
幼少期の習い事、何を選ぶ?発達研究から考える「本当に大切なこと」
「そろそろ習い事を始めたほうがいいのかな?」
「ピアノ、スイミング、英語、体操……。うちの子には何が合っているんだろう?」
子どもが2〜3歳ごろになると、習い事について考え始める家庭もあるのではないでしょうか。
周りの子が英語教室に通い始めたり、ピアノを習っていたりすると、「うちの子も何か始めたほうがいいのかな」と気になることもありますよね。
せっかく始めるなら、子どもの成長につながる経験をさせてあげたい。
そう考えるのは、自然な親心だと思います。
ただ、ここで一つ考えてみたいことがあります。
幼少期の習い事は、早く始めたり、たくさん経験させたりするほどよいのでしょうか?
発達研究を見ていくと、音楽教育には認知能力への効果を示す研究がある一方で、課外活動の効果は子どもの特性や活動への参加状況によって異なる可能性も示されています。
また、子どもの成長を支える経験は、習い事だけで得られるものではありません。
今回は、幼児期の音楽教育、課外活動、自由遊びに関する研究をもとに、習い事の選び方を考えてみます。
※この記事では、主に就学前の子どもを想定しています。
この記事の要点
* 音楽教育は、幼児の実行機能に良い影響を与える可能性がある。
* 習い事の種類や数を増やせば、すべての能力が伸びるとは限らない。
* 子ども主導の自由遊びにも、発達を支える重要な役割がある。
* 習い事を選ぶときは、効果だけでなく、子どもの興味や生活とのバランスも考えたい。
それでは、研究結果を一つずつ見ていきましょう。
1.音楽を習うと、子どもの「考える力」は伸びる?
幼少期の習い事として、ピアノやリトミックなどの音楽教育を思い浮かべる方も多いと思います。
では、音楽を学ぶことには、どのような効果があるのでしょうか。
研究①:音楽教育と実行機能の関係
Lu、Shi、Musibの3名は、2025年に発表した研究で、3〜6歳の子どもを対象とする音楽教育の研究を集め、メタ分析を行いました。
メタ分析とは、複数の研究結果を統計的に統合し、全体としてどのような傾向が見られるのかを検討する方法です。
分析対象となったのは10研究です。
その結果、音楽教育を受けた子どもたちは、比較対象の子どもたちと比べて、次の3つの能力で統計的に有意な差を示しました。
能力 効果量(SMD) どのような力?
抑制制御 0.38 衝動を抑え、行動をコントロールする力
ワーキングメモリ 0.35 情報を一時的に覚えながら考える力
認知的柔軟性 0.23 状況に応じて考え方や行動を切り替える力
いずれも、音楽教育を受けたグループのほうが平均的に良好な結果を示しました。
つまり、この研究は、幼児期の音楽教育が、実行機能と呼ばれる認知能力の一部に良い影響を与える可能性を示しています。
出典:Lu, Shi & Musib(2025)
では、ピアノを習えば頭がよくなる?
ここは慎重に考える必要があります。
今回の研究で検討されたのは、抑制制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性という特定の能力です。
将来の学力やIQ、社会的な成功まで向上することを証明したわけではありません。
また、分析対象となった研究では、音楽教育の内容や実施期間、頻度などが異なっていました。
そのため、「ピアノを習えば、どの子も頭がよくなる」と結論づけることはできません。
それでも、音楽教育が認知能力の発達を支える可能性は、興味深い知見です。
音を聴く、リズムを感じる、動きを調整する、次の展開を予測するといった活動には、さまざまな働きを組み合わせる場面があります。
こうした経験が、特定の認知能力に関係している可能性が考えられます。
ただし、音楽教育の効果を期待するあまり、子どもが楽しめているかどうかを見失わないようにしたいですね。
音楽が好きなら、ピアノやリトミックを体験してみる。
まだ教室に通う必要性を感じないなら、親子で歌ったり、音楽に合わせて体を動かしたりすることから始めてもよいでしょう。
大切なのは、研究結果を習い事選びの参考にしながら、目の前の子どもにも目を向けることです。
2.習い事は、たくさん経験させるほどいい?
英語、ピアノ、スイミング、体操、知育教室。
魅力的な習い事がたくさんあると、できるだけ多くの経験をさせたくなることもあると思います。
では、習い事の種類を増やすことは、子どもの発達にどのような意味を持つのでしょうか。
研究②:課外活動と学習準備の関係
Renらは2023年に、中国・上海の幼児317人を対象として、課外活動への参加と学習準備との関係を検討しました。
ここでいう課外活動とは、教室などで行われる、一定の構造を持った活動を指します。
研究では、活動の種類の広がりや参加の程度と、子どもの学習準備に関係する能力との関連が分析されました。
その結果、課外活動の種類の広がりは、行動調整の力や学習への取り組み方が比較的弱い子どもにおいて、初期の算数能力と正の関連を示しました。
つまり、課外活動への参加と発達との関係は、すべての子どもで同じではない可能性があります。
さらに、この研究では、行動調整や学習への取り組み方に課題がある子どもについて、課外活動への参加頻度が高い場合、受容語彙との間に負の関連が認められたことも報告されています。
受容語彙とは、聞いた言葉の意味を理解する力です。
ただし、この結果から「習い事を増やすと語彙力が下がる」と結論づけることはできません。
あくまで特定の子どもの特性や活動への参加状況によって、関連の仕方が異なったという結果です。
また、対象は中国・上海の幼児であり、日本の家庭にそのまま当てはめられるとも限りません。
出典:Ren, Wu, Fan & Li(2023)
習い事の数だけでは、子どもの経験は分からない
この研究から考えたいのは、習い事の種類や数だけで、子どもの成長を判断することは難しいという点です。
たとえば、次の2つの生活を想像してみましょう。
Aさん
* 週に複数の習い事に通っている。
* 移動や準備で忙しく、家で自由に遊ぶ時間が少ない。
* 疲れていて、習い事に行くのを嫌がることがある。
Bさん
* 週に1種類の習い事に通っている。
* 家では積み木や絵本、ごっこ遊びを楽しんでいる。
* 興味を持った遊びに、じっくり取り組める。
この例だけで、どちらの子どもが優れているとは言えません。
習い事の種類や数が違っても、そこで得られる経験や家庭での過ごし方は異なります。
また、習い事の数が多いこと自体が悪いわけでもありません。
子どもが複数の活動を楽しみ、無理なく生活できているなら、それも一つの選択です。
大切なのは、数を増やすこと自体を目標にしないこと。
子どもが楽しんでいるか、生活に無理がないか、ほかの経験をする時間も残っているか。
こうした視点も持っておきたいですね。
3.習い事を増やす前に知っておきたい「自由遊び」の価値
ここまで読むと、「それなら、習い事よりも家で遊ばせておけばいいの?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、習い事と自由遊びは、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
それぞれに異なる価値があります。
研究③:遊びは、子どもの発達と親子関係を支える
2007年、米国小児科学会の臨床報告が『Pediatrics』に掲載されました。
この報告では、遊びが子どもの認知、身体、社会性、情緒の発達に関係することや、親子のつながりを育む機会になることが論じられています。
また、学習や習い事などの予定が増えることで、子ども主導の自由遊びが減ってしまうことへの懸念も示されています。
ただし、これは習い事と自由遊びを直接比較した実験ではありません。
自由遊びのほうが習い事より優れていると証明したものではなく、子どもの生活の中で遊びの時間を確保する重要性を示した報告です。
出典:Ginsburg(2007)
積み木遊びの中にも、さまざまな経験がある
たとえば、2〜3歳の子どもが積み木で遊んでいる場面を想像してみてください。
高く積み上げようとしたら、途中で崩れてしまう。
もう一度積み直してみる。
今度は横に並べて、車が通る道を作ってみる。
しばらくすると、積み木を別のものに見立てて、ごっこ遊びが始まる。
大人から見ると、ただ遊んでいるだけに見えるかもしれません。
しかし、子どもは遊びの中で、自分なりに考えたり、試したり、工夫したりしています。
* 自分で遊び方を考える。
* うまくいかなかったときに別の方法を試す。
* 思いどおりにならない経験をする。
* 大人やきょうだいと遊びを共有する。
* 自分の興味に合わせて活動を変える。
もちろん、積み木遊びをすれば特定の能力が必ず伸びると証明されているわけではありません。
それでも、子どもが自分で遊び方を選び、試行錯誤できる時間には、習い事とは異なる価値があります。
子どもの成長につながる経験は、習い事の時間だけにあるわけではありません。
だからこそ、習い事を選ぶときには、自由に遊べる時間も大切にしたいですね。
4.では、幼少期にはどんな習い事を選べばいい?
ここまでの研究を踏まえると、「どの習い事が一番いいのか」という問いに、すべての子どもに当てはまる答えを出すことは難しいと分かります。
そのうえで、子どもの興味や生活に合わせて、選び方を考えてみましょう。
① 音楽やリズムに興味があるなら、音楽系
ピアノ、リトミック、音楽教室などが候補になります。
音楽教育については、幼児期の実行機能に良い影響を与える可能性を示したメタ分析があります。
ただし、すべての教室やレッスンで同じ効果が得られるわけではありません。
まずは、歌や手遊び、リズム遊びなど、家庭でできる活動から試してみるのもよいでしょう。
子どもが楽しんでいるなら、体験教室に参加してみるのも一つの方法です。
② 体を動かすのが好きなら、運動系
スイミング、体操、ダンスなどが候補になります。
運動系の習い事を選ぶなら、子どもが安心して体を動かせる環境か、年齢に合った指導が行われているかを確認しましょう。
また、運動経験を得る方法は、教室に通うことだけではありません。
公園で走る、ボールを転がす、音楽に合わせて踊るなど、家庭や地域でできる活動もあります。
③ 言葉や物語が好きなら、英語教室や絵本も候補に
英語教室や幼児教室に興味を持つ家庭もあるでしょう。
ただし、今回紹介した研究からは、幼児期に英語教室へ通うことが、将来の英語力や学力をどの程度高めるかについて、具体的な結論を出すことはできません。
英語に親しむことを目的にするなら、歌や絵本、遊びなど、子どもが楽しめる方法から始めることもできます。
また、絵本が好きな子どもなら、図書館に通ったり、親子で読み聞かせを楽しんだりすることも、言葉に触れる機会になります。
④ まだ好きなことが分からないなら、急いで決めなくてもいい
子どもの興味は、成長とともに変わっていきます。
今は音楽に夢中でも、数か月後には体を動かすことに興味を持つかもしれません。
反対に、最初はあまり関心がなかった活動を、何度か経験するうちに好きになることもあるでしょう。
まだ好きなことが分からない場合は、さまざまな遊びや体験に触れることから始めても構いません。
体験教室などを利用しながら、子どもの反応を観察してみましょう。
大切なのは、早く一つに決めることよりも、子どもに合った活動を少しずつ見つけていくことです。
5.習い事を始める前に、確認したい5つのこと
最後に、習い事を選ぶときのチェックポイントをまとめます。
ここで紹介するのは、研究で効果が確認された基準ではなく、子どもの興味や生活を踏まえて判断するための実践的な目安です。
チェック①:子ども自身が興味を示しているか
「この子にはピアノがよさそう」と大人が思っても、本人は体を動かすほうが好きかもしれません。
体験教室に参加したときの表情や、終わった後の反応を観察してみましょう。
ただし、初めての場所では緊張してしまう子どももいます。
一度の反応だけで決めつけず、子どもの様子を見ながら判断することが大切です。
チェック②:年齢や発達段階に合っているか
同じ年齢でも、興味や集中できる時間、集団活動への慣れには個人差があります。
年齢だけでなく、子どもの様子に合った内容や指導方法かどうかを確認しましょう。
チェック③:親子ともに無理なく通えるか
習い事は、教室で過ごす時間だけでなく、移動や準備にも時間がかかります。
送迎に無理がないか、食事や昼寝、就寝時間に影響しないかも考えてみましょう。
通い続けることが大きな負担になるなら、別の教室や活動方法を検討してもよいと思います。
チェック④:自由に遊ぶ時間が残っているか
習い事を始めたことで、子どもが自由に遊ぶ時間がほとんどなくなっていないでしょうか。
予定のない時間には、子どもが自分で遊びを選び、試行錯誤する機会があります。
毎日を予定で埋めるのではなく、何も決まっていない時間も大切にしたいですね。
チェック⑤:親が期待する成果だけを重視していないか
「将来のために」「小学校に入る前に」と考えると、つい成果を求めたくなることがあります。
もちろん、目標を持つこと自体が悪いわけではありません。
ただ、幼児期には、できることを増やすだけでなく、楽しむことや、自分からやってみようとする気持ちも大切です。
子どもが楽しめているか、少しずつ挑戦できているか。
結果だけではなく、そこに至る過程にも目を向けてみましょう。
6.習い事に通わなくても、子どもの成長を支える経験はできる
習い事について調べていると、「何かを始めなければ、成長の機会を逃してしまうのではないか」と感じることがあるかもしれません。
しかし、子どもの成長を支える経験は、教室の中だけにあるわけではありません。
たとえば、家庭でも次のような経験ができます。
絵本を一緒に読む。
子どもが気になったページで立ち止まったり、知っている言葉を口にしたりする時間を楽しむ。
積み木やブロックで遊ぶ。
作り方を教えすぎず、子どもが自分で試したり、失敗したりする時間を見守る。
買い物や料理を一緒にする。
「どっちにしようか?」「これは何色かな?」と話しながら、身近な物や言葉に触れる。
公園で体を動かす。
走る、跳ぶ、ボールを転がす、自然を観察するなど、身近な環境でさまざまな経験をする。
こうした活動は、特別な教材や高額な費用がなくても始められます。
もちろん、家庭での遊びと専門的な指導を受ける習い事は同じものではありません。
それぞれに異なる良さがあり、家庭の状況や子どもの興味に応じて組み合わせることができます。
習い事をしているかどうかだけで、子どもの成長を判断する必要はないのです。
まとめ|習い事選びで大切なのは、早さや数だけではない
今回は、幼少期の習い事について、発達研究をもとに考えてきました。
今回紹介した研究からは、次のことが分かります。
* 音楽教育は、幼児期の抑制制御やワーキングメモリなどに良い影響を与える可能性がある。
* 課外活動と発達との関係は、子どもの特性や活動への参加状況によって異なる可能性がある。
* 自由遊びも、子どもの発達や親子関係を考えるうえで重要な経験である。
* 特定の習い事が、すべての子どもにとって最善だと示す十分な根拠はない。
習い事を選ぶとき、周りの子どもと比べたり、「今から始めないと遅れてしまうのでは」と焦ったりする必要はありません。
まずは、子どもが何に興味を持っているのかを観察してみる。
そして、親子の生活に無理のない範囲で、楽しめそうな活動を試してみる。
そんな始め方でもよいのではないでしょうか。
子どもの成長のためにできることは、習い事を増やすことだけではありません。
一緒に絵本を読んだり、公園で遊んだり、子どもの「やってみたい」に付き合ったりすることも、日々の大切な経験です。
習い事をするかどうかだけにとらわれず、子どもが安心して過ごし、興味を広げていける環境を考えていきたいですね。
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参考文献
1.音楽教育と幼児の実行機能
Lu, Y., Shi, L., & Musib, A. F.(2025).
Effects of music training on executive functions in preschool children aged 3–6 years: systematic review and meta-analysis.
Frontiers in Psychology, 15, 1522962.
DOI:10.3389/fpsyg.2024.1522962
2.幼児期の課外活動と学習準備
Ren, L., Wu, H., Fan, J., & Li, L.(2023).
Behavioral regulation and approaches to learning: Moderators of the association between extracurricular involvement and academic readiness.
Journal of School Psychology, 101, 101250.
DOI:10.1016/j.jsp.2023.101250
3.遊びの重要性と親子関係
Ginsburg, K. R., & the Committee on Communications and the Committee on Psychosocial Aspects of Child and Family Health.(2007).
The Importance of Play in Promoting Healthy Child Development and Maintaining Strong Parent-Child Bonds.
Pediatrics, 119(1), 182–191.
DOI:10.1542/peds.2006-2697