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割り込みとツッコミ

    夕方5:30。
    駅のホームは相変わらずの帰宅ラッシュで混雑している。

    始発電車を待つ人たちが、キレイな二列に並んでいた。

    電車が到着し、ドアが開こうとした瞬間、一人の女性が斜めから割り込み、最初に電車に乗り込んだ。

    その場にいた誰もが、一瞬「えぇ!?」という表情になった。
    ところが、声を上げる者はいなかった。

    そして、その場にいた全員が、一つの考えを共有したように感じた。

    「あれは話の通じない人だ」と。

    その考えが共有された車両内では、割り込みした女性は透明な存在となった。

    誰も近づかず、誰の視線にも映っていなかった。

    私だけが、遠くから彼女の方を見つめて、心の中で叫んだ。

    「ミッキーマウスの服で割り込みすんなよ!」と。

    しかし、それだけでは私の叫びは止まらなかった。

    「何でよりによってミッキーが走ってるイラストやねん!」

    「もう割り込み用の服やん!」

    「あと、ディズニーランドなんて1時間以上並ぶのが普通なんだから、電車くらい並べるだろ!」

    そんなツッコミを心の中で入れているうちに、目的の駅に着いた。

    割り込みのような不正は、昔なら誰かが注意したのかもしれない。
    しかし今は違う。

    それは、「おかしな人を放置したい」のではなく、直接関与するリスクが高まったからだろう。

    本当は文句を言いたい。
    けれども、逆上して刺されでもしたら目も当てられない。
    そうして、誰もが心にモヤモヤを残しながら日々をやり過ごしているように思う。

    だから私はツッコミで応戦する。
    「ふざけるな!」「バカが!」などと言った攻撃的な言葉ではなく、行動や持ち物をいじってみる。
    そうやって吐き出すことで、心のモヤモヤはスッキリする。

    世の中には注意しても通じない人がいる。
    しかも、注意するリスクも高い。

    だからこそ私は、笑いで抵抗する。
    今日も私は、誰にも聞こえないツッコミを、誰よりも大きな声で入れている。


     
     
    医療と哲学の実践者。医療現場での経験を背景に、人間の行動の『なぜ?』を考えています。 答えではなく、考えるための視点や判断の枠組みを文章で共有しています。 勉強会やセミナーなどのご依頼はDMまで。 【資格・認定】理学療法士┃東京大学大学院<医療・介護従事者のための死生学>修了

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