
🎹 ストピは派手な演奏がウケる? 〜拍手の大きさと演奏の上手さは別の話〜
最近、通勤の帰りなどに、ストリートピアノを弾く機会を作っている。自分の研鑽のため。
人前で演奏することにはまだ慣れず、思うように弾けないことが多い。
それでも、いろいろな人の演奏を聴けるのは、ストリートピアノの面白さのひとつだと思う。
そんな中、先日ちょっと考えさせられる出来事があった。
いつもの下手なお兄さん
よく行くピアノに、たまに並んでいる若いお兄さんがいる。
語弊を恐れずに言うと、その方、めちゃくちゃ下手なのだ。
こんなことを書くと性格が悪いけれど、匿名かつ正直な感想なので許してほしい。
その男性は、リストの《ラ・カンパネラ》、ショパンの《英雄ポロネーズ》などの難曲ばかりを弾く。
いずれも有名な曲だし、私自身も完成していないが弾くので、楽譜を知っている。
ところが、その方の演奏はというと、音がぐちゃぐちゃ。
ところどころ聞こえてくる特徴的な旋律から「ああ、あの曲を弾いているんだな」と判別できるものの、曲としてはかなり崩壊している。
ここに練習しに来ているのかな?とも思う。
読者の皆様に誤解がないように補足すると、ちょっと下手で音が乱れているとかでなく、あまりに音を外し、ぐちゃぐちゃで耳を塞ぎたくなるほど下手なのだ。緊張しているから失敗した、とかいうレベルではなく、基本ができていないと思うのだ。
(毒舌でごめんなさい。)
難曲に挑戦すること自体は素晴らしいと思う。でも、あまりにも音が入り乱れているので、正直なところ、聴いているのがしんどい。
なんでこの人、下手なのにこんな難曲ばかり挑戦するのかな?と疑問に思ってしまう。
「あ、またこの人きてるわ!聴きたくない‥💀」
そう思ってしまうことすらある。
(ほんと、性格が悪くてごめんなさい。)
ところが先日、その男性が私の知らない曲を弾き始めた。
私が普段あまり聴かない曲だったので、原曲がどんなものなのか、楽譜がどうなっているのかもわからない。
すると、不思議なことが起きた。
なんだか、それらしく聞こえるのである。
途中には、いかにも華やかな見せ場もある。
「ジャンジャーン!!」
と、ものすごい勢いで鍵盤を鳴らす。
また、
「ジャジャジャジャーン!!」
と、派手に決める。
音量も大きいし、とにかく迫力がある。
私には原曲がわからないので、どの程度正確に弾けているのか判断できない。
ただ、これまで聴いた彼のあまりに下手な演奏を思い返すと、その曲だけ突然いい感じに弾けているとは考えにくい。
もちろん、知らない曲なので断定はできない。
ところが、演奏が終わると……
拍手喝采!!
周囲からとても大きな拍手が起こった。
さらに、順番待ちをしていた人が彼に尋ねていた。
「今のは誰の曲ですか?」
彼は答えた。
「リストです!」
どうやら聴衆には、かなり素晴らしく印象的な演奏だったらしい。
私は少々複雑な気持ちになった。
その次に演奏した別のお兄さん
続いて演奏したのは、別の男性だった。
この方は、ショパンの《ノクターン第1番》と、モーツァルトのピアノソナタを弾いた。
モーツァルトのソナタは、作品番号はすぐ出てこないが、自分も比較的初期の段階で学んだ作品だった。難曲ではない。
ところが、この方の演奏が実に美しかった。
音がきれいにそろっていて、旋律も自然に歌っている。
派手な演出はないけれど、丁寧に音楽を作っていることが伝わってくる。
私は、こちらの演奏は素晴らしいと感じた。
ところが、演奏後の周囲の方の拍手は控えめだった。
もちろん、拍手がなかったわけではない。私はその方に心からの拍手を送った。
でも、先ほどのリストの演奏に比べると、他の方の反応は明らかに小さかった。
ストリートピアノでは派手な演奏がウケる
この出来事を通じて、ひとつ感じたことがある。
ストリートピアノでは、演奏の完成度と聴衆の反応が必ずしも一致しない。
もちろん、音楽の好みは人それぞれだ。
大きな音や華やかな技巧に魅力を感じる人もいれば、繊細な音色や丁寧な表現に心を動かされる人もいる。
そもそもストリートピアノはコンクールではない。
楽譜どおりに弾けているか、技術的にどれほど完成されているかを審査する場所でもない。
たまたま通りかかった人が、迫力のある演奏を聴いて「すごい!」と思い、拍手を送る。
それはそれで、音楽の楽しみ方のひとつなのだろう。
ただ、ピアノを弾く立場からすると、複雑な気持ちになることもある。
そして、自分自身のこと
実は私も、ストリートピアノではなかなか思うように弾けない。
自宅で練習しているときにはそれなりに弾けているつもりでも、人前に出ると緊張してミスタッチが増える。
さらに困ったことに、ミスタッチをすると、それを隠そうとして無意識にテンポが速くなってしまう。
そして演奏全体が乱れる。
最近はショパンの《エオリアンハープ》で、そんな失敗を繰り返している。
演奏後には落ち込み、自信をなくすこともある。
そして、つい周囲の反応を気にしてしまう。
拍手が大きかったか、小さかったか。
聴いていた人はどう思っただろうか。
でも、今回の出来事を見て、考えが変わった。
拍手の大きさは、演奏の上手さを測る物差しではない。
それなら、自分の演奏に対する周囲の反応にも、必要以上に一喜一憂することはないのかもしれない。
私は、派手に鍵盤を鳴らして聴衆を驚かせるよりも、一音一音を大切にして、美しい音楽を奏でられるようになりたい。
もちろん、華やかな演奏も好きだし、いつか自分でも弾いてみたい。
でも、それは拍手をたくさんもらうためではなく、自分がその音楽を好きだから。
ストリートピアノは、誰もが自由に音楽を楽しめる場所。
だからこそ、他人の演奏に対しても、自分の演奏に対しても、もう少し寛容になれたらいいのかもしれない。
……なんて偉そうなことを書きながら、次にあのお兄さんを見かけたら、また「あ、いる!」と思ってしまいそうだけれど😂
拍手の数より、自分が納得できる演奏を。
そんな気持ちで、これからもストリートピアノに向かいたいと思う。
(終わり。)