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Photo bymasaru12

角度と角運動量の不確定性関係は成り立たない。

    量子力学では、2つの物理量の量子揺らぎの間に不確定性関係というものが成り立つことが知られています。たとえば実数軸上を運動する粒子の位置座標の量子揺らぎΔxと、その粒子の運動量の量子揺らぎΔpの積は、換算プランク定数ℏの半分より小さくなれません。このことからの帰結の1つとして、運動量の量子揺らぎを零にしようとすると、位置の量子揺らぎが無限大に発散することがわかります。つまり位置と運動量の双方の量子揺らぎを同時に零にできる量子状態は存在しません。

    位置と運動量は互いに正準共役な関係にあります。これは位置演算子と運動量演算子が下記の交換関係を満たすことを意味しています。

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    (1)式:位置と運動量の正準交換関係

    この形の交換関係は、角度と角運動量の間でも、一見成り立ちます。以下では、半径1の円周状の点を角度θで指定をする、下記のような座標系を考えてみましょう。ここで、θ=0とθ=2πは同一視します。

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    図1:単位円上の角度座標系

    この円周上に、下記の周期境界条件を満たす波動関数の集合を考えます。

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    (2)式:周期境界条件

    この場合には下記のように角運動量演算子と角度演算子を導入できると、素朴におもうかもしれません。

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    (3)式:角運動量演算子と角度演算子

    すると、(1)式と同様に、

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    (4)式:角度と角運動量の正準交換関係

    が、形式上は成り立ちます。これが正しければ、粒子の位置と運動量の不確定性関係と同様の関係が成り立つはずです。

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    (5)式:角度と角運動量の不確定性関係?

    しかし、これは間違っているのです。

    たとえば、下記のようにnを整数として角運動量の固有波動関数を考えてみましょう。

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    (6)式:角運動量の固有波動関数

    この場合、角運動量の値は正確にnℏという値になります。

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    (7)式:角運動量の固有値方程式

    したがって、この固有波動関数では角運動量の量子揺らぎΔLは厳密に零です。ですから、もし(5)式の不確定性関係が成り立つのならば、角度の量子揺らぎは発散するはずです。

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    (8)式:発散するΔθ?

    しかし、ここで角度変数の領域を0から2πにしてやると、この角度座標は円周上の全ての領域を覆っています。したがって量子揺らぎΔθは、たかだか2π程度であるはずです。なので、Δθが発散するわけがありません。実際に、角運動量の固有関数に対してΔθを評価してやれば、

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    (9)式:角運動量固有関数に対する有限のΔθ

    となって、有限の値を持ちます。つまり、(5)式は間違っているのです。では、どこがおかしかったのでしょうか?それはNを整数としたときの、角度変数の下記の周期性

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    (10)式:円周上の点の周期的同一視

    が演算子レベルで反映をされてなかったのです。たとえば、周期境界条件を満たす関数に、このθをかけて得られる関数は、もう同じ周期境界条件を満たしません。つまり、「θをかける」という操作は、円周上の波動関数がなすベクトル空間内部では、閉じた演算子にはなっていないのです。このため、θの演算子が正確には自己共役演算子(物理で言うところのエルミート演算子)になっていなかったのが原因です。

    これを改善するには、円周上の各点を表す周期関数の組を考えればいいのです。たとえば、cosとsinという2つの三角関数はもちろん(9)式の周期性を自動的に満たしています。

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    (11)式:周期性を満たす三角関数

    これを使って、

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    (12)式:単位円上の点を指定する2つの座標変数

    という2つの座標変数を導入してみます。図2のように、この座標変数で単位円上の各点は一意に指定できます。

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    図2:2つの三角関数で一意に指定される単位円上の点

    この2つの変数に対応する演算子は(2)式の周期境界条件を満たす波動関数の集合に対して、ちゃんとした演算子(つまり、数学での自己共役作用素、もしくは物理でのエルミート演算子)になっています。そして

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    (13)式:X,Yと角運動量Lの交換関係

    という交換関係から、角度と角運動量の不確定性関係の正しいバージョンとしての

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    (14)式:X,Y,Lの不確定性関係

    が成り立ちます。このように角度を扱えば、量子力学でも特に問題は起きません。

    それから(12)式のX,Yを考える利点として、期待値の評価が分かりやすくなることがあります。たとえば、Δ(x)をデルタ関数的にx=0近傍だけに局在した波動関数とします。そして図3のように、εを無限小として

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    (15)式:θ=0付近に局在した波動関数の例

    という波動関数を考えてみます。

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    図3:θ=0にほぼ局在しているはずの波動関数

    この関数はθ=0付近にだけ集中をした分布を与えるのですが、その期待値を計算してしまうと

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    (16)式:間違った直観を与える期待値

    という、円周の真裏のθ=πという地点の値を与えてしまうのです。これは大変不便です。ところが(12)式のXとYを使えば、ほぼ

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    (17)式:正しい直観を与える期待値

    となり、きちんと波動関数が局在していることと整合した期待値を得ることができるのです。

    ここでは、2つの実数のXとYを考えましたが、これを図4のように1つの複素数にまとめるのも便利です。

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    図4:複素数変数としての角度座標

    このあたりについては、下記記事も参照してください。


     
     
    量子情報物理学の研究者です。著書に『入門現代の量子力学 -量子情報・量子測定を中心として-』(講談社サイエンティフィク)『量子情報と時空の物理』(サイエンス社)。質問はMONDで。(https://mond.how/ja/hottaqu)Twitter: @hottaqu

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