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「そっか、あの時も」プロローグ

    (この物語は「フィクション」です。)


    暑い。
    それ以外の言葉が、思いつかなかった。

    真上には太陽。
    照り返しの強い道路を、自転車で走る。

    前から来る風。
    ドライヤーを当てられているようだった。

    それでも、ペダルを踏む。

    もう何度も走った道だ。
    夏の自転車にも慣れている。

    汗なら、いくらでもかく。

    顔から首へ。首から胸へ。
    腕には細かな汗の粒が浮かんでいた。

    ボトルを手に取り、水を飲む。

    冷たかったのは最初だけだ。
    もう、ぬるい。

    危ない。
    熱中症になる。
    やめておいた方がいい。

    周りからはいつも心配されている。

    でも。
    自分だけは大丈夫。

    暑さには強い。
    今までも、こうやって走ってきた。

    「あと少し。」

    脚も動いている。
    息も苦しくない。

    信号を越えたあたりだった。

    景色が、少し揺れた。
    道路の白線が、ゆっくり左右に動いて見える。

    ハンドルを握り直す。

    頭の中だけが、妙に静かだった。
    体が、少し傾いている気がする。

    車の音が遠い。
    蝉の声が急に止む。

    ペダルを踏んでいる感覚が薄れていく。

    ブレーキを握ろうとした。
    左手に、力が入らない。

    視界の端から、ゆっくり光が消えていく。

    そのとき。
    なぜか、笑いたくなった。

    調子乗ってたなー。
    この暑さ、無茶だったな。

    ずっと調子に乗ってたなー。
    あの時も。


     
     
    tkです。 20年以上、英語教育に携わっています。 教材・アプリ・小説・漫画を制作。 Project Traverseとして、 「読む・観る・学ぶ」をつなぐ 新しい学習体験に挑戦中です。

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