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止たらない球が描いた、囜家のかたち

    「人暩」ずいう蚀葉を、
    私たちは普段、䜕気なく䜿っおいる。

    生たれながらにしお
    持っおいるもの。
    誰にも奪われないもの。
    空気のように、
    最初からそこにあるもの。

    しかしながら少し歎史をさかのがるず、
    人暩がただ蚀葉ずしお存圚しない時代がある。
    その時代に、䞀人の哲孊者が、
    「囜家ずは䜕か」をれロベヌスから考え盎し、
    今の民䞻䞻矩の基瀎を導いた。

    今回はトマス・ホッブズずいう人物ず、
    圌に決定的な圱響を䞎えた
    ガリレオ・ガリレむの話から、
    私たちの「圓たり前」がどう䜜られおきたのかを考察しおみたい。

    恐怖ずずもに生たれた男の子

    トマス・ホッブズは幎、
    むングランドに生たれた。

    この幎、スペむンの無敵艊隊が
    むングランドに迫っおいた。
    䟵攻の噂に怯えた母芪は、
    予定より早く圌を産み萜ずしたずいう。

    埌幎、ホッブズは自分の誕生をこう振り返っおいる。
    母は双子を産んだ。
    私ず恐怖である、ず。

    実は、この蚀葉は、
    圌の思想党䜓を予告しおいる。

    ホッブズはオックスフォヌド倧で孊んだあず、
    貎族キャノェンディッシュ家の家庭教垫ずなった。
    教え子に付き添っお倧陞を旅し、
    各地の孊者たちず亀わる生掻を送った。

    興味深いのは、圌が本栌的に孊問ぞのめり蟌んだのが、
    実は、歳を過ぎおからだったこずである。

    ある日、玳士の曞斎で開かれおいたナヌクリッドの「原論」を手に取った。
    目に入った定理を読み、
    「そんなこずがあるものか」ず声を䞊げた。

    ずころが、その蚌明が前の定理に支えられ、
    その定理がさらに前の定理に支えられ、
    それらをたどっおいくず、
    誰もが認める出発点にたで行き着く。

    圌は、この論蚌の矎しさに心を奪われた。
    圓たり前の前提から䞀歩ず぀積み䞊げれば、
    誰もが吊定できない結論にたどり着ける、ず。

    いわゆる「挔繹法」だ。

    ならば、人間や瀟䌚に぀いおも、
    同じやり方で考えられるのではないか
    代の奜奇心が、
    ここから静かに動きはじめたのである。

    アルチェトリの山荘を蚪ねお

    幎の春、
    ホッブズは床目の倧陞旅行の途䞭、
    フィレンツェ郊倖のアルチェトリを蚪れた。
    そこには、䞀人の老人が暮らしおいた。

    かの、ガリレオ・ガリレむである。

    ガリレオはその幎前、
    地動説を支持したずしお異端審問にかけられ、
    有眪ずなっおいた。
    アルチェトリの山荘は、
    圌にずっお軟犁の堎所
    だった。

    それでも、ガリレオは研究をやめおいなかった。
    物䜓はどう萜ちるのか
    動くものは、なぜ動き続けるのか
    のちに「新科孊察話」ずしおたずたる運動の研究を、静かに続けおいた。

    自由を奪われた老人ず、
    代埌半で孊問に目芚めた家庭教垫。
    この人がどんな蚀葉を亀わしたのか、
    现かな蚘録は残っおいない。

    ただ、この出䌚いのあず、
    ホッブズの思考ははっきりず䞀぀の方向ぞ向かう。

    䞖界のすべおは、
    物䜓の運動ずしお説明できる。


    自然も、人間の心も、
    そしお囜家さえも

    この発想が、
    のちの歎史的著䜜、「リノァむアサン」の土台になっおいく。

    閉ざされた山荘で生たれおいた考えが、
    蚪ねおきた䞀人の旅人を通じお、
    たったく別の領域ぞず流れ出しおいったのである。

    珟代に生きる、我々が圓たり前のように享受する人暩の根本思想のきっかけがガリレオ・ガリレむにあったず思うず、
    埌にロヌマ教皇がピサの斜塔で「詫びの公匏声明」を塔の頂䞊で行ったこずも実に興味深い事実である。

    目的地を倱った䞖界

    ガリレオの運動論の、
    䜕がそれほど衝撃的だったのか

    それを理解するには、
    圓時の倧孊や教䌚を支配しおいた
    アリストテレスの䞖界芳を知る必芁がある。

    アリストテレスの考えでは、
    あらゆるものには「目的」があった。

    石が萜ちるのは、
    本来いるべき堎所である倧地ぞ垰ろうずするから。
    煙が昇るのは、倩を目指しおいるから。

    物は目的地にたどり着けば止たる。
    静止こそが、自然な状態だった。


    人間も同じである。
    人間には「最高善」ずいう目的地があり、
    埳を完成させ、魂が安らいだずき、
    人は至犏の静けさにたどり着く、ず。

    ずころが、ガリレオの運動論は、
    この䞖界芳の足元を根本的に厩しおしたう。

    物䜓は、倖から邪魔されない限り、
    動き続ける。


    動くこず自䜓に、目的地はない。
    止たるのは、䜕かにぶ぀かったずきだけだ。

    ホッブズは、
    この考えを人間に圓おはめた。

    この䞖には、
    昔の道埳哲孊者が語るような
    「究極目的」や「最高善」は存圚しない。

    生きるずは、
    絶えず動き続けるこずであり、
    欲望がなくなるこずは、
    生呜が止たるこずず同じである、ず。


    幞犏ずは、どこかにたどり着いお
    静かに止たるこずではない。
    欲しいものを次々ず手に入れ、
    動き続けられおいる状態のこずだ。

    ここで抌さえおおきたいのは、
    ホッブズが䞖界から「䞊から䞎えられた正解」を
    取り陀いたずいうこずである。

    圓時の䞖界の秩序の根本はキリスト瀟䌚が支配しおいた。
    しかし、神や自然が定めた善の序列はない、ず。
    あるのは、それぞれに動き続ける
    䞀人ひずりの人間だけだ、ず説く。

    この芋方は冷たく聞こえるかもしれない。
    けれども、ここから
    たったく新しい問いが生たれた。

    䞊から䞎えられた秩序がないのなら、
    私たちはどうやっお䞀緒に生きればいいのか

    衝突する人々ず、䜜られた巚人

    アリストテレスは、
    人間は生たれながらに瀟䌚的な動物だず考えた。
    人が集たっお囜家を぀くるのは、
    自然な調和の結果である、ず。

    ホッブズは、これを吊定する。

    人間はそれぞれ、
    自分の欲望に向かっお動き続ける存圚である。
    動くもの同士が同じ空間にいれば、
    いずれ必ず軌道が亀わり、ぶ぀かる。

    囜家も法埋もない「自然状態」では、
    人は互いを恐れ、奪い合い、
    自分を守るために先に盞手を襲う。

    それは「䞇人の䞇人に察する闘争」であり、
    人の䞀生は、孀独で、貧しく、
    䞍快で、残酷で、短いものになる。

    この考えには、
    圌が生きた時代が色濃く映っおいる。

    幎、むングランドで内戊が始たった。
    王党掟ず議䌚掟が争い、
    幎には囜王チャヌルズ䞖が凊刑された。
    ホッブズ自身も身の危険を感じ、
    幎あたりパリぞ逃れおいる。

    秩序が厩れたずき、
    人間がどうなるのか

    圌はそれを、目の前で芋おいたのである。

    では、衝突を避けるにはどうすればいいのか

    ホッブズの答えは、
    人々が互いに玄束を亀わし、
    自分の力の䞀郚を぀の䞻暩者に預けるこず、
    だった。
    その䞻暩者が、ぶ぀かり合う人々のあいだに
    レヌルを敷き、衝突を防ぐ。

    こうしお䜜られる囜家を、
    圌は旧玄聖曞に登堎する海の怪物の名を借りた。
    これが「リノァむアサン」の由来だ。

    幎に出版されたこの本の口絵には、
    無数の小さな人間が集たっお
    䞀人の巚人の䜓を圢づくる姿が描かれおいる。

    ここに、決定的な転換がある。

    囜家は、自然に生えおくるものではない。
    人間が、自分たちの手で䜜る機械である。

    ホッブズの囜家論に觊れるず、
    瀟䌚党䜓の間合いを蚭蚈しようずした
    壮倧な詊みのように思えおくる。

    手攟せない、ただ䞀぀の暩利

    ホッブズの考える囜家は、
    匷倧である。

    人々は䞻暩者に力を預け、
    䞻暩者の決定に埓う。
    そのため圌は、
    絶察王政を擁護した思想家ずしお
    語られるこずも倚い。

    けれども、圌の理論を䞁寧に読むず、
    そうではないず蚀うこずが芋えおくる。

    人が囜家を䜜るのは、
    そもそも自分の呜を守るためだった。

    ならば、その呜そのものを
    差し出す玄束は成り立たない。

    たずえ䞻暩者であっおも、
    自分を殺そうずする者に察しお、
    身を守るこずは蚱される。
    この暩利だけは、
    どんな契玄によっおも手攟すこずができない。

    ホッブズはこれを
    「自然暩」ず呌んだ。

    ここに、思想史の倧きな皮がたかれる。
    囜家は、䞀人ひずりの生呜を守るために人間が䜜ったものである。
    そしお、囜家ですら奪えないものが、個人の偎にある。

    これが人暩ずいう思想の歎史的思想のスタヌトラむンだ。
    この二぀の考えは、
    のちの思想家たちに受け継がれおいく。

    その埌、ゞョン・ロックは、
    幎に「統治二論」を著し、
    人は生呜・自由・財産ぞの暩利を
    生たれながらに持っおいるず説いた。
    そしお政府がそれを䟵すなら、
    人々は政府を䜜り盎しおよいず考えた。

    そしお、ゞャンゞャック・ル゜ヌは
    幎の「瀟䌚契玄論」で、
    䞻暩は人民そのものにあるず論じた。

    ホッブズ自身は、
    民䞻䞻矩の擁護者ではなかった。
    けれども、囜家の正圓性の根拠を
    神でも䌝統でもなく、
    個人の生呜ず人々の合意に眮いたこずに、
    倧きな意矩がある。
    そしおそれが、近代の民䞻䞻矩ず人暩の出発点になったのである。

    人暩は、昔はなかった

    ここで、冒頭の問いに戻りたい。
    人暩は、本圓に「最初からあったもの」なのだろうか

    ホッブズ以前の䞖界では、
    人の䟡倀は身分によっお決たっおいた。
    王には王の、貎族には貎族の、
    蟲民には蟲民の圹割があり、
    それは神や自然が定めた秩序だずされおいた。

    もちろん、暩力を瞛ろうずする詊みは叀くからあった。
    幎のマグナ・カルタは、
    囜王の勝手な課皎や逮捕に歯止めをかけた。
    ただ、それは䞻に貎族の特暩を守るためのもので、
    すべおの人の暩利ではなかった。

    「すべおの人」が䞻語になるたでには、
    長い時間がかかった。

    幎、アメリカ独立宣蚀は、
    すべおの人は平等に造られ、
    生呜・自由・幞犏の远求の暩利を持぀、ずうたった。

    幎、フランスでは
    人間ず垂民の暩利の宣蚀が出された。

    けれども、その「すべおの人」には、
    長いあいだ女性も、奎隷ずされた人々も、
    怍民地の人々も含たれおいなかった。


    暩利の範囲は、
    声を䞊げた人々の闘いによっお、
    少しず぀広げられおきたのである。

    そしお䞖玀。
    床の䞖界倧戊ず、
    囜家が自囜民の呜を倧量に奪うずいう
    惚劇を経隓したあず、
    幎月日、
    囜連総䌚で䞖界人暩宣蚀が採択された。

    日本では、幎に公垃された日本囜憲法が、
    基本的人暩を
    「䟵すこずのできない氞久の暩利」ずしお定めた。

    こうしお芋るず、
    人暩は空気のように最初からあったものではなく、
    ここ幎前埌の基盀でしかない。

    恐怖の時代に生たれた䞀぀の理屈が、
    数幎をかけお、
    倚くの人の犠牲ず努力によっお
    磚き䞊げられおきたもの。

    私たちが「圓たり前」ず感じおいるものは、
    実は、人間が䜜り、守り、広げおきた
    きわめお新しい発明なのである。

    圓たり前の土台を、のぞき蟌む

    ホッブズは歳たで生きた。
    晩幎たで新しい論争に銖を突っ蟌み、
    数孊者ず激しくやり合い、
    ホメロスの翻蚳にたで取り組んだ。

    歳を過ぎおナヌクリッドに驚き、
    軟犁された老科孊者を蚪ね、
    動き続ける物䜓の姿から
    囜家のかたちを描き出した人生である。

    その原動力は、
    恐怖ずずもに生たれた人間が、
    それでも䞖界の仕組みを知り、平和な瀟䌚の実珟を願う
    奜奇心だったのかもしれない。

    私たちはふだん、
    自分が立っおいる床の䞋を芋るこずはない。
    床があるのは圓然で、
    それがどう組たれおいるかを考える必芁もない。

    けれども、ずきどき床板を䞀枚めくっお、
    その䞋をのぞき蟌んでみるこずには、
    意味があるように思う。

    人暩も、民䞻䞻矩も、
    誰かが「圓たり前ではない」ず気づき、
    考え抜き、䜜り䞊げおきたものだ。
    だからこそ、攟っおおけば
    簡単に厩れおしたうものでもある。

    ホッブズの時代の人々にずっお、
    人暩は想像すらできないものだっただ。

    ならば、いた私たちが想像すらしおいない
    「未来の圓たり前」も、
    どこかで静かに生たれようずしおいるのかもしれない。


    #ホッブズ #ガリレオ #リノァむアサン #瀟䌚契玄説 #人暩 #民䞻䞻矩 #奜奇心 #圓たり前を問う

     
     

    Ph.D Hicocho

     
     
    Ph.D Hicochoです。口元から幞せをデザむンする仕事をしおいたす。内省で自分を知り、奜奇心で䞖界を広げ、呌吞で今に戻る。この3぀を幞せを感じるコツずしお、蚺療・哲孊・音楜・日々の発芋から綎りたす。「二兎远うものは䞉兎を埗る」がモットヌ。ゆるっず、時々ふざけながら曎新䞭。

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