
友達がとうとう自然現象になった話(エッセイ)
その方は、SNSの頭痛コミュにいる。
お話の好きな方で、よく話しかけてくれるし返信もしてくれる。
特に、人を傷つけるような事はないのだが、句読点が一切なく、独特の言葉遣いで、しかも繰り返しが多い。
解読不能で、読むたびに悩んでしまう。
まぁ何が何でもコミュニケーションを取らなければならない立場でも相手でもないので、関わらなければ良いだけなのだが、目につくので、つい読んでしまう。
その方は、お金に困っているわけではない。家族に不満があるわけでもない。ただ頭痛についての所感を綴っているだけ。文章に問題がある以外は至って平和な人なのだ。
だからというのもあり、別に軽い対応で良さそうだ、まぁ疲れちゃうんだからしょうがないよなぁって、マナーに反しない範囲で、短く返信はするが、積極的には関わらないようにしていた。
だが、その文章の乱れを大変なストレスに感じ、ミュートしてしまおうという人がいた。
何がそんなに気になるの?
と私は聞いてみた。
「えー⁉︎
だって、あれ読むの嫌じゃない?」
そりゃ楽しくはないけど、悪気はなさそうだし、愚痴っぽいだけで人を傷つけたりしない。平和そうな人じゃないの。
「。。。」
私はね、あの方が投稿なさると、あぁ今日も元気だ彼女のレギュラーだ、平和そうでよかったって思うのよ。
「えー!!」
……その後彼女は、バッサリその方を切った。
やっぱり切ったか。
とは思わないでもなかったが、なんでそんなに人のことが気になるのか、私には謎だった。
その後、しばらくして、私も彼女に何の予告もなくバッサリと切られた。
なるほど、そう来たか。
きっと何か気に入らないことがあったのだろう。
そんなことがあったのはコロナ禍の前で、すっかり忘れていた。
今日ちょっとしたことから、古い友達のことを思い出した。
その子は、聞きしに勝るものすごい世間知らずで、本気で自分が何でもできて、誰よりも優秀だと信じて疑わなかったのだろう。
18才くらいの時に、彼女の家に遊びに行った。
おいしいアサリのパスタをご馳走すると言われ、張り切って作ってくれた。
一緒に行った友達と2人で、ひと口食べた。
あさりはジャリジャリ、パスタはお世辞にもアルデンテとは言えない硬さで歯が立たなかった。
すぐにペッと吐き出して、「これ味見した?」と聞いた。
彼女はえっ?と驚き、口に入れて、少し慌てて全部流しに下げてしまった。
別の日、また同じメンバーで彼女の家に遊びに行った。
じゃあ「今日は私が作るわ」と言って、長年本格的なイタリアンの本を読み、試行錯誤を重ね、家族やお友達に大評判のおいしいトマトパスタを、ささっと作った。
あの時も、大満足の出来だった。
すると彼女は、それを勢いよく平らげて、まじまじと私の顔を少し横目で見て、悪いことをした人をたしなめるような表情でこう言った。
――私が1番だと思った。
ん?
何?
この子何言ってんの?
意味不明。
理解不能。
お手上げ。
ごちそうさまでもなく、ああ美味しかったでもなく??
私のCPUでは、解析不能である。
健康被害を出すレベルのものを食べさせておいて、
私が1番?
何が?
根拠は?
これ以上考えると、ひどい頭痛になりそうなので私は一旦思考停止とした。
次は、子供のママ友だった。
子供同士が仲が良く、何度か一緒に遊びに行きお茶したり、楽しい時を過ごした。
そしてある日突然、それはまた来た。
――私が1番だと思ってた。
またか!
またこのセリフか!!
――あなたは私より、返しが深くて早い。そんなの私が1番だと思っていたのに。
と、こう来た。
世界は広い。上にも下にも大勢いる。それはどんな分野においてもそうであるというのが、一般的な世界認識ではないか。
なのに、「私が一番だと思う」なんて摩訶不思議なことが何故起きる?
またしても、その論理的矛盾のあまりの理不尽さに、私の脳はショートし、思考停止した。
そして月日は経ち、私は自他ともに認める結構なオバになった。
昨夜ちょっと考えるとまた脳がショートしそうな事例に出くわした。
私は思った。
もう若くないんだから、生真面目に根拠を探ったりしたら、どうせまたひどい頭痛になるのがオチだ。
だからここはもう諦めて、素直にエコでオバモードを発令しよう。
もう民主的でなくたっていい。
根拠を追求して、公平さを期さなくてもいい。
何より大切なのは、私の頭が、今夜無事であることだ。
そうだ、あの日、頭痛コミュのあの方を、空は青く、草は緑、犬はワンワン、猫はニャーと鳴く、そういう自然現象だと認識したように、
「すべての理解不能な人たちの言動は、自然現象だと認識することを、
私は誓います!!」
と、あの『風と共に去りぬ』のスカーレットオハラがアトランタの空に誓ったように、
片頭痛の特効薬トリプタン錠を固く握りしめ、頭に響かないように、そっと誓った私であった。