していた。もちろん、そんなことを散歩中の人たちは知る由もない。

    「おーー、パセリ。あなたはどうしてそんなにお利口さんだったの!」
    宝塚歌劇団よろしく両手を広げ、私はパセリの仏壇に問いかける。もちろん足は立ったまま後ろでクロスだ。

    パセリは家族にとって癒やしでしかなかった。
    毎日モフモフの被毛を撫で、犬吸いをして我先にと可愛がった。それでもパセリは過度に甘えることはなく、家族の膝の上に乗ることも一度もなかった。

    一方、元気すぎるカフカは、すぐ人の膝に乗ってきて、そのまま遊び始める。甘えん坊なんだろうか。4ヶ月になって身体も大きくなり、毛色は黒、オレンジ、白が入り混じった何とも微妙な色合いになった。遠目に見ると、もう仔タヌキにしか見えない。

    「森なら絶対、猟師に撃たれる」

    最初はあんなに可愛かったカフカへの愛情が、少しずつ目減りしているようで悲しい。
    しかも私だけではない。家族全員だ。こうなると、人間の育児と同じで、悩みはどんどん深刻になっていく。人間の子育てに失敗した私は、なおさらそう思ってしまう。
    だからこそ、プロの犬の訓練士が必要なんだろう。

    来週、その訓練士さんがカウンセリングに来てくれる。嫌がる夫を説得し、夫婦そろって話を聞く予定だ。3時間の長丁場。
    私はひとつも聞き漏らさず、勉強するつもりで臨む。

    そしてカフカと同じように、人間にも犬にも、「お互いが気持ちよく暮らすためのルールがあること」を学びたい。それは決して人間のエゴや都合に合わせるためではなく、飼い主と愛犬が一緒に楽しく暮らすためのルールだ。

    今は、その日が楽しみでもある。

     
     
    □犬(特にポメラニアン)とヨガ、そして言葉を紡ぐことを、こよなく愛する元編集者兼ライター。 □古民家「ひらやすみハウス」で綴るエッセイと、犬の家政婦が主役の小説『昨日の犬村さん』を連載中。 □生きづらい日常生活にそっと笑いをがモットー!

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