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Photo byhanako358

幼児教室の講師が使ってはいけないことば――「見られてるよ」が子どもの心に与える意外な影響

    「見られてるよ」という声かけ、気になったことはありませんか。幼児期に与えたい価値観と、そうでない価値観。ことばの選び方が、子どもの内側を大きく変えます。

    幼児教室の授業参観や送迎の際に、講師が子どもたちにかけることばを耳にして、「あれ?」と感じたことはないでしょうか。

    今回は、ある幼児教室で実際に見聞きした場面をもとに、幼児への「ことばの選び方」について考えてみたいと思います。特定の講師や教室を批判したいわけではありません。ただ、幼児期にどんなことばの環境に置かれるかが、子どもの育ちに深く関わるという視点を、保護者の方と共有したいと思っています。

    「見られてるよ」ということば

    ある幼児教室で、年長の子どもたちに向けて「見られてるよ」ということばをよく使う講師がいました。

    小学校受験を意識したことばであることは理解できます。考査の場では、常に先生に見られているという意識が大切、という文脈でのことばだと思います。

    しかし、気になったのは、授業中だけでなく、授業前の待機時間――子どもたちにとっての休憩時間にあたる場面でも、厳しい口調で「見られてるよ」と言い続けていたことです。

    本来、待機時間は子どもたちが少し気持ちをほぐせる時間です。その時間にまで「見られてるよ」という緊張感を与え続けることは、子どもの心にとって、どのような影響をもたらすでしょうか。

    「見られている」という価値観が育てるもの

    「大人に見られている」「評価されている」という意識を常に持ち続けることは、幼児期の子どもにとって、健全な育ちをもたらすものではありません。

    心理学における「自己決定理論(Self-Determination Theory)」(デシとライアン)では、人間の健全な動機づけは「自律性(自分で決めている感覚)」「有能感(できるという感覚)」「関係性(つながりの感覚)」の3つが満たされることで育まれるとされています。

    「見られているからきちんとする」という価値観は、この3つのうち「自律性」を根本から損ないます。自分の内側からではなく、外側からの視線によって行動が決まる子どもは、誰かに見られていないときに行動が崩れやすくなります。これはまさに、前回お伝えした「外発的動機づけ」の弊害です。

    幼児期に育てたいのは、「見られているからきちんとする」ではなく、「誰も見ていなくても、自分でよい行動を選べる」という内側からの力です。

    「見られてるよ」の代わりに使いたいことば

    では、同じ場面で、どのようなことばをかければよいのでしょうか。具体的な代替表現をご紹介します。

    ① 行動そのものの意味を伝える

    「見られてるよ」→「待っているときも、素敵な姿でいようね」

    なぜそうするのかの意味を伝えることで、子どもは「言われたからやる」ではなく「そういうものだから自分でやる」という感覚を持てます。

    ② 子どもの内側に問いかける

    「見られてるよ」→「自分が一番かっこいいと思う待ち方、どんな感じかな?」

    外側からの評価ではなく、自分自身の基準で考えさせることで、自律的な行動が育まれます。

    ③ できていることをさりげなく認める

    「見られてるよ」→「みんな、素敵に待てているね」

    禁止や警告ではなく、できていることを認めることで、その行動が自然に強化されます。

    ④ 場の雰囲気を穏やかに整える

    「見られてるよ」→「そろそろ始まるよ、気持ちを整えようか」

    緊張感を与えるのではなく、切り替えを促す穏やかな声かけが、子どもの心を自然に準備状態へと導きます。

    ⑤ 待機時間は「休む時間」として認める

    「見られてるよ」→(何も言わず、子どもが自然に過ごせる時間を確保する)

    待機時間は、子どもにとっての貴重な息抜きの時間です。この時間まで緊張感で満たすことは、子どもの心の余白を奪います。何も言わず、静かに見守ることも、立派な関わり方です。

    ⑥ 受験の文脈で伝えるなら

    「見られてるよ」→「先生たちはね、みんながどんなことを考えているか、知りたいと思っているんだよ」

    「監視されている」ではなく「関心を持たれている」というポジティブな文脈で伝えることで、受験への構えが萎縮ではなく、自己表現へと向かいます。

    休憩時間の「ことばのない関わり」が、子どもを育てる

    授業前の待機時間や休憩時間は、子どもが自分のペースで心身を整える大切な時間です。

    この時間まで「きちんとしなさい」「見られてるよ」という言葉で満たすことは、子どもから「ほっとできる瞬間」を奪います。幼い子どもにとって、ほっとできる時間があるからこそ、次の活動への集中力が生まれます。

    発達心理学における「自己調整(self-regulation)」の研究では、子どもが自分で気持ちを整える力は、緊張感のない環境でこそ育まれることが示されています。常に外からの圧力にさらされている子どもは、自分で気持ちを切り替える力を育てる機会を失います。

    指導者のことばが、子どもの価値観をつくる

    幼児期の子どもにとって、先生のことばは非常に大きな影響力を持ちます。毎週、あるいは毎日のように接する指導者のことばは、繰り返されるうちに子どもの価値観の一部になっていきます。

    「大人に見られているからきちんとする」という価値観と、「自分がそうしたいからきちんとする」という価値観では、その後の人生における行動原理が根本的に違います。

    前者は、監視がなくなれば崩れる行動です。後者は、誰も見ていなくても続く行動です。

    幼児期に育てたいのは、間違いなく後者です。そしてそれは、指導者が日々どんなことばを選ぶかによって、大きく左右されます。

    保護者の方へ――ことばの環境を見極める目を持ってください

    幼児教室を選ぶとき、カリキュラムや合格実績だけでなく、先生が子どもにどんなことばをかけているかにも、ぜひ目を向けてみてください。

    「見られてるよ」が頻繁に聞こえる教室より、「素敵だね」「自分でできたね」「どう思う?」ということばが自然に飛び交う教室の方が、子どもの内側から育つ力を大切にしていると言えます。

    ことばは、子どもの心の環境をつくります。その環境が、受験の結果だけでなく、お子さんのその先の長い人生の土台をつくっていることを、どうか忘れないでいただけたらと思います。


     
     
    小学校受験を中心に、中学・高校・大学受験まで、指導歴40年。現場の目線から、等身大のことばで発信しています。塾や学校からの情報に加えて、セカンドオピニオンとして気軽にお読みいただければ幸いです。横浜FMarinosサポーター。

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