
「そっか、あの時も」第3話 英会話講師2回目(後編)
2012年。
講師育成トレーナーになった。
決められた授業を、
決められた水準でできる講師。
劣らない。
とがらない。
標準である講師を育成する仕事。
自分だけの授業、
自分だけのカリキュラム。
とがることが許されなかった。
マニュアルに沿って、
新人講師に授業の進め方を教える。
新しい教材が出れば、
その特徴や使い方を説明する。
講師だけではない。
営業担当者も私の新しい教え子。
数百人の前に立って話すこともあった。
会場だけではなく、研修をオンラインでつなぐ。
東京。
名古屋。
画面の向こうにも、たくさんの人がいる。
全国に向けて、私が話しかける。
そのとき思った。
これ。
俺、前よりかっこいい。
人気講師だった頃も、
一人で調子に乗っていた。
今度は規模が違う。
一つの教室ではない。
何百人もの前で話す。
自分が説明した教材を、
全国の営業担当者が使う。
自分が研修した講師が、
各地の教室で授業をする。
また、しっかり調子に乗った。
こんな仕事なら。
もっと前からやっとけばよかった。
そう思った。
――そして今。
次に目を開けたとき。
私は、まだ、とがった講師だった。
2008年ごろ。
教室の中と外での温度差を感じ始めた時期。
ちょうど、そのころだった。
自分だけの教室を抜け出し、
それまで近づくことのなかった本部へ行った。
「講師育成のトレーナーをやらせてください。」
理由は、立派なものではない。
もっと早く、
あの仕事をやりたかった。
もっと早く、
大勢の前で話したかった。
それだけ。
ずっと調子に乗り続けたかった。
でも。
少しずつ、
『俺、すごい!』と思う時間が減っていった。
研修した新人講師が、初めての授業を終えた日。
「授業、うまくできました。」
「でも、まだ今日は授業で精いっぱい。」
「先生が言ってた、生徒を見るっていうの。」
「次はもっとやってみます。」
営業担当者が、新規入学希望者を次々と獲得した日。
「ぜひ、ここで勉強したいって、」
「生徒さんに言われました。」
「今日は、いつもより生徒さんの話を、」
「ちゃんと聞けた気がします」
トレーナーとして、
各地の教室を訪問することも多かった。
そこには必ず、知った顔があった。
「生徒さんに、授業わかりやすいって、」
「今日、言ってもらえました。」
「楽しかったと言いながら帰る、」
「そんな生徒さんが増えました。」
以前なら、
私が褒められることがうれしかった。
いつからかはわからない。
誰かが嬉しそうに報告してくるのを聞くのも、
悪くないと思い始めていた。
営業担当の新入社員が初日に受ける研修。
毎回、私が担当することになった。
ある日、体調不良で休む講師の代わりとして、
京都方面の教室に向かった。
そこには、巣立っていった新入社員がいた。
「えっ、実際に授業もされる方だったんですか?」
「というか、すみません。英語話せたんですね。」
「営業の研修を担当されてたから、」
「営業だけの人だと思ってました。」
そう言われて、少し笑った。
これはこれで、悪くないな。