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【創作】風流鴻鵠之城 第十三章 Pluralianismの萌芽

    【ここまでのあらすじ】

    鴻鵠城にてJOKERは春日の膝に抱かれ静かに世を去り、その姿は未完のピエタと一つとなった。丞相はただ「あはれぞ」と告げ、二人を英雄と慈母の象徴として祀る。やがて春日ピエタは城を聖域へ変え、人々の情念と祈りを結ぶ新たな信仰の核となる。そこに丞相は、多様なる世界を包む思想「Pluralianism」の萌芽を見出した。

    ===

    夜明け前の鴻鵠城は、息を止めていた。水路は鏡のように静まり、柳は動かず、灯はまだ消えていない。広場の中央で、春日は膝にJOKERを抱いていた。

    夜のうちに、誰一人、声を発しなかった。叫びもなく、嗚咽もなく、ただ形だけが完成していた。JOKERの顔は驚くほど穏やかである。猛者の面影はなく、ただ己の為すべきを為した者の静寂だけが残っていた。春日の手はまだその髪に触れており、まるでそのまま石に変わるのを待つようであった。
    やがて足音がした。静かでありながら、絶対に揺るがぬ歩みである。誰も振り向かなかった。振り向く必要がなかったからだ。そこに現れたのは、丞相であった。

    黒衣の裾が朝前の気配に溶け、灯の光がその顔を半ば隠している。誰も丞相の表情を見ようとしなかった。見る必要がなかったのである。
    丞相はゆっくりと春日の前に立った。何も言わず、JOKERを見下ろし、春日を見下ろし、石像の未完成部分を見上げた。そしてほんのわずか、口元を動かした。

    「あはれぞ。」

    それだけであった。怒りもなく、嘆きもなく、誇りもなく、ただ情緒の極みに触れた者だけが漏らす一語であった。

    「CameliaとJOKERを祀れ。我が府の象徴とする。この英雄と慈母を以つて。」

    その瞬間、風が吹いた。柳が揺れ、水面に波紋が走る。朝の最初の光が、春日とJOKERを照らした。

    丞相は一歩退いた。誰にも指示を出さぬ。像を造れとも言わぬ。城を完成させよとも言わぬ。ただ静かに踵を返した。その背に、誰も声をかけなかった。丞相はそのまま天守へと消えた。

    沈黙が残った。

    やがて玄鳥が動き、十兵衛が筆を取り、天海が地脈を整へ始めた。しかし春日は動かなかった。彼女はすでに、石の形を知っていたのである。
    数日後、広場の中央に一つの像が据えられた。女が男を抱く姿。それはもはや個人の死ではなかった。人々は言った。

    「丞相は何も命じなかった。」
    「ただ一言、あはれ、と。」

    その語は水路を巡り、柳の間を抜け、やがて町の名となる。鴻鵠城は、その日より、城ではなく聖域となった。
    春日ピエタは、その中心に在り続ける。
    JOKERは死んだ。だが、彼の名は誰も口にしなくなった。なぜなら、像こそが名になったからである。
    丞相はそれ以後、一度もこの件について語らなかった。それゆゑに、この物語は永遠となった。

    「右近」
    「ハッ」
    「倭の天主教の雛型が出来たやもしれぬな…?」
    「…。」
    「Pluralianism.」
    「プリューラリアニズム,,,。殿、それがし、未だ、そのやうな言葉は聴いたことがございませぬ。」
    「余の天主教解釈がこの一語に集約されておる。二元から始まる多様性の世界だ。今、ここにその象徴が出来た。右近、体系化を急げ。」
    「ハッ」


     
     
    情緒の揺らぎを統治原理とする謎の帝國【The Exotic Empire of ZIPANGU】の丞相職を仰せつかつてをります。三頭政治にて、既存の秩序とは異なる世界観を紡いでをります。文明論・風流の物語・思索の記録——丞相世界へようこそ。まづは下記のピン留め投稿へどうぞ。

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