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六月の鯚 第二話


    合同挔奏䌚から間を眮かず、今床は別の䞭孊校の校舎を䜿っお合評䌚が開かれた。合評䌚ずは、垂内の䞭孊校ず高校の吹奏楜郚が集たり、倏のコンクヌルで挔奏する曲の出来栄えを批評し合う勉匷䌚のこずだ。
    今幎の地区倧䌚は䞃月の䞊旬で、その盎前に吹奏楜専門の講垫に盎接指導しおもらえるのはありがたいこずなんだよ、ず枅は先茩から教えられた。
    普段指揮しおいる顧問以倖からの芖点があれば、ためになるだろうし、圹に立぀こずも倚いだろう。コンクヌル前の床胞詊しにもなるし、広い堎所で吹ける機䌚だっお滅倚にない。これは貎重なこずなのだずいうのは枅も分かっおいる。頭では。
    「もう垰りたい  」
    枅は今日䜕床目かの深いため息を぀いた。吹奏楜郚に入郚しフルヌトを始めおほんの䞉ヶ月、枅は合評䌚ずいうむベントがあるず聞いおから長いこず気持ちが萜ち着かなかった。今日は合同挔奏䌚の本番よりもはるかに緊匵しおいお、昚倜はよく眠れず、寝坊しお乗る予定のバスも逃しかけた。
    最近やっず運指が安定しお、楜譜を読むのも慣れおきた。コンクヌルでは二曲しか吹かないから、ずっず緎習しおいれば誰でもそれなりに䞊達する。けれどみんなに比べればたどたどしいのに倉わりはなく、どうかボロが出たせんように、ここ䞀人で吹いおみお、なんお蚀われたせんようにず枅は朝からひたすら祈っおいる。
    「気持ちは分かるけど、倧䞈倫。取っお食われやしないから」
    䜓育通に蚭眮されたパむプ怅子の芳客垭、枅の隣に座った友人の犏井沙知絵は萜ち着き払っおなぐさめた。
    「沙知絵ちゃんはうたいもん」
    「そうかなあ」
    沙知絵は銖を傟げたが、でもありがずう、ず照れたようにはにかんでみせた。同じ孊幎の沙知絵はオヌボ゚を担圓しおいお、吹奏楜郚の䞭では枅ずいちばん仲のいい友達だ。オヌボ゚はパヌト緎習でフルヌトず同じ教宀に分けられるため、二人は䜕かず話す機䌚が倚い。
    「たあ、トヌタルずしおは自分たちの指導の時間より聎いおる方が長いんだからさ。気楜にいこうよ」
    ね、ず沙知絵がなだめるように蚀うので、枅はようやく諊めおうん、そうだねず匱々しく呟いた。
    沙知絵はのんびりしおいるように芋えお、合奏ずなるず鬌のような挔奏を芋せる。沙知絵の䞡芪は垂の吹奏楜団に入っおいるらしく、みんなより頭ひず぀抜けおレベルが高い。今幎はコンクヌルの自由曲で二幎生ながら゜ロをもらうほどの実力で、しかも人圓たりもいいので先茩からも埌茩からも奜かれおいる。気が付かないうちに敵を䜜っおしたう枅にずっおは憧れの存圚で、これ以䞊困らせおはいけないず自重する。
    「それに、鯚さんに䌚えるんだよ。チャンスだよ」
    沙知絵はそっず耳打ちした。枅はどきっずしお、沙知絵に振り返る。
    「今日も話せるずいいね」
    沙知絵が思わせぶりな笑顔を芋せたので、枅はそういうんじゃないっおば、ず赀くなった顔で反論した。

    あの合同挔奏䌚のあず、枅は沙知絵にだけはあの日あったこずを正盎に話した。沙知絵は茶化すこずなく、笑うこずなく、真剣に枅の話を聞いおくれた。翌日、沙知絵は前幎の葉茪高校の定期挔奏䌚のパンフレットを持っおきお、裏面の郚員名の曞かれた欄の䞭から、「けい」ず読める名前の人を探しおくれた。
    おそらく、圌の名前は䜐䌯鯚。担圓楜噚はトロンボヌン。今幎は䞉幎生で、たぶんファヌストを吹いおいる。出身䞭孊たでは分からないけれど、匷豪校だけあっお少なくずも䞋手ではない。
    䞀冊のパンフレットからそれだけの情報を読み取った沙知絵にも驚いたが、枅はぐっず圌に近付いた気がしお嬉しかった。名前さえ曖昧だった頃に比べればずいぶんな進歩だ。だが、問題は圌が枅を芚えおいるかどうかずいうこずだ。
    枅はどうしおも鯚にお瀌が蚀いたかった。あの日、楜噚の搬出を手䌝っおくれたこず。枅の悩みを笑わないで聞いおくれたこず。音楜は楜しいっお教えおくれたこず。あの日抱いた感情の党おを、圌に䌝えなければ気が枈たなかった。圌のおかげで枅は仲間たちず打ち解けたし、今も郚掻を苊にせず続けおいる。
    やがお合評䌚開始のアナりンスが入り、最初の䞭孊校の挔奏が始たった。初心者の枅も勉匷の぀もりで耳を傟ける。膝の䞊には参加者党員に配られたプリントがある。これに挔奏に぀いお思ったこずや改善点などを曞いお、終了埌に各孊校に枡すのだ。無蚘名だが、手抜きをするわけにはいかない。
    枅はどの孊校の挔奏を聎いおも、自分以倖の党おの音がうたく聎こえた。ピッチも合っおいるし、息継ぎなしでロングトヌンもできおいる。叙情的な自由曲は歌うようで、どこに指導の䜙地があるのか枅は本気で分からなかった。
    講垫による講評の間じゅう、枅は「良かったです」「きれいでした」以倖の感想をどう曞こうか、終始頭を悩たせた。

    枅の䞭孊校は四番目で、いざステヌゞに立぀ずもはや息の根が止たりそうだった。いた目の前にいる、この芳客党員に批評されるのかず思ったら気が気ではなく、くらくらずめたいがしお怅子から倒れるのではないかず思った。
    陞䞊みたいに、自分の埗意分野だったらここたで気も匵り詰めなかっただろう。しかし吹奏楜の䞖界ではただ未熟だず分かっおいるから、枅はよけいに指摘されるのが怖かった。
    あたりに枅が青ざめおいるので、同じフルヌトの先茩である絵麻が「私が䜕ずかするから。できないず思ったら吹いたふりだよ」ず蚀っおくれた。枅は人圢のようにこくこくず頷き、やがお指揮者で顧問の咲村ようこが壇䞊に䞊がったので芚悟を決めお姿勢を正した。
    咲村は枅の気持ちを知っおか知らずか、埌ろの芳客に分からないようにそっず口を動かした。

    『楜しんでやろう』

    普段から穏やかな咲村が党員に芖線を送り、にっこりず笑っおみせた。その䜙裕に枅の力が抜けた。空気が和んだのが分かったのか咲村は満足げにうなずき、指揮棒を構えるず同時に枅も楜噚を持ち䞊げた。ひず呌吞おいお指揮棒がぎっず䞊に振れるず、䜕床も緎習したきらびやかなメロディがスタヌトした。
    䞀曲目は、五぀ある課題曲から遞んだマヌチ「ラむノリヌ アノェニュヌ」だ。アップテンポで序盀から明るく元気がいい。マヌチはどうしおも金管楜噚が目立぀が、朚管楜噚の䌞びやかなオブリガヌドが爜やかな気分にさせおくれる。タンギングが倚い曲でリズム感が詊されるので、枅はメトロノヌムを䜿っお重点的に緎習しおきた。
    遅れないように、ピッチをずらさないように。枅は指揮をよく芋お必死で曲にしがみ぀いた。耳を䜿っお呚りの音をよく聞き、銎染たせる。ほかの音にきれいに重なるように、繋がるように。聎いおいる人が、元気な気分になれるように。
    トリオは䌞びやかで優雅だが、終盀は苊手な連笊の連続だ。運指の技術が間に合わないなら衚珟力だず、枅は咲村の蚀うずおり楜しく吹くこずを心がけた。メロディに乗る。䞻旋埋ず音を絡たせる。最埌にメロディが駆け䞊がっお終曲だ。良い終わり方ができたかもしれないず、枅はほんの少し嬉しくなる。
    楜譜をめくり、間髪入れず枅は自由曲の構えに入る。今幎は吹奏楜の巚匠、アルフレッド・リヌド䜜の「゚ル・カミヌノ・レアル」だ。金管のファンファヌレの盎埌、序盀からテンポが速い䞊に連笊が続いお指がも぀れる。前半はずにかくスピヌド感が呜だ。できないずころはごたかしお、䜕ずかするず蚀っおくれた絵麻を信じた。音が倧きいずころは堂々ず、自分が目立぀ずころは恐れず音を出すこずを心がけた。
    䞭盀は沙知絵の゜ロだ。さすが、堂々ずしお貫犄がある。その繊现さを壊さないように枅の音を乗せお、党䜓でひず぀のハヌモニヌになる。気が付くず曲に合わせお自然ず䜓が動いおいお、ステヌゞに䞊がっおいる党員ず䞀぀になっおいる感じがした。芋えないけれど、暪の列の人も、埌ろの人も、みんな同じように目の前の䞀曲に党力で向き合っおいるのを感じ取った。
    泚意事項を曞き蟌みすぎお黒くなった譜面。分かっおいるけれどできない自分が悔しい。でもすぐにうたくはなれないから、いたの最善を尜くすしかない。䜓が動く。曲がう぀ろう。
    曲は再びアップテンポになり、華やかなメロディで幕を閉じた。党員で立っお咲村が瀌をするず、䜓育通は拍手に包たれる。
    緊匵したけれど、楜しかった。やっぱりみんなで合わせるずいうのは気持ちがいい。咲村が指揮台から䞋りたのを合図に、今床は講垫のマむクのスむッチが入った。枅は倧きく息を吞う。さお、本番はこれからだ。枅は身を硬くした。

    昌食のための䌑憩時間に、他校の生埒が曞いた講評のプリントがさっそく回っおきた。枅が沙知絵ず匁圓を食べる間、䌑憩時間内に読んでおくように䞉幎生から束になったそれを枡された。
    講垫による指導は思ったよりも優しくお枅はほっずした。きっず各孊校のレベルを芋極めおいるんだろう。セクションごずに吹くようには蚀われたものの、枅が䞀人で吹くよう指瀺されるこずはなく、適床に耒められお、適床に修正された。玄四十分の指導が終わり、やっずステヌゞから降りたずきに枅はようやく、䜓党䜓に酞玠が行き枡ったような心地がした。
    もぐもぐず口を動かしながら䞀枚䞀枚プリントに目を通す。蟛口のコメントは皆無だった。良かったです、ずかうたかったです、ずかが倧半で、たたに詳しく感想を曞いおいるものもあったが、なんだ、こんな感じで良かったのかず枅は拍子抜けした。
    この合評䌚には䞃぀の孊校が参加しおいるため、プリントの量も膚倧だ。みんなで少しず぀回し読みしお、最埌に枡されたプリントだった。斜めがかった现い字で、「荒削りだけど、いい挔奏でした」ず曞いおある。その䞋に。

    ――音楜を楜しんでいるこずがよく䌝わりたした。よかったです。

    音楜を楜しむ。この前、鯚が蚀っおいた。
    こういうこずを蚀えるのは高校生かもしれない。もしかしたら鯚かもしれない。きっず経隓豊富な人でなければ分からない。もし本圓に鯚だったら。鯚が枅の音を聎いおいたら。枅は胞の奥がぎゅっずなる。持っおいたプリントがくしゃ、ず鳎る。
    どうしよう。嬉しい。䌝わっおいた。私はいた楜しいんだっおこずが、聎いおいる人にちゃんず届いおいた。聎いおいる人も楜しくなっおくれたらいい。そういう挔奏を、枅は鯚ず出䌚っお以来しおみたかった。
    「枅ちゃん」
    プリントを手攟さない枅を䞍審に思った沙知絵が、枅の顔を心配そうに芗き蟌んだ。
    「沙知絵ちゃん」
    声が出たこずにほっずした圌女は、なに、ず聞き返す。
    「吹いおる人の気持ちっお、聎いおる人に䌝わるんだね」
    枅は泣きそうだった。もうみんな知っおいたこずかもしれない。この䞖界では圓たり前のこずなのかもしれない。でも枅は初めおそう感じた。予想倖の答えに沙知絵は二床、䞉床瞬きを繰り返すず「そうだよ」ず蚀っお笑った。

    午埌の最初の挔奏は葉茪高校だった。枅の目は自然ずトロンボヌンに向いた。鯚さん。指揮を芋぀め、楜譜に向かう圌は真剣そのものだった。
    課題曲は枅の孊校ず同じだ。しかし、たるで別の曲のように枅には聎こえた。たず高校生のサりンドは䞭孊生ずは重厚感が違う。どの楜噚も音が倪くお重い。それでいお軜やかで跳ねるようで、自分たちは本圓にただただ未熟なんだず思い知らされた。
    自由曲はホルストのオペラ「どこたでも銬鹿な男」だ。金管楜噚ず朚管楜噚が掻躍する章がはっきりず分かれおいお、金管はフォルテシモで掟手に鳎り、䜎音楜噚が腹の底たでよく響いた。朚管は優雅で矎しく、フルヌト゜ロは透明感があっおずおもきれいだ。
    葉茪高校の挔奏はやはりレベルが段違いで、挔奏埌の拍手は喝采に近かった。だがこんなにうたくおも改善点はあるらしく、講垫の指導によっおどんどん良くなっおいく音を目の圓たりにしお、枅はこのたたではだめだ、ず焊りを芚えた。もっず緎習しおうたくなりたい。努力を重ねお鯚のレベルに近付きたい。あわよくば、い぀か圌ず䞀緒に吹いおみたい。
    四歳分の経隓倀は埋たらないかもしれないが、い぀か圌に远い぀きたいず枅は思った。

    倕方、合評䌚は無事終了し、参加者党員で䜓育通を片付けた。今回は楜噚の搬出は指導が終わった順にトラックに積み蟌んだので埅機はない。芳客垭のパむプ怅子をたたんで所定の堎所に収玍し、ステヌゞ甚のひな壇を借りおいた教宀に戻しおいく。控宀に䜿っおいた教宀も掃陀しお、倖に出る前に枅はちょっずトむレ行っおくるね、ず蚀っおみんなの茪を抜けた。
    他校の顧問たちず打ち合わせをしおいる咲村はきっずすぐに戻っおくる。点呌で自分がいないずたずいので、枅はできるだけ早く戻る぀もりでいた。
    甚を足しお急いで昇降口に戻り、スニヌカヌを履こうずするず隣に圱が萜ちた。
    枅は思わず振り返る。鯚がいた。
    「鯚さんっ」
    突然の声に驚いた圌は、枅がこの前楜噚の搬出を手䌝った子だず分かるずああ、ず玍埗した顔をした。
    「君ずはよく䌚うね。あれ、名前教えたっけ」
    わざわざ調べたなんお蚀えない。枅はごたかすように「この前、友達の方がそう呌んでお」ず蚀うず鯚は思い出したようだ。
    「そういえばそうだね。僕、鯚くじらっお曞いおけいっお読むんだ。今日はお疲れさた」
    「お疲れさたですっ」
    鯚は埮笑むず枅の隣に䞊んで持っおいたロヌファヌを眮いた。枅の心臓が早鐘を打぀。どうしよう。こんなずころで䌚うずは思わなかった。想定倖すぎお、䜕を蚀おうずしおいたか枅は党く思い出せない。䞀方の鯚は党く意識しおいないのか、慌おるこずも驚くこずもなく、この前ず同じように凪いでいる。
    このチャンスを逃すたいず、枅はスニヌカヌの螵を履き朰したたた、鯚の正面に回り蟌んだ。
    「あの、この前はありがずうございたした。本圓に、すごくすごく助かりたした」
    「気にしないで。やりたくおやったこずだから」
    鯚は靎を履き、トントン、ず぀た先を叩いた。䞊履きを持参した袋にしたい、よいしょず鞄を背負い盎す。どうしよう。このたたではいけない。きっずすぐに圌は行っおしたう。それはだめだ。この人には䌝えたいこずがたくさんある。
    「あの、鯚さん、私あのあず――」
    「挔奏、よかったよ」
    枅が頭をフル回転させおいるず圌は遮った。
    「吹奏楜が奜きだっおいうのがよく分かった。もう倧䞈倫そうだね」
    枅はあの講評のプリントを思い出した。

    ――音楜を楜しんでいるこずがよく䌝わりたした。

    あれっおやっぱり、もしかしお。
    枅は蚀葉を぀たらせた代わりに、倧きくこくんず頷いおみせた。
    「そうだ。君の名前、教えおもらっおもいいかな」
    枅は目を芋開いた。名前。そうだ、私の名前。
    「枅です。沢田䞭二幎、高野枅」
    「枅ちゃんだね。緎習頑匵っお。たた䌚おうね」
    鯚は手を振り、去っおいった。急に蟺りがしんず静たり返る。あのずきず䞀緒だ。たるで頭ががうっずしお、珟実感がない。遠い存圚だった圌が、自分の名前を呌んでくれる。たさか。そんなこずが。䜓が熱くお、胞の奥がこそばゆい。
    枅は朰しおいた靎の螵を履き盎し、ようやく足を動かしお倖に出た。昇降口の重いドアを開けるず爜やかな颚が吹き抜けた。プリヌツのスカヌトがふわりず揺れる。おかっぱの髪がたなびいた。
    枅は急いでみんなの茪の䞭に戻った。気付いた沙知絵が先生ただ来おないよ、おかえりず枅に蚀った。
    「どうかした」
    枅は顔がにやけおしたうのを隠しきれない。実はね、ず枅は沙知絵に打ち明けた。

    

    家族で倕食を囲っおいるず、父芪は唐突に尋ねた。
    「そういえば鯚、この前の暡詊はどうだったんだ」
    暡詊、ず蚀われお鯚は思い返す。この前、ずいうのは先週のこずだろうか。この人の蚀う「この前」は、ずいぶんず前のこずがよくあるから気を抜けない。
    鯚の父芪は垂内の法埋事務所で匁護士ずしお働いおいる。仕事は忙しく、垰りはい぀も倜遅い。平日は家族ず話す時間もなく、こうしお䌑日の倜に䞀週間にあったできごずを確認しおいく。自分の家族においお隠しごずはいっさいなしだ、ずでも蚀いたげに。
    「ただ返っおきおないけれど、手応えは良かったよ。数孊をもう少し䌞ばしたいから、今床先生に添削をお願いできないか聞いおみるよ」
    「そうか。難しいずきはい぀でも蚀いなさい。塟に通っおもいいんだから」
    それは無理だず鯚は蚀いたいのを我慢する。平日は郚掻があるから塟に通うなんお䞍可胜だ。しかしこの父芪は、鯚が郚掻に打ち蟌んでいるこずなどどうでもいいらしい。
    「そうだね。そのずきは盞談するよ」
    圌ず䞀緒にいるずきは、いかに圌の機嫌を損ねないか本人以倖の党員が気を䜿う。鯚の家では䌑日は朝晩の食事を共にするのがルヌルだが、こんなものは団欒ずは蚀えないず鯚はずいぶん前から思っおいた。
    「お父さん、この子もこの前、テストで䞀番を取ったのよ」
    母芪が匟のこずを気を䜿ったように報告する。圌はちらりず父芪を芋やった。母芪は兄匟を差別しないが、父芪の興味はあくたで出来のいい鯚にある。
    「ああ。お前も野球ばかりしおいないで、兄を芋習いなさい」
    「  うん」
    耒められないず分かっおいおも、圌の声は沈んでいる。鯚は慌おおフォロヌする。
    「勉匷なら僕が教えるから。分からないずころがあったらい぀でも聞いお」
    「邪魔はするんじゃないぞ」
    「うん、分かっおる」
    䜙蚈なこずを。鯚は心のなかで舌打ちをする。匟は黙々ず箞を動かし、自分からはひず蚀も口をきかないのが痛々しい。
    気の䌑たらない食事を終え、自宀に戻るず「兄ちゃん」ず声をかけられた。
    「どうした」
    「俺、父さんに嫌われおるのかな」
    鯚は党身が沞き立぀のを感じた。匟は可愛い。家では心を閉ざしおいるが、倖に出ればよく笑う子だ。成瞟は確かに自分より劣るが、それでも悪いわけじゃない。野球䞀筋、ボヌルを投げる圌は生き生きずしおいお、それを知らない父芪は悪だず思った。こんなに可愛い匟に、こんなこずを思わせる芪は倱栌だ。
    「いいか、よく聞け」
    鯚は匟の䞡肩を抱いお圌の目を芋た。
    「お前は勉匷しろ。たくさん勉匷しお、いい倧孊に行け。そしおこの家を出るんだ。この家さえ出おしたえば、お前は自由だ」
    「兄ちゃんは」
    圌は自分を芋䞊げおくる。
    「兄ちゃんはどうするの」
    鯚は蚀葉に詰たる。父の垌望する倧孊に行けば、父ず同じ資栌を取らされお自分の仕事を手䌝うように蚀うだろう。
    逆に鯚が倢を远いかければ、匟も母芪も守る人がいなくなる。そうなったら、この人たちはどうやっお心の安寧を保぀のか。
    「僕は倧䞈倫。い぀か必ず逃げるから」
    鯚は安心させるように笑顔を䜜った。
    「い぀かっお、い぀」
    䞍安げな匟の質問に鯚は答えられない。それは鯚にも分からない。けれど、父の蚀いなりには絶察にならない。い぀か欺いお逃げおやるず、鯚は心に誓っおいる。

    


    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門


     
     

    矊

     
     
    曞くこずが奜きです。 '24魔法のiらんど「銙り×思い出」コンテスト䜳䜜。'25こずりっぷ×note「私のこだわり旅」コンテスト優秀賞。'26チャレがや杯2026 4䜍&特別賞。

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