
魔王に「若者が本を読まない」と相談したら、王国の図書館が全部「好き」から始まる場所になりました
「若者が、本を読まんのです」
人間の王国から来た使者は、魔王城の応接室で深刻そうに言った。ちびたぬきは、差し出された書状を二度読み返した。

そして首をかしげた。
「……私、魔王だよね?」
隣でタツたぬきが、赤い帽子のつばを上げる。
「とうとう王国も、魔王に図書館相談するようになったんじゃのう」
前回は「魔王と縁を切れ」と言われた勇者である。
世の中、変われば変わるものだ。
数日後。
二人が王都へ着くと、十月中旬の風が金木犀の香りを運んできた。街路樹はまだ緑を残しながら、ところどころ赤や黄色へ変わり始めている。
王立図書館は立派だった。
高い天井。
磨かれた床。
壁一面の本棚。
――そして、若者がいない。

「どうにかしてほしい」
国王の横で、重臣が胸を張った。
「すでに我々は対策を考えている。十五歳以上の国民には、毎月三冊の読書を義務づける」
ちびたぬきの耳がぴくりと動く。
「さらに読後感想文を――」
「それ、本を嫌いになるやつじゃない?」

しん。
広い図書館が静まり返った。
タツたぬきが顔を覆う。
「王様相手でも言うんじゃな……」
「だって、本を読ませたいんでしょう? 本を嫌いにしてどうするの?」
重臣の眉が吊り上がった。
「では魔王殿には、何か名案が?」
「うん。まず、聞いてみる」
「何を?」
ちびたぬきは、図書館の外にいた若者たちのところへ歩いていった。
「本、好き?」
返ってきたのは、困ったような顔だった。
「じゃあ、何が好き?」
少し間があった。
やがて一人が言った。
「……野球」
「私はお菓子作り」
「旅」
「服」
「星を見るのが好き」
「恋愛の話なら、ちょっと」

声が増えていくたび、ちびたぬきの頬がゆるむ。
「ほら。いっぱいある」
「何がじゃ?」
タツたぬきが尋ねる。
「本への入口」
その日、王立図書館の一角から、分類番号はいったん消えた。
代わりに小さな札が並んだ。
『野球が好きな人へ』
『おいしいものが好きな人へ』
『どこか遠くへ行きたい人へ』
『恋って面倒だけど気になる人へ』
『夜空をずっと見ていられる人へ』
タツたぬきは本の山を抱えながら笑った。
「図書館いうより、ちびたぬきの頭ん中みたいになっとるぞ」
「いいじゃん。探しやすいでしょう?」

ところが、様子を見ていた重臣が口を挟んだ。
「しかし、これでは名作を読まずに終わる者もいる」
ちびたぬきは、一冊の古い本を手に取った。
しばらく表紙を眺めてから、静かに棚へ戻す。
「今、読まなくてもいいでしょう?」
「なんだと?」
「本には、読む人を待てる時間があるから」

窓の外で風が吹いた。
色づき始めた葉が一枚、硝子の向こうを横切る。
そのときだった。
ずっと入口に立っていた少年が、おそるおそる近づいてきた。
「あの……星のことが書いてある本、ある?」
ちびたぬきは笑った。
説明もしない。
説得もしない。
ただ一冊を選び、差し出した。

少年は窓辺の椅子へ座った。
ぱらり。
一ページ。
もう一ページ。
気づけば、別の若者も棚へ近づいていた。
金木犀の香りを含んだ秋風が、開いた窓からそっと入り込む。
夕暮れが早くなった十月の王都で、図書館だけが少しずつ明るくなっていった。
帰り際、国王が言った。
「魔王殿。この方法を、ほかの町にも広げられないだろうか」
ちびたぬきの目が輝いた。
「じゃあ、『好きから始まる図書館』を王国中に――」
その瞬間、タツたぬきが振り向いた。
「待ちんさい」
「なに?」
「一つの図書館を何とかする話じゃったよな?」
「うん」
「王国中って聞こえたんじゃが」
ちびたぬきは鞄から紙の束を取り出した。
「もう企画書、書いたよ?」
「早すぎるじゃろ!」

赤くなり始めた並木の向こうで、王都の鐘が鳴る。
魔王領の人口を増やした魔王は今度、人間の国の「好き」まで増やそうとしているらしかった。
おしまい
この話はここから始まりました。
調子に乗って続編も書きました。
10月20日には第二回読書推進委員会に出席するので、いろいろと考えていたら、こんなドンピシャの内容になりました。
この作品も、また、わかモンさんのプロンプトで作りました。
すっかりハマってしまいました。設定が私のキャラクターから離れないのがいいですね。
追記
まだまだ宮崎は暑いです。
そんなとき、今の支えがこれ。
相方と一本を半分ずつ、氷🧊をぎっしり入れたグラスに入れて飲んでいます。
美味しい😋
生き返ります。
クエン酸の力。
たらちゃん、ありがとう😊


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