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【短編小説】永遠に眠る

    小牧幸助さんのシロクマ文芸部の企画に初めて参加させていただきます!
    素敵なお題をありがとうございます!


    月を見る。
    金曜午後6時のスーパーを出ていちばん最初に、ほとんどまんまるの月を見る。南東の山のずっと上のほうに、電球みたいな明るさのお月さまがぷかぷか浮かんでいる。
    今日は、スーパーの入口でススキが売られていた。一本150円。嘘だあ、と思った。こんな山あいの田舎町で、ススキなんて至るところに生えている。わざわざ150円で買わなくたって、そのへんで刈ってくれば売るほどあるのに、ススキの入っていた業務用の大きなバケツは、ほとんど空になっていた。
    中秋の名月と言うやつを、みんな楽しみたいんだろう。さっきも和菓子コーナーで、値引きされた白くて小さなお団子が、夕食後のデザートに買おうかどうしようか迷っている間に最後の1パックが売れていった。仕方がないので、私は白玉とあんこの乗ったプリンを生菓子コーナーでカゴに入れた。
    今年の名月は満月ではないらしい。けれど何らかのご利益はありそうな気がして、心のなかでははあ、と頭を下げて車に戻る。
    後部座席に荷物を置き、エコバッグの中からクエン酸入り炭酸ジュースのペットボトルを取り出した。運転席に移り、エンジンをかけるなりためらいなく蓋を開けて口に含む。しゅわしゅわ、ぱちぱちとした感触がよくて酸っぱくて、頬の奥がきゅっとすぼまる感じがする。いまこの瞬間、きっとたぶん、黄色のビタミン成分が全身に染み渡っていると思う。このままコルチゾールも洗い流してくれよと、私は願う。

    職場でひとり、見送った。見送るというのはつまり亡くなったということで、その人は99歳で世間的には大往生だった。ここしばらくずっと、バイタルも少しずつ低下してきて毎日ほとんど眠っていて、いつ何が起きてもおかしくない状態だった。それはご家族にも連絡済みで、ある程度は心の準備ができていたように見えた。
    エンゼルケアを施してからだを清め、衣類や入浴道具などの荷物は今日のうちにご家族に引き取ってもらった。霊柩車に乗る故人を頭を下げて見送る。カルテの最後には「永遠とわに眠る」と書かれた。とわにねむる。激動の人生を生き抜いた人だけに許される、主治医からの最後の労りの言葉のように思える。
    眠りから目が覚めたとき、暖かくて清らかで柔らかい場所にいられたらいいと思う。長いあいだ離ればなれだった人たちと再会して、賑やかに暮らしていてくれたらいいと願う。でもたまに、この世のことも思い出してくれたら残された人もきっと嬉しい。この世の人が故人を思うとき、その人の上に花が降るそうだから、たくさんたくさん花が降って、寂しくならなければいい。そしていつか、私も向こうへ。

    おやすみなさい。またいつか。

    しゅわしゅわのペットボトルをホルダーに置き、私はギアをドライブに変えた。

     終


     
     

    羊

     
     
    書くことが好きです。 '24魔法のiらんど「香り×思い出」コンテスト佳作。'25ことりっぷ×note「私のこだわり旅」コンテスト優秀賞。'26チャレがや杯2026 4位&特別賞。

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