
13.生成した空間に溶けてゆくように
半分寝たままで一階に降りていったら、目の前の光景にハッとした。
明るく細長い空間に奥まで続くテーブル。人々が座って朝食を取っているが、そこに見える風景はまさにアレで生成された画像そのものだ。そこに自分が紛れ込んでしまったのかと錯覚するくらいの。
(つまり上の写真は実際だ。)
その時の感覚は、生成された端正な風景を見た時ような、奇妙で拒絶したい違和感だ。かみ合っているが何かが違う…ような感じの。
現実の空間を前にしてそれが嘘のように感じてしまうきまり悪さ。食べる人々の笑顔も所作もなんだか似ていて、私はやはり造り出された空間に立っているのかと思ってしまう。

ここはホテルの食堂だ。果てしない部屋の連続、同じ造りの部屋、同じ色のベッドで一時的に生活をする場、こんな巨大な空間がこの町にある事を知らなかった私は戸惑う。
とにかく朝食を取りに行く。パンを食べようと見ると、同一物体の連続が私が感じた違和感を更に強調させる。「無数に溢れかえるパン」というプロンプトを流したかように、コピペされた同じパンが幾つも積まれている。この非多様性はなんなのだろう。仮想的なパンをほおばってみると、たしかにパンの味がする。寝ぼけていただけかもしれない。

幻影にまどろみながら朝食を終えて表に出ると、これまた絵を描かせたような光景が広がっていた。均衡と調和のとれた色と線の構成。秋の風を肌に感じているが、見ているのはモニター越しの風景と変わらない。
芝生に近づいてゆく。風が運んでくるのは石油施設特有のあの匂いだけで、緑を感じない。手に触れると理解する。人工芝だ。頭が混乱する。
現実なのにこの強烈な違和感はなんだろう。そもそもこの町で感じられるはずの風景から乖離した目の前の「写真」
少しずつ、その生成の内側へと現実が引きずり込まれてゆく。

建物に戻って窓に目をやると、そこには生成システムの片鱗が連続していた。かろうじて現実だと信じられるのは、バグのようにその連続性に歯向かって点となる人間がいたからだ。片鱗は駐車場で生成され、そして消去を繰り返している。私はどこに立っているのかわからなくなる。


何かがおかしいと思いながらも町へ出る。違和感の原因がはっきりしてきた。そうだ、ここが仮想空間に取り込まれつつかるからなんだ。

住民数を遥かに凌駕する「生成された市民たち」が町の主体となって久しいが、その仮想現実がどんどんこの町を浸食してゆく。学校がホテルに、映画館がスーパーに変わり、床屋が消え、大学生の住む安アパートは民泊施設で埋まった。

もはや生きるのに不便なこの町で生きられるのは、高齢化した住民か歴史的資産に興味を持つ富裕層しかいなくなりつつある。労働者は島の外からやってきて仕事が終われば島から帰ってゆく。住民が必要な商売は消去されてゆき、観光客という仮想市民が求める水流がこの町を動かすエコ・システムの原動力となった。
膨大な富が循環しているが、そのレイヤーに住民が介在する余地はない。生成が生成を生み出してシステムの高速回転が始まる。

ここは数世紀に渡る観光地だ。かつて中東への聖地巡礼者が出発した場所でもある。もともと島しかなかったこの小さな国が地中海を覇権を握り、その過程で多くの人が訪れた。だからこれはなにも目新しい事ではない。
だがこの加速と減速の相互作用の帰結は、人が生きる場所から「遊楽地」という生成された空間領域に急速に転換される事を意味している。不可逆的に。



システムは仮想空間の中で仮想の市民を適合させる。レストランの優雅な価値観はとてつもない価格によって人を現実に引き戻させ、路上に座ってカップのパスタをすすりながら仮想体験をさせる商売が生み出された。このスタイルが映え、長蛇の列がこれを求めて並んでいる(この店じゃないけど)その風景の連続性は、仮想空間の淵に立たされているようだ。
伝統や文化などの非効率的なスタイルは瓦解してゆき、一瞬で生成されるアイデアへと書き換わる。町の本質は無視され、ただ風景の複写と仮想市民自らを際立たせる背景としてだけこの町は価値を与えられてゆく。
誰が悪いのかという話ではない。観光客は日々生成され、そこにいる実感もなく数日で消去されてゆく。

「町をリスペクトして。ピクニックや座り込みはしない、階段や地面に座らない、橋の上で通行人の邪魔をしない」

駅でオリエント急行を見かける。過去の遺産が突然無機質なホームに舞い込んできた驚きも生成ベースで考えれば、なんてことはない。生成すればなんでもありなのだ。
連続する車両から数十名の似たような客が降りてくる。富裕層と見受けられる高齢の男女が、自力で汗だくになってスーツケースを運んでいる。高級列車は一泊数十万円する非現実性の塊だが、生成された果てしない高級感のイメージと、汗だくになってスーツケースを運ぶ富豪の姿は、仮想世界の中のパラドックスとして映った。

システムによって増殖した仮想世界の渦は、いつしか現実世界の淵を超えて私たちを飲み込んで、私たちは新世界の住人となる。それから端正な風景の中で朝食を取るのだ。
黄昏の色だけがやけにリアルに感じられた。



※ 筆者の主観によって書かれていますので、必ずしも正しい解釈ではないかもしれません。また作成するにあたり情報収集などでAIを使用しています。