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キレイな街ヒポキ|この街の正体は?

    【読む時間】
      5分ほど。

        ヒポキは、線路の街。
     朝になると何本もの列車が走り出す。
        食料、部品、遠くの駅への知らせ。街に必要なものは、すべて線路を通って運ばれていた。
     その線路を支えているのが、タウさんたち。
     両手には、レールにぴたりと吸いつく特別な手袋をつけている。
    「今日も頼むな」
    「任せといて」
     タウさんたちがレールをつかむと、線路は安定した。
     けれど、線路はずっと同じ形ではない。
     伸びたり、縮んだり、必要に応じて組み替わる。
     そんな時に現れるのが、キナゼさんだった。
    「ちょっと手、離してな」
     そう言って、キナゼさんが手袋に小さな「リン」をつける。
     すると手袋の吸いつく力が弱まり、タウさんの手がレールから離れた。
    「じゃあ、ちょっと休憩な」

     そして、しばらくすると、ホスファさんがやってくる。
    「そろそろ戻りましょう。リン外します」
     タウさんに付いているリンを外すと、手袋の吸いつく力が戻った。
     タウさんはもう一度レールをつかむ。
    「よし、仕事再開!」
         離れる。戻る。
     その切り替えを繰り返しながら、タウさんたちは線路を支えていた。
        それが、ヒポキの日常で、ホスファさんはこの街が大好きだった。

     ある日、街のはずれに白いかたまりが落ちていた。
     一つ。
     二つ。
     次の日には、あちこちに増えていた。
    「回収します!」
     ミクロ・グリア警察が駆けつける。
     拾っても、拾っても、また増える。
    「こっちにもあります!」
    「まだあるぞ!」
     警察は休む暇もなく、白いかたまりを追い続けた。
     その頃から、線路でもおかしなことが起き始めた。
    「リンつけます」
     キナゼさんが、一つ。
     また一つ。
     さらに一つ。
    「ちょ、待って。そんなにつけたらタウさんたち、戻れなくなるよ」
     ホスファさんが慌ててリンを外す。
     一つ外す。
     その間に、二つ増える。
        そして、他のタウさんたちのリンも外しきれない。
    「ダメだ、追いつかない……」
     リンだらけになった手袋は、もうレールに吸いつかなかった。
    「仕事に……戻らないと……」
     タウさんが手を伸ばす。
     けれど、つかめない。
     一人、また一人。
     タウさんたちは線路から離れていった。

     行き場をなくしたタウさんたちは、街のあちこちで固まり始めた。

     そして、事は起こった。
        ガタン!
     列車が大きく揺れた。
    「三番線、停止!」
    「五番線も動きません!」
     線路を支えるタウさんが減り、線路は崩れ列車は少しずつ走れなくなったのだ。
     食料が届かない。
     部品も届かない。
     遠くの駅への知らせも、途中で止まる。
     いつも聞こえていた列車の音が、ヒポキから一つずつ消えていった。

     それでもホスファさんは、タウさんを探し続けリンを外した。
    「リン、外しますよ」
     一つ。
     また一つ。
     リンを外しても、もうレールをつかめなくなっているタウさんもいた。
    「……だめか」
     少しだけ立ち止まり、次のタウさんへ向かう。

     昔のヒポキを思い出す。
     列車が行き交い、知らせが届き、街中に音があふれていた頃を。
        ホスファさんの体も次第にボロボロになっていった。

     ある朝。
     カタン。
     ホスファさんがよろよろになった足を止めた。
     もう一度。
     カタン、カタン。
     瓦礫の向こう。
     丘の上に一本、細い線路が見えた。
        「……新しい線路だ」
     ホスファさんは、しばらく動けなかった。
        その線路の上を小さな列車が走っていった。


    この街の正体
    ヒポキは、記憶に深く関わる海馬。
    線路は神経細胞の中で物質を運ぶ微小管。タウは、その微小管に結びついて安定させるタンパク質です。
    タウにリン酸が付くと微小管との結びつきが弱まり、外れると再び結びつきやすくなります。これは本来、必要な調節です。
    ところがアルツハイマー病では、このバランスが崩れ、異常にリン酸化されたタウが微小管から離れ、凝集していきます。アミロイドβやミクログリアなども含め、実際の病態には多くの仕組みが複雑に関わっています。
    失われた線路だけじゃなく、まだ走っている列車を見つけたい。

     
     
    ようこそ、mousou.labへ。 日常で拾った違和感を持ち帰り、脳内で培養。毎朝、毎昼、毎晩、エッセイ、小説、ショートショートのフラスコへ流し込んでいます。 初めての方は、研究室へどうぞ。

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