
ADLは自立してるのに、退院できない?― 脳梗塞後に見逃されがちな認知的要素とチームの臨床推論 ―
ケーススタディ
1. はじめに:ADL自立=退院OKではない現実
「この方、歩けるしトイレも自分で行ける。もうすぐ退院だね」
そんなふうに、私たちは“自立”という言葉を、時に表面的に使ってしまうことがあります。ADL(日常生活動作)の点数が高くなり、FIMスコアが改善され、移動もトイレも自立している。そんな患者さんを「そろそろ退院準備に入ろう」と思うことはごく自然です。
しかし、実際には「ADL自立なのに、なぜか退院できない」というケースが存在します。しかも、それは理学療法士としての“評価の目”を鍛える貴重な経験になります。
今回紹介するのは、左橋梗塞を発症し、運動機能が軽度の障害にとどまったAさんのケースです。表面的には“軽症”に見える一方で、退院の話がなかなか進まず、チーム全体が違和感を覚えるという展開になりました。
リハビリは単に運動機能を回復させるものではなく、「生活に戻す」ためのものです。そのためには、認知機能・高次脳機能・環境・家族の支援力など、さまざまな因子を評価しなければなりません。
この記事では、Aさんの臨床経過を追いながら、見逃されがちな高次脳機能の障害、そしてその背景にある社会的因子までを含めた臨床推論を紹介していきたいと思います。