
ブラックホールの中では時間と空間が入れ替わるのか?
ブラックホールの不思議を語られるとき、「事象の地平面内部では、時間と空間が入れ替わる」と言われることがあります。しかし、これはあまり正確ではありません。正しくは次のことを言っているだけです。たとえば対称性が高いシュワルツシルト座標系での計量テンソルにおいて、地平面外部の時間座標tは地平面内部では空間座標になり、外部の空間座標rは地平面内部では時間座標になるというだけです。物理として「時間」が「空間」になったり、「空間」が「時間」になったりしているわけではありません。
具体的にこれをみてみましょう。事象の地平面の半径を
と書くと、シュワルツシルト計量は
で与えられます。ここでcは光速度です。計量テンソルの各成分はrだけに依存していて、tや角度変数には依っていません。ですのでこのブラックホールが持っている時空の対称性が見えやすくなっている座標系です。そして計量テンソルの(tt)成分の符号から、地平面外部ではtが時間座標系になっていることが読み取れます。ですから地平面外部ではt、つまり時間に依存しない静的な解であり、かつ角度変数にも依存しない球対称な解です。
ところが地平面内部だと、下の式のように(tt)成分と(rr)成分の符号が反転してしまい、tは空間座標、rは時間座標になっています。
これが誤解を与える「時間と空間が入れ替わる」という間違った文章の起源になっています。しかし、計量テンソルの各成分は時間rにだけ依存しているので、地平面の中では一様等方宇宙のような時空になっていることを意味しているだけの話です。図1では地平面外部でrが一定の世界線と、内部でrが一定の世界線を表示しています。

時間座標rが正の値から0に近づくにつれて、時間一定面(つまりrが一定の面)としての空間は時間変化します。角度方向についてはその半径が0に収縮しつつ、空間座標t方向にはどんどんと空間が伸びていく時空です。ちょうど細いチューブがどんどんと伸びながら、半径方向にはつぶれている形です。そして下記の有限の時間Tが経過すると、時間一定面のチューブは完全につぶれ、時空の特異点に至ります。
したがって、これはビッグバン宇宙が時空特異点から始まって膨張する歴史を辿るのと、ちょうど逆になっています。一様収縮宇宙がつぶれて特異点に至る解なのです。

ただそれだけであって、地平面内部の空間が時間になったり、時間が空間になったりしているわけではありません。むしろ事象の地平面の中には、無限の広がりを持った一様等方宇宙が広がっているというイメージが正確なのです。